君がいなくなって、随分と時がたった。砂漠に飛行機ごと落っこちた、あのパイロットがいなくなってからもだいぶ時は流れたよ。彼は、象を飲み込んだウワバミの絵が理解出来る、数少ない大人の一人だったね。彼は、子供の心を持った大人なんだろうね。
君は、無事に星に戻れたんだろうか?
きっと、君はあの頃とちっとも変わらない格好で、あの頃とちっとも変わらない毎日を過ごしているんだろうな。
君のバラは元気にしているかい? 君の星にたった一本しかない、君だけの大切なバラさ。君が地球で出会った、ただ咲いてるだけの五千のバラたちとは全く違う。姿形は君のバラとそっくりでも、あのバラたちはただのバラでしかなかったね。もし、あの中の一本のバラがいなくなくたって、君は気づきもしないだろうね。君と仲良くならなかったバラなんて、何の価値もないんだものね。
君は地球にいる十万ものキツネの中の、たった一匹しかいないキツネのことをまだ覚えているだろうか?
君のバラとは仲良くやっているかい? 我が儘で高慢なバラだから、多分手を焼いているだろうね。でも、本当は君のことが大好きで、その思いを上手く伝えられなかったんだね。君の方も同じさ、君のバラがとっても大切なバラだってことに気付かなくて、バラを残して旅に出たりしたんだものね。
『ほんとうのことは目には見えない』ってこと、よく分かっただろう? バラはあの鋭いトゲの中に、弱さを隠しているんだ。でも、弱みは見せたくない質だもんで、最後まで君に涙は見せなかったんだね。
君もまだほんのちっぽけな子供。バラと喧嘩して、また一日に四十三度も夕日を眺めたりしてないだろうね? そんな悲しい思いはもうしなくていいさ。君には、君のバラと二つの活火山、一つの休火山、それに時々生えているバオバブの苗があるんだもの。あの迷惑なバオバブの種さえ、愛おしく思えてくるかもしれないよ。なんたって、広い宇宙の中、ほんのちっぽけな君の星に降りてきたんだものね。
そうそう、それに今は、パイロットが描いたあの羊もいるじゃないか。箱の中に入ったままだったから、何匹いるかも分からないし雄か雌かも分からないね。多分両方いるんだと思う。羊たちが君のバラを食べないよう、パイロットは口輪も描いてくれたんだよね? あぁ、だけどパイロットは、革ひもを描き忘れたみたいだった。口輪だけじゃ役に立ちそうもないね。
でも、多分大丈夫だろう。君は、前よりもっと君のバラを大切に守ってあげてるだろうから。
君の星に様子を見に行きたいもんだけど、それはやめておいた方がいいかもしれないな。羊たちが怖がるといけないからね。地球上の十万のキツネは、羊の肉が大好きだからさ。それでも、君の羊はただの何でもない羊じゃないから、キツネと仲良く出来るかもしれないよ。キツネだって、十万のただのキツネじゃなくて、たった一匹の君のキツネだから。
君はもう、滅多に夕日を眺めたりしないだろう。でも、もしかしたら時々地球のことを思って、ほんの少し悲しい気持ちになってるかもしれない。そんな時は夕日を眺めて、気持ちを落ち着けるのも良いね。
その時だけは、地球の片隅で君のことを思っている、たった一匹のキツネのことを、懐かしんでくれているといいな。
そう、キラキラ光る君の金色の髪の毛みたいに、黄金色に輝く麦ばたけを見るたびに、君のことを思い出して涙が止まらなくなる、そんな一匹のキツネが地球にはいる。
時々でいいんだ。仲良しだった君のキツネのことを、思い出しておくれ。
今は、黄金色の麦の季節。どうしたって君のことを思い出さずにはいられないんだから……。 了
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