52マコの涙
「…つーか、格好悪い所見せちゃったな。」
そう言って隣に座る由恵に笑いかける。
「全然!格好悪くなんてないよ?…でも、あれだね…なんか男の人の涙って綺麗だね?」
由恵は僕の方を見ながら、凄く真面目な顔でそう言った。
…綺麗って…
…男の涙なんて格好悪いだけなのに…
由恵の表現が妙に可笑しくて僕は静かに笑った。
由恵はそんな僕をちらりと見てから、視線を遠くのプールへと投げ出した。
そのまま、ベンチに両手を付いて足をブラブラさせ始めてから口を開いた。
「あーあ。やっぱり駄目だな私。性懲りもなくマコに私じゃ駄目?って聞こうとしちゃった」
僕はちらりと由恵に視線を移す。
由恵は視線を変える事なく言葉を続けた。
「…でも、今回は学習能力付けたんだ!今はマコを困らせる事よりも元気にする事が再優先!」
「…由恵…」
僕は由恵を見つめた。
由恵はまだ僕を見る事なく微笑んでいた。
そんな由恵の気持ちが嬉しくて、さっきまでのやり切れない思いが徐々に薄れていく。
ふと、由恵の表情が少し重くなった。
「…マコ、ごめんね?私がマコを好きにならなければ…二人はうまくいってたのに。」
由恵は視線をプールから足元に移すと呟く様にそう言った。
「…由恵?僕は今、由恵の気持ちで救われてるよ。」
僕はそう言いながら由恵の頭に掌を乗せた。
「…ねえ、マコ?マコが美咲を好きな理由聞いてもいいかな?」
由恵が少し笑いながらそう言って僕を見つめた。
「好きな理由?」
僕は何て答えていいのか戸惑いながら由恵に言葉を返す。
「うん。大丈夫だよ!もうヤキモチとか妬かないから!今後の為にも聞きたいだけ。」
そう言って笑いかけた由恵の顔は、とても清々しくて僕の気持ちを和らげた。
普通なら、僕を好きだと言ってくれている由恵にこんな事を話すのは変なのかもしれない…。
でも、何か吹っ切れた様な由恵の笑顔に僕は自然と口を開いた。
「…美咲はさ、僕にとっては女性じゃないんだよね。自然に一緒に居れる空間。人としての優しさ。かっこよさ。憧れ…。
…全部が一人の人間として好きなんだ。」
由恵は静かに微笑みながら僕を見つめていた。
なんだかそれが照れ臭くて、僕は視線を反らしながら言葉を続ける。
「美咲ってさ、凄い笑うのが上手いんだ。悲しくても辛くても笑顔で全部隠しちゃう。
だからね、本当に楽しそうに笑う美咲を見付けるとさ…どうにもならない位に嬉しくて。」
そう言いながら僕は美咲の笑顔を思いだす。
昨日、旅館の廊下で僕と由恵を見付けた時、美咲は笑ってた…
いつもの様に悪戯っぽく笑ってた。
…今ならわかる。あの笑顔の下に隠された美咲の気持ち。
「マコ?」
不意に由恵が僕の頬に手を触れた。
それで自分が涙を流してしまった事に気付いた。
…かっこ悪い…
僕は慌てて腕で涙を拭う。
…情けない…
「マコは美咲に気持ちを伝えないの?」
不意に由恵が聞いてきた。
「気持ちってさ、やっぱり言わないと判らないよ。マコだって美咲の気持ちに気付かなかったでしょ?」
由恵の言葉が胸に刺さる。
…でも…今更気持ちを伝えて何になるんだろう。
これ以上、美咲との間に溝を作るのが怖かった。
「私が言うのも何だけどさ、マコも美咲も自分の気持ちを押し殺しすぎ!だから、私みたいな人に付け入られるんだよ?」
由恵が僕の顔を覗き込みながら頬を膨らませた。
それが何だか、前に美咲にあげたくまのぬいぐるみを思い出して笑いが込み上げる。
「もう!真面目に二人を応援しようって決めたのに!何で笑うの?」
由恵はそう言ってますます頬を膨らました。
「なんか、由恵と美咲が似てるなって思ったんだ。」
そう言いながらも笑いが込み上げてきた。
由恵はきょとんと僕を見つめて
「嬉しい。」
とはにかんだ。
そう言えば、こんな由恵の表情も久々に見た気がする。
僕の脳裏に浮かぶ由恵は、いつも必死に僕を見つめる姿ばかりだったから…
きっと今の由恵の表情には由恵なりの優しさと、我慢が詰まっているんだろう。
そう思うと少しだけ寂しさが押し寄せた。
「由恵。皆の所に戻ろう?」
僕はそう言って由恵に笑いかけると、ベンチから腰を上げた。
由恵も笑顔で頷き立ち上がる。
「由恵?ありがとうな。僕を好きになってくれて本当にありがとう。」
僕はそっと由恵にそう告げると、振り向かずにそのまま歩き出した。 |