第二章 異世界その1 第一部 ブランカ その5
三人は町の中心から東側にある市街地へ入り、そのはずれにあるタガールの家に泊めてもらう事になった。
家の作りも勇樹達の世界の物とさして変わりはなかった。
玄関があってリビングがあって、ダイニングがあってキッチンがある。
バスやトイレ、ベッドルーム等もいたって普通だ。
しいて言えば、家具や調度品、扉等の大きさが少し大振りだった。多分半獣族や獣人族の身体が勇樹達の世界の人間より大きいためなのだろう。
タガールは二人に手作りの夕食を振舞うと言ってくれた。
だけど、世話になりっぱなしではなんか悪い気がしたので、勇樹と克樹は話し合って食事の用意を手伝うよ、と申し出た。
キッチンに並んでいる調理器具もやっぱり大振りだった。タガールに教わりながら二人も見よう見まねで料理を進めていく。
母親と二人暮しになってから家の事を手伝うようになった勇樹は少しだが慣れているので、家庭科の調理実習くらいしかやった事の無い克樹に包丁の持ち方とかを教えてあげたりもした。
気がつくと克樹もすっかり打ち解けたようで、その顔には笑顔がのぞいていた。
そうして出来上がったのは、この地方でよく変われている"ロコ"という家畜の肉をたっぷりの野菜とスープで煮込んだ"ミトッフ"というビーフシチューに似た料理と、そして穀物の粉を水で練って発酵させた物を焼いた"パフカ"というパンに似た食べ物、"ピィーフ"という植物の葉で作ったサラダの三品だ。
ミトッフはこってりとした見た目とは裏腹にあっさりとしていた。たっぷり入った野菜から解け出した甘みが来い目の塩加減と絶妙にマッチしていて、ビーフシチューの何倍もおいしいと感じた。ロコのお肉は柔らかくてそれでいてしっかりと噛み応えがある。牛肉とも豚肉とも、鶏肉とも違う食感と味だった。パフカは勇樹達の世界のパンとほとんど変わらないものだったが、焼きたてというのを考慮してもそのフカフカ具合はパンより数段上だった。それでいて味わいはどっしりしていてしっかりとお腹にたまる。ピィーフはハーブのようないい香りで、食欲を倍増させてくれるような気がした。
ずいぶんとお腹が空いていた事もあって、料理はあっという間に三人のお腹の中に消えていった。
食事の後はお風呂。バスルームも大きめサイズで、勇樹と克樹が二人で入っても十分な広さだった。
広いお風呂は何だか楽しい。勇樹と克樹は、お互いに背中を洗いっこしたりしておおいにはしゃいだ。
ベッドもこれまた大きめサイズだ。子供の勇樹と克樹が一緒に横になっても全然余裕なくらいの幅がある。タガールはダブルサイズなのだと言っていたが、勇樹達の世界ならキングサイズくらいはありそうなくらいだった。
二人は大きなベッドで並んで眠った。克樹はよほど疲れていたらしくすぐに眠ってしまったが、勇樹はしばらくベッドの中でこの世界の事を反復し、自分達の置かれている状況を考えてみる。
そしてふっと思った。そういえば同じ年頃の子と一緒にお風呂に入ったり、眠ったりするのって初めてだな、と。
勇樹は一人っ子で兄弟がいないから、お風呂に入るのも寝るのも一人だ(昔は父さんと一緒の時もあったけど)。
幼稚園くらいの時、サンタさんに『弟が妹がほしいです』って手紙を書いた事があったっけ。
横で寝息を立てている克樹の顔を見ていると、なんだか今頃になってそのお願いが叶ったような気がした。
そして、勇樹は静かに眼を閉じた。 |