序章 プロローグ
一筋の光が闇に染まった空を流れていく。
人も獣も寝静まり、漆黒の闇が空を覆いつくす時間帯。
光は闇を切り裂くように空を移動し、東へ東へと進んで行く。
やがて光は徐々に高度を下げ、地上へと近づいていく。
光が舞い下りたのは、天をつき遥かにそびえる頂の上だった。
光はしばらく頂の周りを行ったり来たり、または上下しながら様子をうかがうと、頂の影へと消えて行った。
山の頂のちょうど陰になる部分には、自然が作り上げた物なのか、はたまた何物可の手で作られた物なのか。とにかく、まるでその身を隠さんとするようにぽっかりと、空洞が小さな口を開けていた。
光は空洞の奥へと進んでいく。入り組んだ空洞を抜けると、やがて少し大きく開いた空間で静かに停止した。
空洞の中には同じような光がたくさん瞬いていた。その数全部で十二。それぞれ異なる色に輝く光達。やがて、その中の銀色に輝く光が声を発した。
「これで、全員集まったようだな」
光達がいっせいに瞬いた。
「では始めるとしよう。知る物もいると思うが、先ほど神よりお告げが下された」
銀色の光が皆を代表して語りだした。
「この時期にお告げとは……ではやはり」
オレンジの光がつぶやいた。
「うむ、神は近い将来"奴"が目覚めると仰せられた」
「あの封印がそう簡単に解けるとは思わぬのだが……」
銀色の光の言葉を受けて、エメラルドグリーンの光がつぶやく。
「どちらにせよ、我等が"奴"を封印してから二千年の時が経過している。それだけ"奴"も、封印された中で力を蓄えたのであろう」
そう言ったのは緑色に輝く光だ。
「そうなると、おそらく我等の力だけでは止められぬだろうな……」
と、赤い光が言った。
「おそらく……」
銀色の光は言った。
「そこで神は我に仰せられた。我らの力をもって異界より勇者たる物を呼び寄せよ、とな」
「だが、それは禁忌とされてきたことではないのか?」
金色の光がすかさず疑問を投げかけた。銀色の光はうなずくようにまたたき、そして言った。
「神は一度に限り、その禁を解くことを許すと仰せられた」
「解せぬな。ただ"奴"を封じるだけなら神にとってたやすき事のはず。なのに、あの時も今回も神は直に手を下さず、我等にその役目を仰せつける。なぜだ……」
ベージュの光は考え込むように輝きをくぐもらせた。
「我にも神の真意はわからぬ。神は何かを謀っておるのやもしれぬ。だが、今の我らは神に異をとなうることはできぬ」
「いたしかたなし、か」
銀色の光の言葉に、紫色の光が輝きを落としながら言った。
「皆、異論はないか」
銀色の光の言葉に、他の光達はうなずくように瞬いた。そして銀色の光を先頭に空洞の外へと流れていく。
十二の光は頂の回りにリング状に並んだ。そしてグルグルと高速で回転して行く。光は混ざり合い、真っ白な輝きへと変わっていく。やがて光がひときわ激しく光った後、光のリングから十二個の小さな光が飛びだし、遥か空のかなたへと昇り消えていった。
「あとは星が導くのを待つのみ、か」
金色の光が誰ともなしに言った。
「うむ、その時がくるまで各々"奴"の動きに注意しておいてくれ。我は引き続き神の元で動向を探る」
銀色の光の言葉に他の光達はまたたいた。そして、再び全員でまたたくとその場を離れ、それぞれ別の方向へと散っていった。
後には元の静寂と闇だけが残された。
遥かな頂はそれまでと同じように雄大な姿でたたずみ、四方に広がる空と、そして遥かに臨む下界を見下ろしていた。 |