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ゾディアックファンタジー
作:佐倉信輔



第二章 異世界その1 第三部 二つの力 その2


 大きな黒豹のような獣が突然遅いかかって来た。
 その出来事は克樹に、狼獣人たちに襲われたあの日の事を思い出させた。
 脚はすくみ上がり、全身に力が入らない。
 それでも克樹は必死で獣の攻撃をかわした。時には勇樹に引きずられながら。
 勇樹は昨日出した剣を取り出そうとしていたようだが、どうやっても上手くいかないようだった。
 そして、二人はとうとう獣に退路を塞がれ、いよいよ追い詰められてしまった。
 こんな時元の世界ならどうするだろう(いや、現実世界ではありえないことだけど)。現実世界での克樹なら、こういうピンチの時は充樹と力を合わせて乗り切る事が多い。それが双子ならではの絆というやつだ。
 ――なんで僕はあいつの事を考えてるんだよ?
 充樹とはケンカ中なのだ。あいつは二人の間の一番大事な取り決めを破ったんだ。だから、金輪際あいつとは絶交なんだ。
 克樹は必死に、自分にそう言い聞かせた。
 その刹那のことだった。
 ――力が欲しいか?
 克樹の頭の中に声が響いてきた。
「なに!?」
 一体どこから聞こえてくるのだろう?
 ――なんじに問う。力がほしいか?
 何がなんだか分からない。だけど――。
「ほしいよ! ここから生きて出られるならっ!」
 克樹は叫んだ。声の主がどこにいるか分からなかったから。
 ――ならば我が力、汝に授けよう。
 その声と共に克樹の両の手の指輪が光り輝いた。
 両手がにわかに熱くなり、何かエネルギーのような物が流れ込んでくるように思える。
 ――さあ、指輪をかざして念を込めるのだ。
 何がなんだか分からないが、とにかくいわれた通りに両手を天にかざし、それに向かって強く念じた。
 次の瞬間指輪は光の塊となり、やがてそれは二本のダガーに姿を変えた。
 空から舞い降りたダガーを慌てて両手でキャッチする。小ぶりのダガーは重さを感じないくらい軽い。絵の部分には指輪にあったのと同じ紋章が刻まれていた。
 不思議な感じだ。克樹は今までダガーどころかカッターナイフもあまり使った事がない。なのにずっと昔から知っていたかのように、その使い方が自然と分かるような気がする。
「危ない!」
 その時勇樹の声が飛んできた。見ると獣が爪と牙を立てながらこちらに向けて突進してくるところだった。
 克樹は身体をひねって倒れ込むように右へかわした。そして、かわしざまに獣の胴体にクロス状に斬りつけた。
 獣はうなり声を上げて体を入れ替えながら着地した。どうやら傷は浅かったらしく、毛皮に少し傷をつけた程度だったようだ。
 獣は再びうなりながら突進する。克樹はそれをかわしながらダガーを振る、が獣の動きは素早くなかなか攻撃があたらない。何度か繰り返したが、獣の繊維を喪失させるだけの一撃は与える事ができなかった。
 息をつきながら勇樹はつぶやく。
「やっぱり速すぎるよ……」
 その時再び声が聞こえた。
 ――汝は我が武器"双翼の短剣ツイン・フラッタ"をまだ使いこなしてはおらぬ。我が武器は二つで一つ、どちらが欠けてもその真の力を発揮する事はできぬ。二つを一つにするのだ。さすれば我が武器は真なる姿となるであろう
 二つを一つに――どういう意味なんだろう?
 とにかくやってみる事にした。まず二本のダガーの刃を合わせてみる。しかし何も起こらなかった。
 次に二本のダガーの柄を合わせてみた。だが、やはり何も起こらない。
 二つを一つに、って一体――。
 その時獣が再び飛びかかってきた。克樹は倒れ込みながら獣の攻撃をかわした。その拍子にダガーが手からはなれ、音を立ててその場に転がった。
 それをみて克樹の目が止まった。二つのダガーはまるで重なるように転がっていたのだ。
 二つを一つにする――。二本のダガーを一本のダガーにする――。
 克樹はダガーを拾うと二本のダガーをピッタリと一つに重ね合わせた。
 すると次の瞬間重なり合ったダガーが光を放ち、徐々に形を変えていった。
 光が収まると、そこには文字通り"一つの武器"になったダガーが姿を現した。
 二本のダガーはV字型に連結し、つなぎ目となる中央部分を覆うように鳥の頭を模した彫刻がくっついている。彫刻は全体的に丸みを帯び、ちょうど頭の両側に指をあてられそうな窪みがついている。両の羽に相当する部分にダガーの刃があって、鋭い輝きを放っていた。
 振り向くと再び獣が飛んでくるところだった。克樹はダガーを拾うと獣の攻撃をかわす。そして、鳥の頭の部分を野球のボールを握るような感じで掴み、それを思いっきり獣に向かって投げた。
 ダガーは滑るように宙を滑空し、獣に向かって飛んでいく。獣は横に飛んでダガーをかわしたが、ダガーはまるで生きているかのように軌道を変え、獣の後を追って行く。そして、跳び上がった獣の左の腕を刃の翼で斬り裂いた。
 そして、ダガーは宙を滑空し克樹の元へ戻ってくる。克樹が手を伸ばすと、ダガーは寸分の狂いもなく中央の頭部をその手の中に滑り込ませた。
 右腕を斬られた獣は再び立ち上がって克樹の方を睨んできた。その目には先ほどまで以上の強烈な殺気が漂っていた。よく言う"手負いの獣はより凶暴化する"、というやつだ。
 ――星力ゾル・パワーを使え。強く念じるのだ。
 また声が聞こえてきた。
 星力ゾル・パワー――たしかブランカの町で勇樹が使ったアレのことだ。
 声と共にダガーは元の二本のダガーに姿を戻す。克樹はそのダガーを再び両手に持ち、今度は刃先をクロスさせて獣に向けて構えを取る。自分でもなぜか分からないが、自然とその構え方になってしまったのだ。
 そしてダガーに向かって強く念を込める。目の前の危機を乗り切るために。
 するとダガーの刃先が激しく輝く。紫色の光が中空に広がり、それはやがて一枚の巨大な鏡へ姿を変えた。
 鏡の中に獣の姿が映し出される。すると鏡面が紫色の光を発し、なんと鏡に映っていた獣がゆっくりと鏡から外に抜け出してきた。
 なんだこれ――?
 鏡から現れた獣は、本物の獣と睨み合う。視線がぶつかり、激しい睨み合いが続く。
 次の瞬間本物の獣が跳んだ。連れて鏡の獣も跳ぶ。両者は空中で激しくぶつかり、衝撃でそれぞれ後方に跳ばされる。
 さらに二頭の獣の戦いは続いた。向こうが爪を振ればこちらも爪を振り、向こうが牙で襲い来ればこちらも牙で攻撃を受ける。まさに一身一体の攻防だった。
 そのままどのくらいが経過しただろうか。二頭の獣は再び睨み合っていたが、不意に本物の獣はこちらに背をむけると、そのまま茂みの中へと跳び、どこかへ消えてしまった。
「一体どうしたんだろう?」
 つぶやいた克樹の頭に、またも声が聞こえてきた。
 ――おそらく戦意を喪失そうしつしたのだろう。我、双子そうし星力ゾル・パワーは"幻想魔鏡ミラージュショック"。我の力により出現した魔鏡は映された者のうつし身を生み出す。幻し身は汝の念で動き、汝の念の強さで強くも弱くもなる。忘れるな、我は二つで一つの双子そうしなる守護者。決して離してはならぬ。
 声はそれを最後に聞こえなくなった。
 ダガーは元の指輪に戻り、克樹の指に元通り収まっていた。
 克樹はその指輪を見つめてみる。指輪は声が聞こえる前と同じ、紫の輝きを放っていた。
「すごいや、今のが克樹の武器なんだね」
 勇樹がいつの間にやら近くに戻ってきて言った。
「そうみたい」
 克樹は両手をくるくる返しながら言った。
「これも使うのになにか条件があるのかな。僕のは発動しなかったし」
「どうなんだろうね」
 克樹だって突然聞こえた声に従っただけなので、よく分からない。
「……とりあえず、行こうか」
 勇樹は道の先を指していった。そうだ、自分たちはバプの街を目指していたんだっけ。
 克樹はうなずいた。そして、再び二人は歩き出す。道の先にあるであろう、バプの町へ向かって。
 深い森の道はまだまだ続く。あいかわらず不気味な雰囲気の漂う森だが、幸いにして先ほどのような獰猛な獣等が出現する事はなく、順調に進む事ができた。
 小一時間も歩くと、森の様子は入り口と同じような穏やかな雰囲気に変わってきた。どうやらそろそろ森の出口が近いのだろう。
 さらに数十分歩くと目の前の視界が開けた。ようやく森を抜けたのだ。
 目の前には川沿いに延びる道が見えている。その道をさらに二人は進んでいく。
 川の水は少し緑がかった、エメラルドのような色に輝いていて、ところどころからシュワシュワと気泡のような物が浮き上がっていた。
 水面を覗くと魚っぽい生き物がたくさん泳いでいる。特に襲ってくる事もなさそうで、ただのんきに泳いでいるだけに見えた。
 水に手を浸けてみると、シュウッという音と共に手の周りに細かい気泡が広がる。
 濡れた手の匂いを嗅いでみると、なんだか甘い香りがした。ためしに舐めてみると、驚いた事にメロンソーダの味がした。シュワシュワいっていたのは炭酸なのだろうか。
 流石に飲んでいい物かどうかは分からなかったので、一応空っぽになっていた方の水筒に汲んで、先を急ぐ。
 さらに歩いていくと、川を渡すような形で建つ、組木の城壁に囲われた小さな砦のような建物が見えてきた。どうやらあれが関所のようだ。
 勇樹と克樹は砦へ向けて歩いて行く。その先にあるはずのバプを目指すために。







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