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僕の宝物
作:バックハイ



47対決


「美咲ちゃん?」


突然かけられたトモの声に私は慌てて振り向く。
トモは私の顔を見ると、驚いてから困ったような表情をした。

…突然呼ばれた私は、涙を拭うのを忘れていた。

「…どうしたの?」

きっと私の涙の訳を聞いているのだと思う。

「ははっ!今ね、水しぶきが飛んで来たんだ。」

私は慌てて涙を拭うとトモに笑いかけた。

トモはそんな私の言葉に益々、顔をしかめた。

「美咲っ!」

今度はプールの方から名前を呼ばれる。
振り向くとマコが私に気付いた様子で歩いて来た。
その後では由恵が少し気まずそうに俯いていた。

私はそんな由恵に、何て声を掛ければいいのか分からないまま由恵を見つめた。

「…とりあえずさ、皆で違うプールに行こう?智博もシャチを借りてきたんだしさ?」

マコがそんな私達の様子に気付いて話し出した。
トモがずっと抱えていたシャチの浮輪は、トモの腕の中で少し寂しそうに見えた。

「そうだね。今度こそ皆でシャチで遊ぼうか。」

私はトモからマコへと視線を移し笑いかけると、マコもホッとしたような表情を見せた。
私もそんなマコの顔を見ると自然に笑顔がこぼれる。

本当に単純だな私は。
マコの表情や行動でこんなにも簡単に涙を忘れられる。
もちろん先程のわだかまりが消えた訳じゃないけど…
マコにこれ以上、私と由恵の事で心配をかけたくなかった。

ふと、マコの後ろから視線を感じた。
由恵が真っ直ぐに私を見つめたまま口を開いた。

「…私…美咲と二人で話がしたい」

…ドクン…

由恵の言葉と視線に私の胸が高まる。

…由恵…

マコが驚いた様子で私と由恵を交互に見つめた。

由恵が私とどんな話をしたいのかはわからない。
でも由恵の真っ直ぐな瞳から私は逃れられずにいた。

「…わかった。じゃあ、二人で向こうに行こう?」

私は精一杯冷静に言葉を探す。
由恵に笑いかけたつもりだけど、ちゃんと笑えてたかどうかは自信がなかった。

心配そうに見つめるマコとトモを他所に私達は歩きだした。


…恐い…

…恐くてどうしようもない。

…由恵が何を話すつもりなのか。

私の頭を最悪な事態が駆け巡る。



…由恵もマコも失ってしまう…。

それがどうしようもなく恐くて、微かに手が震え出す。

私がマコに告白をしてしまったせいで由恵を傷付けた。

私の入る隙間なんて最初からなかったのに…。


「美咲?あそこでいいかな?」

不意に後から聞こえた由恵の声。
私は慌てて振り返る。

由恵が指さした場所は先程トモと話をしていたベンチだった。

私はそれに頷きベンチへと足を向ける。

由恵が先に腰を降ろしたのを見て、私は少し距離を置いて隣に座った。


二人で少し離れて腰を降ろし、私は由恵が口を開くのを静かに待った。

しかし、由恵は黙ったまま沈黙だけが流れていく。

…どうしよう…。


とりあえず由恵にさっきの事を謝りたい。


でも、マコに告白した事を後悔はしたくない。

由恵に謝ってしまったら…私は告白した事を後悔してしまう気がして怖かった。

―先程、マコに告白した事を、私は由恵に伝えた。

由恵にだけは内緒にしたくなかった。
マコが由恵を好きな事も、由恵がマコを好きな事もわかっている。
だから余計に由恵に隠したくはなかった。


…ううん違う…


私は由恵を利用したのかもしれない。

マコへの告白は自分の気持ちに踏ん切りを着けたくてとった行動だった。

由恵に、私が告白した事を伝えて、私の入る隙間が本当にない事を確認したかったのかもしれない。

でも、私の頬の痛みと共に由恵も必死なんだと気付いてしまった。

(美咲のばか!ずるいよ美咲ばっかり!私にはマコしか居ないのに!)

先程の由恵の言葉が頭を過ぎる。

由恵の大きな瞳は涙が溢れていて、私を必死で睨み付けていた。


それは威圧感でも恐怖でもない。

本当に小さな子供が大人を睨み付けているような…そんな表情に私の胸は締め付けられた。

由恵が私よりも、余裕が無くなってしまっている事を感じずにはいられなかった。

マコの一番近くに居るハズなのに…。
 
私の入る隙間なんてないハズなのに…。

それでもきっと、私の告白が由恵を追い詰めてしまっていたのかもしれない…。

私はちらりと由恵へと視線を移す。
まだ俯いたまま何も話さない由恵へ私の方から口を開いた。


「…由恵?私ね、由恵の方が大事。由恵が嫌ならマコは諦める。」

自然に出た言葉だった。












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