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新たに異世界へと旅立った四人の子供達。
彼らのゆく手にはどんな冒険が待ち構えているのか。
そしてどんな運命が待ち構えているのか――。
ゾディアックファンタジー
作:佐倉信輔



第四章 異世界その2  第一部 獣人の国 その1


 まぶしい光を浴び続けてどのくらい経ったのだろうか。
 自分は今何処にいるのだろうか。
 どこでもない空間を、ただ漂っているような気分がしてならない。
 何も感じないのになぜか温かいような気がする。
 母親のお腹の中というのは、ひょっとしたらこんな感じなのだろうか――。ふと、そう感じた。
 やがて、意識は静かに遠のいてゆく。まるで、パソコンの画面がフェードアウトして消えていくように――。
 このまま自分はどこに流れていくのだろう――。一体どこへ――。

 龍也はゆっくりと目を開けた。
 かなり遠くに天井が見える。石造りの簡素だが重厚そうな作りの天井だ。
 気絶して保険室にでも運ばれたのかな――。しかし、それにしては変だ。学校の天井は石造りなんかじゃないし、こんなに高くはなかったはずだ。
 周りを見渡してもやっぱり石造りの壁が広がっている。一つの石片が幅一メートル、高さ数十センチ近くもあるような巨大な石を規則正しく積み上げて作られた建物らしい。テレビでよく見る中央アジアの山岳民族の民家に似ているような気もする。
「おお――、気が付きなすったかね」
 声がして、部屋の出入り口の方から誰かが入ってきた。その姿を見て、龍也は思わず息をのんだ。
 背丈はゆうに二メートル以上はありそうな大柄な身体。しかし、それより何より驚愕したのはその風貌だった。
 白衣の下から覗く腕は白い体毛にびっしりと覆われ、白い顎ヒゲが長く伸びたその顔は、どこからどう見てもヤギだったのだ。
 呆然として声を失った龍也を見て、ヤギの姿の大男はあごひげをさすりながら言った。
「その驚きようじゃと、やはり異世界から来なすったようじゃの。何、大丈夫じゃ。儂ゃ別にお前さんをとって喰ったりはせんよ」
 そして、かんらかんらとひとしきり笑った。
 異世界――?
 妙な姿で妙な事をいう謎のヤギ男。一体何がどうなっているというのだろうか――。
 ヤギ男は龍也の目をじっと見つめると、静かに言った。
「信じられんかもしれぬが、よく聴くのじゃ。――よいか、ここはお前さんの暮らしておった世界とは異なる世界じゃ。名前は"ゾディアーク"という。お前さんはおそらく、"星の守護者"によってこの地に導かれたのじゃ」
 "ゾディアーク"――? "星の守護者"――?
 まるで事態を飲み込む事ができなかった。
 ヤギ男はさらに、一方的に話を続けていく。
「お前さんが今おるのは、その"ゾディアーク"の中の"トリッカ"という国じゃ。この国は儂のような獣人族ビスートが治める国でな。ここは、そのトリッカの中でも外れに位置する"クー"という小さな村じゃ。儂の名はガイア。この村で診療所をやっておる。裏山の散歩中に倒れているお前さんを見つけてな、それでここに運んだというわけじゃ。――ああ、ちなみにここは儂の診療所じゃよ」
 一方的に放たれる言葉を必死に頭の中に押し込んでいく。
 ここは"ゾディアーク"――。今までいた世界とは違う別の世界――。
 にわかには信じがたい話だが、目の前のガイアというヤギ男を目の当たりにしては信じないわけには行かなかった。
 どうにか(半ば無理矢理に)理解した事を悟ったのか、ガイアはやおら話しを切り替えた。
「さて、起きた早々で悪いのじゃが一つ頼まれてくれんか? 実はお前さんと一緒にもう一人、女子おなごを見つけて連れ帰ったのじゃ。身なりからしておそらくはお前さんと同じ、異世界から導かれた者じゃ。ところが、儂の姿を見て驚いたのか、いきなり逃げ出してしまってのう――。この辺りは辺境じゃから野生の獣や魔獣もおるし、なによりトリッカの獣人の中には、お前さん達とよく似た姿の人間族ヒューマを敵視しとる者もおるでな。儂らのような草食族ベジートならまだよいが、肉食族ミータルの血の気の多い連中なんぞに下手に見つかると事じゃ。そんな訳で、その女子を探して保護してやってほしいのじゃよ」
 他にも同じような人間がいる――?
 いや、その前に一方的に説明しておいていきなり頼み事かよ――。
 あまりの急展開に、龍也はしょうしょう事態を悟るのに手間取ってしまった。
 とどのつまり、自分にその女の子を探せ、ということか――。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
 慌てて龍也はガイアの話を止めた。
「いきなり探せっていわれても、俺はここの地理を全く知らないし、その女の子がどんな姿なのかもわからないんスけど――」
 龍也はそういって両手を体の前でむこう向きに広げた。
 そんな雲を掴むような事をいきなり言われても困るって――。
 ガイアは「フム」と言いながら、あごひげをなでた。
「村の者数人に訊いたところでは、村の中は通っておらんようじゃ。小さな村ゆえ、村の中を通ったのであれば誰かが見ておるはずじゃからな。とすると、ここの立地から考えて裏山の方へ言ったとしか考えられん。しかも、起きてすぐじゃからそれほど遠くには行っておらんじゃろう。見た目は――、お前さんよりかなり小さかったのう。確か――このくらいじゃな」
 そう言って、ガイアは龍也の胸の辺りに手のひらをかざした。
 龍也の身長が大体165cmだから、それが正しければ130cmそこそこくらいか――。
「あとは――。そうそう、お前さんのつけておるバッジと同じようなデザインの髪飾りをしておったな」
 バッジ――?
 言われて服をまさぐると、左の二の腕の辺りに"それ"がくっついているのを見つけた。
 銀色の丸いプレート上のバッジで、中央に噴水のような模様が描かれている。あの時道で拾ったメダルとそっくりなバッジだ。
「そいつは"守護者の紋章"じゃよ」
 と、ガイアは言った。
「守護者の紋章?」
 龍也が訊き返すと、ガイアは「そうじゃ」とうなずいた。
「お前さんのバッジに描かれておるのは、アリエル様の紋章じゃて。アリエル様は慈愛を司る守護者――。その紋章の入ったアイテムを持っておるという事は、お前さんはアリエル様に選ばれた者、ということじゃ。――そして、あの女子もの――」
 あの女子――、つまりここから逃げてしまったという女の子の事か――。
 それにしても守護者だとか紋章だとか、いまいちピンとこない。
「とにかく同じような格好をしとるし、このあたりにゃ人間族はほとんどおらんから――。何も起こらねばすぐに見つかるはずじゃ。頼んだぞよ――」
 ガイアはそう言うと、半ば強引に龍也を送りだしたのだった。







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