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 バプ行きの通行証を手に入れた勇樹と克樹は、いよいよブランカを出てバプの町へ向かう事になった。
 二人の新たな冒険が始まりを告げるのであった。
ゾディアックファンタジー
作:佐倉信輔



第二章 異世界その1 第三部 二つの力 その1


 旅立ちの日――昨日と同じ晴天が二人を迎えていた。
 狼獣人との戦い、勇樹の"力"の覚醒、色々な出来事も既に"昨日"という過去の出来事になっていた。
 二人は街の入り口にいた。二人とも昨日マーケットで手に入れた外套がいとうに身を包み、背中にはこれまたマーケットで手に入れたザックを背負っている。中にはこれもマーケットで揃えたいくつかの道具や寝袋、タガールと三人で用意した食料が詰め込まれている。
「すまねえなあ。一緒についていってやりたかったが、配達の仕事が入っちまって」
 タガールは申し訳なさそうに言った。
 勇樹は首を振って答えた。
「ううん、僕たちこそすっかりお世話になっちゃって」
 この世界に来てから、すっかりタガールに頼りっぱなしだった。
 これからどれだけの間この世界を冒険しなければならないかはわからない。
 だから、タガールにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかなかった。
「バプへは街を出て北へ一本道だ。迷うこたあないと思うが、気ぃつけてな」
 二人は「うん」とうなずいた。
 いよいよ次の町への旅立ちの時、である。
「またブランカへ戻ってくる事があったら、俺ん家に来てくれよ。そん時はまた歓迎するぜ」
 タガールがそう言った時、衛兵がこちらにやってきて通行の許可を継げた。
 三人は門をくぐり、四日ぶりの町の外へと出て行く。
「じゃあな。また会おうぜ」
 タガールはそう言うと荷馬車にまたがり、右手を挙げた。
 勇樹と克樹もタガールに向かって手を挙げる。
 やがて、タガールの乗った荷馬車がゆっくりと東へ向けて動き出す。
 二人はその姿が見えなくなるまで、力いっぱい手を振り続けた。
 そしてそのまましばらく時がすぎ、荷馬車の姿は完全に地平線の向こうへ消えていった。
「僕たちも行こうか」
 勇樹は言った。克樹もうなずき、ザックを背負い直す。
 そして二人は北へ向けて道を歩き出した。新たな地を、他にもいるはずの仲間を目指して。
 だがこの時、まだ二人は考えていなかった。この旅が自分達が思っているよりずっと壮大で、ずっと深くて重い意味を持つものになるとは――。

 遥かに広がる草原の道をバプ目指してあるいて行く。最初にブランカへ来た時と同じように草原が一面に広がり、道はその中を突っ切るように進んでいた。
 天気もいいし、風は穏やかに草原を通り抜けていく。
 穏やかな空気に、勇樹と克樹はいつしか軽くハイキング気分で道を歩いていた。
 時折顔を見せる"ゾディアーク"の生物も面白かった。例えば、道なりに生えていた木に停まっていた一羽の鳥はその際たる物だった。
 見た目は勇樹達の世界にいる椋鳥むくどりのような姿で、大きさはよく見かける土鳩どばとくらいだろうか。どうやら木にぶら下がる果実を狙って停まったらしく、頭上の果実を見上げていた。そして次の瞬間、両の翼の中から鉤爪のついた手をにゅっと突きだし、果実をしっかり掴むと見事にそれをもぎ取ったのだった。
 その鳥はもぎ取った果実をしっかり両手に抱え、細かい歯のついたくちばしでそれをついばんでいた。
 勇樹達の世界では手を持った鳥等という物は存在しない。翼に手を持つのは哺乳類であるコウモリか、とうに絶滅した始祖鳥くらいのものなのだ。
 ちなみにその果実の生っていた木も変わった形をしていて、幹の周りを螺旋を描くように枝が張り出し、枝の先は一様に上へ伸び、そこから生える葉も揃って天へ突きだしていた。細く細かい葉は手で触ってみるとブラシのような気持ちい感触だった。その葉に覆われた全景のところどころから葉のない枝がせり出していて、鳥はそのせり出した枝に停まっていた。そして、それに合わせるかのように果実はせり出した枝の近くにだけ生っていた。
 リンゴと桃の中間のような見た目の赤い実を触ってみると、少し柔らかい感触がした。もいで実を割ってみると、甘い香りがあたりに立ちこめた。ためしにかじってみるとなんと味はチョコレートに近かった。
 そんな感じで和気藹々わきあいあいと道を進んでいくと、やがて目の前に木々の生い茂る森が見えてきた。道は森の中へと続いていた。
 森の中へ入ると雰囲気は一変した。生い茂る木々の葉が太陽の光を遮り、森の中はかなり薄暗かった。
 しかしそのせいか、ところどころに差し込む日光が柱のように森の中に立ち昇り、少しばかり幻想的でもあった。
 木漏れ日の中を続く道を二人は歩いていく。差し込む木漏れ日を時には眺め、時には顔に受けながら二人は進んでいく。
 森の中には"ゾディアーク"の生物達が溢れていた。ウサギに似たやつとか、フクロウのようなやつとか、代わった動物の宝庫とも呼ぶべき場所だった。虫達もたくさんいる。
 更に進んでいくと、森の様子はだんだんと様変わりして来た。木はなにやら幹も枝もじれたような形になり、枝同士があいまって複雑な形を形成していた。先ほどまでののどかな生物達の姿は見えなくなり、時折おどおどろしい金属音のような鳴き声が響いてくる。
「なんだか気味悪いね」
 克樹が心細げに小さな声を上げる。
 確かに先ほどまでとは完全に打って変わり、森の中には不気味な空気が漂っていた。
「そうだね」
 だけど、この先へ進まなければバプの町へたどり着く事はできない。先へ進むしか道はないのだ。それに何といっても、自分の方が年上なのだからしっかりしなければ、という思いが勇樹にはあった。
 二人は更に森の中を進んでいく。森の規模が分からないため、後どのくらい歩けば森を抜けられるのかは分からなかった。ただ、森の中に刻まれた道を延々と進むことしかできなかった。
 その時、不意にどこからかガサッ、という音が聞こえた。
 その音にビクッとなり、二人は立ち止まる。
 恐る恐る辺りを見渡してみる。その視線の先の深い茂みが大きく揺れ動いた。
「何!?」
 思わず後ずさりする克樹。勇樹はそんな克樹を守るようにその場で身構えた。
 やがて茂みは激しく揺れ動き、二人の身の丈ほどもある茂みを二つに割り、その生物は姿を現した。
 勇樹達の二、三倍はあるかという体長。そしてしなやかな四肢とぴんと立った長い尾。がっちりと締まった体の先にある顔には、こちらを射殺さんとするかのような鋭い眼光を放つ二つの目が輝いていた。
 全体の見た目は勇樹達の世界でいう黒豹に似ているだろうか。ただしその耳は顔の両側に長く垂れていて、ある種の猟犬のようでもある。
 これがひょっとして魔獣――?
 目の前の真っ黒な獣は二人を威嚇するようににらみつけ、低いうなり声を上げながら真っ白なキバをき出してきた。
 次の瞬間、獣は地を蹴り大きく宙を跳躍した。白く大きな牙がものすごい速度で二人をめがけて襲ってくる。
 二人はとっさに身をかがめて獣の攻撃をやり過ごした。獣はそのまま道の反対側まで到達し、太い腕から伸びた大きな爪で目の前の大振りの枝を数本なぎ倒して着地した。じれた木の幹はもう一方の爪にざっくりとえぐられて、大きく削り取られてしまっている。
 ブランカの町の狼獣人の比じゃない――ヤバすぎるにもほどがある。
 だけど相手は大型の獣だ。子供の勇樹達が全速力で走ったってものの数秒で追いつかれるだろう。
 とすれば残された道は――やはり戦って追い払うしかない。
 ――そうだ、昨日の剣なら!
 勇樹は昨日バングルから飛び出した剣の事を思い出した。あれなら追い払えるかもしれない。
 再び飛びかかってきた獣をかわし、勇樹はバングルのはまった左手を天につき上げる。そしてあの時のように念じた。
 だが、バングルは剣になるどころか光の一つも発する事もなかった。
 勇樹はさらに何度も左手をつき上げたり、念じたりを繰り返した。が、結果は同じだった。
 ――なんで剣が出てこないんだよ!
 分からなかったが、とにかく逃げるしかなかった。だが、獣は素早い動きで回り込み、二人の退路を封じてきた。
 ――だめだ! やっぱり逃げられない!







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