第二章 異世界その1 第四部 バプ その2
「何だまた旅人か? 最近やけに多いじゃねえか」
おっさんは頭をボリボリとかきながら面倒臭そうに言った。
「そうだ! ここにその旅人っていますか?」
旅人の話題がでたので、勇樹は思い切っておっさんに訊いてみた。
おっさんは勇樹を怪訝そうな顔で見つめると、言った。
「あん? あいつらなら今実地修行にいってるよ。日暮れまでには帰ってくるだろうぜ」
ってことは、やっぱりここにいるんだ――。しかもあいつ"ら"って事は二人とも――。
その時突然、マッシュの服の中から電子音のような音がした。
マッシュは懐をまさぐって"それ"を取り出す。それは勇樹達の世界の携帯電話のような機械だった。
「やべ、そういや仕事中だったんだ! わりぃおやっさん、そういう事でこいつらの事頼んだぜ。――それから、フレアによろしく言っといてくれ」
そう言うと、マッシュは慌てて飛び出していってしまった。
勇樹と克樹はわけも分からず残される格好になった。
「ったく、しょうがねえ奴だな。――仕方ねえ、ついて来な」
おっさんはそう言って奥の部屋の方へと歩きだした。勇樹と克樹は、慌ててその後についていく。
案内されたのは八畳ほどの大きさの部屋だった。床は廊下とは違って、絨毯のような畳のような、とにかくそんなような感触がする。部屋には特にこれといって調度品の類は見当たらず、ただ殺風景な空間が広がっていた。
「その辺に適当に座りな」
と、おっさんに言われ、二人は適当な場所に腰を降ろす。
「まず自己紹介だな。俺はここの訓練所を経営してる者だ。名前はオルテガという」
勇樹達も自分の名前を名乗った。
オルテガは少しの間呟くようにその名前を反復した。多分頭にたたきこんでいるのだろう。
「いいか、呪力ってのは人間族だけが持つ特殊な気を練って、そいつを使って発動させるんだ」
「さっきマッシュさんに聞きました」
勇樹が言うと、オルテガは「そうか」と短く言った。
「なら、そのくらいは知ってるわけだな。で、気ってのは、同じ人間族でも人によって基本量――生まれ持って授かった量も、その質も異なる。量の方は修行次第である程度は増やせるが、質の方は持って生まれた物でほぼ全てが決まる。――修行で無理に変えられなくもないが、大抵は失敗して力が弱くなっちまうからな。無理せずもって生まれた物を伸ばす方がいい。んで、気の質だが、個人差はあるが大体八種類に分けられる。炎・水・土・風・木・月・光・闇の八つだ。光と闇は生まれつき出る事は滅多にねえから、実質六種類かな。――ここまではいいか?」
二人はうなずいた。
オルテガは「よし」とうなずいて、再び語り出す。
「まずは、お前らの気の質を知らなきゃなんねえ。そこで今から、"見取り"という気の質を判別する検査法があるんだが、そいつをやる」
そう言うと、オルテガは一旦隣の部屋にはいり、しばらくして変わった器具のような物を持って戻ってきた。
理科の実験で使うフラスコを固定するスタンドに似た金属性の器具で、二本の金属柱の間にこれまた丸底フラスコのような器具がぶら下がっている。フラスコの中には丸い部分の半分くらいの高さまで液体が入っていて、中央に黒い棒のような物が浮かんでいる。固定されているわけでもないのにぴったりと垂直に、まるで茶柱のように立っていた。
「こいつは解析球ってんだ。――さて、どっちからやる?」
オルテガにそう訊かれたので、とりあえず勇樹から試して見る事にする。
「丸い所を両手で軽くつかみな。――そうだ、そしたら集中して両手に気を送る。全神経を手に集中させる感じだ。呪力を使うのに十分な量の気があれば反応が起きる」
「反応ってどんな?」
「やってみりゃ分かる」
と言われたので、とりあえず解析球をつかんだ両手に神経を集中させる。
勇樹はこの世界の人間じゃない。果たして気なんて物があるのかどうか――。
その時オルテガの声がした。
「反応し始めたぞ」
見ると、浮かんだ棒の水から飛び出している方の先端に突然火が灯った。火はロウソクの炎のように、赤い炎を揺らめかせる。
「気柱に火が灯ったってことは、お前の気質は炎だ」
オルテガは解析球を覗き込んで言った。
次に克樹も同じように解析球をつかみ、神経を集中させる。今度は気柱全体が淡く光出した。
「気柱が光ったって事は、お前の気質は月だな」
勇樹が炎で、克樹が月、これで二人の気の質は分かったわけだ。
ところで――。
「他の場合はどうなるの?」
ちょっと興味があったので、勇樹は訊いてみた。
オルテガは一つ一つ分かりやすく説明してくれた。
「水なら中の水の量が増えるんだ。土だと逆に水の量が少なくなる。風だと水に水流が発生して渦を巻く。そんで、木だと気柱自体がでかくなる。で、滅多にいねえが光なら解析球自体が光る。闇なら水が黒く濁って中が見えなくなっちまう」
どういう原理なのだろう、と勇樹は思った。おそらくそれも気のなせる技なのだろう。
それを使う事で呪力という新しい力を使う事ができる。
なんだか不思議な気分だ。ちょっと怖いけど、ワクワクもするような、そんな気分。
「さて、気の質が分かった所で、いよいよ呪力を身につけるための修行に入るぞ」
オルテガが手をパンパン、と叩いて言い、二人は「はい!」と大きな声で返事をしたのだった。 |