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ゾディアックファンタジー
作:佐倉信輔



第二章 異世界その1 第二部 覚醒 その2


(力が欲しい……)
 と勇樹は思った。
(正しい事を『正しい』って言うための力が欲しい――)
 その刹那、勇樹の頭の中に声が響いてきた。
 聞いた事のない声――だけど、力強くてどこか温かい感じのする声だった。
 ――力が欲しいか?
 声はそう語りかけてきた。
 誰の声なのかは分からない。けど、瞬間的に勇樹は答えていた。
「正しい事を『正しい』って言うための力なら、僕は力が欲しい――」
 再び声が響いてくる。
 ――分かった。ならば、そなたに力をくれてやろう。
 その声が響いた直後、左腕が急に熱を持ったように温かくなった。見てみると、左腕のバングルが淡く銀色に光を発していた。
 勇樹はバングルのはまった左腕を、目線の正面に持ってくる。
 不思議な光だ。一体どこから発生しているのだろうか。
 声はさらに勇樹に指示を出す。
 ――力を求めながら、そのバングルを掲げるのだ。そうすればそなたに力が宿るであろう。
 勇樹はゆっくりと左腕を掲げた。そして「僕に力をください」と一心に念じた。
 次の瞬間、バングルから発する光が激しくまたたき、中空へと昇った。そして光は細長く伸び、やがてそれは一振りの剣となって巣の姿を現した。
 ゆっくりと降りてきた剣を受け取る。まっすぐ伸びた直刃すぐはの剣だ。柄も刀身も銀色に輝き、つばの中央にはバングルに彫られていたのと同じ刻印が刻まれていた。
 鍔の両端からは細い紐が伸び、その先には小さな皿のような飾りがついていた。
 少し大振りにも見える剣だが、全く重さは感じなかった。まるで手に吸いつくような感触でさえある。
 ――さあ、今手に入れた力で、正義を汚す者共を断ち斬るがよい。
 勇樹の頭の中に、声が力強く響く。
「でも、殺すのはダメだよ」
 ――ならば殺さないよう念じればよい。我が剣"正義の剣ジャスティブレード"は振るものの念次第で、何も斬らぬようにもできれば、鋼岩を一刀の元に断ち斬ることもできるのだ。
 数人の半獣族がこちらへやってくる。勇樹は剣を正面に構えて迎えうつ体勢を取った。
 当然だが勇樹はこれまで剣など扱った事はないし、剣道もやった事はない。
 だけど剣を握っていると、不思議と次に自分はどう動くべきなのか、どういうふうにすればいいのかが分かるような気がするのだ。
 半獣族の一人が大きな腕を振り上げて殴りかかってくる。その動きに合わせて剣を傾けながら体を倒し、相手の拳を避ける。そしてそのまま腕を振り抜き、剣を横一文字に払う。鈍い衝撃と共に半獣族は派手に吹っ飛び、そのまま気を失ってしまった。――声の言った通り、気絶こそすれ半獣族の身体には傷一つついてはいなかった。
 一連の動作が自分の物ではないような気がして、勇樹はしばらく吹っ飛んだ半獣族に見とれていた。が、気配を感じて振り返ると残りの半獣族の攻撃が飛んできていた。
 勇樹は身体をよじって攻撃をかわし、更に二度三度剣を振った。その度にうめき声を上げ、半獣族たちは吹っ飛んでいく。
 無我夢中で動き、剣を振る。そして気がつくと、取り巻きの半獣族は全てのびていた。
「手前ぇ、よくもやりやがったな!」
 狼獣人はわなわなと身体を震わせて、声を絞り出した。
 その目には明らかにとんでもなく激しい怒りが宿っていた。
 狼獣人は右手を思いきり握りこみ、オーラを集中させた。そして、思い切りその手を突きだす。拳からオーラに包まれた数発の弾丸が飛び、勇樹に襲いかかってくる。
 勇樹はとっさに剣を横向きにし、右手を刀身にあてて防御の体勢を取った。次の瞬間、激しい金属音と共に刀身を強烈な衝撃が襲う。勇樹は踏ん張りきれず、大きく吹き飛ばされてしまった。
 ――あの能力スキルとまともにやりあうのは無理だ。
 また声がした。
「じゃあ、どうすればいいの?」
 勇樹は声に向かって訊いた。
 ――星力ゾル・パワーを使え。剣に向かって強く念じるのだ。そうすれば宿星がそなたに星の力を与える。
 また意味の分からない言葉が出てきた。星力ゾル・パワーって何?
 だけど、迷っている暇はなかった。狼獣人の放った第二陣の飛礫つぶてが飛んできたからだ。
 勇樹は立ち上がって剣を構えなおし、一心に念じた。
(力を――僕にもっと力をください!)
 次の瞬間剣が激しく光り輝いた。そして、目の前にあの紋章が現れる。紋章は一台の天秤の形に形状を変えた。立派な姿をした天秤――左右の更にはそれぞれ"無罪"・"有罪"と刻印が彫られている。皿はガクン、と音を立てて右に傾き、"有罪"の皿が大きく下へさがった。
 次の瞬間、"有罪"の皿から一陣の光が走った。光は狼獣人の放った飛礫つぶてとすれ違うように一直線に狼獣人へ向かって突進していく。狼獣人はたじろぎ光りを避けようと飛びのいた。すると勇樹に向かって飛んできていた飛礫はスウッと何事も無かったように消えてしまった。
 光は狼獣人を追尾するように軌道を変え、一瞬のうちにその身体を貫いた。刹那狼獣人の身体から激しい光がほとばしり、狼獣人は大声を上げて悶絶する。しばらくして光が消え去ると、狼獣人はその場に崩れ落ちピクリとも動かなくなってしまった。
「し、死んじゃったの?」
 勇樹は倒れた狼獣人を恐る恐るのぞき込んで言った。また声が響いてくる。
 ――死んではいない。悪しき心を浄化しただけだ。それが審判をつかさどる我が天秤の星力ゾル・パワー、"最終審判ジャッジメント"の力だ。しばらくすればこの者も目覚めるだろう。ただし、一連の出来事の記憶は全て忘れ、悪しき心も消えた状態で、だがな。
 それきり声は聞こえなくなった。いつの間にか剣も消え、元のバングルに戻っていた。
「おい、すげえじゃねえか! やっぱお前ェは勇者だったんだな」
 振り向くとタガールと克樹が駆け寄ってきていた。
 驚いたり感心したりの二人に、勇樹はバングルの事を説明してやった。と、そこである疑問に突きあたった。
「そういえば、どうして弾が途中で消えちゃったんだろう?」
 勇樹は首をかしげた。
 すると、タガールが「多分条件のせいだ」と言った。
「さっき能力スキルを使うには条件を満たさなきゃいけねえ、って言ったろ? 多分途中で狼野郎の能力スキルの発動条件が崩れちまったんだな。多分狼野郎の能力スキルの発動条件は"その場から動かない事"だったんだろうな」 
 すると、克樹が突然思い出したように言った。
「そうだ、同じようなの僕も持ってるんだ」
 そう言って両手の甲を広げて見せる。克樹の両の人差し指には、紫に色に光る石がはめ込まれた指輪がはめられていた。石の表面にはローマ数字の2の形をした紋章が刻まれている。
「そりゃあ"ジェミィ"の紋章だ。ジェミイはライブラと同じく、"星の守護者"と呼ばれる物の一人だ」
 タガールが言い、二人は指輪をじっと覗き込んだ。
 と言う事は、この指輪にもものすごい力が眠っている、ということか。
「僕も勇樹みたいな力が使えるのかなあ」
 克樹は指輪を撫でながら言った。
「多分、ね」
 勇樹は言った。
 尤も、勇樹だってどうやって使えたのかは分からないし、それを教える事はできなかったが。
「おい、お兄ちゃん達。あんた等なかなかやるなあ」
 その時さっきの通行証を売っていた店の小父さんが声をかけてきた。
 小父さんはすまなそうに言った。
「さっきは悪かったなあ。あいつらにゃ逆らえなくてな。で、詫び代わりといっちゃなんだか、この通行証はあんた等に無料ただでやるよ」
 渡された二枚の通行証を勇樹と克樹はじっと眺めた。
 映画の割引チケットくらいの大きさで、"通行証 目的地:バプ 一回限り有効"と書かれている。書面の右の方には紋章のような物のスタンプが押してあり、"有効期間:ゾル暦2007.6.30"と書かれている。タガールの家のカレンダーで確認した今日の日付は5−24日だったから、あと一月ほどか。
「やったな、これでバプまで行けるぞ。よし、今日はゆっくり休んで早速明日出発するか」
 タガールは自分のことのように喜んで、そう言った。
 明日はバプだ――勇樹たちはそう心の中で感じながら、タガールの家へ戻る事にした。
 すると勇樹達の帰り際、お店の小父さんがこんな事を言ってきた。
「バプに行くなら道中気をつけな。最近あの辺りで魔獣の被害が相次いでるらしいからな。――あんたらの度の無事を祈ってるぜ」
 勇樹たちは手を振って、その場を後にしたのだった。







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