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僕の宝物
作:バックハイ



32大人の恋


露天風呂で散々騒いだ僕等は、そろそろ夕食の時間とゆう事もあり、宴会場へと足を向けていた。

散々お湯を掛け合い、最後に水を掛けられた僕たちの身体は予想以上に温まっていた。
そのせいか、廊下を浴衣で歩くと調度良い涼しさで、それが温泉旅館の気分を満喫させていた。

ふと、前を歩く二人に気が付く。
その片方の女性が、浴衣姿で洗いざらしの髪をピンで纏め、後ろ姿が妙に色気を出している。

「由恵!」 

智博の言葉に、その後ろ姿が振り返る。
隣に居た元子は、前髪をピンで上げていつもより幼く見える。

「美咲は?」

僕は二人の方へ歩きながら聞いてみる。

「…多分、ロビーに居ると思うんだけど…マコ、呼んで来て貰ってもいい?」

由恵がそう答えながら、少し視線を逸らした。

……?

…僕、何かしたっけ…?

そんな由恵の様子を不思議そうに見ると、元子が由恵を覗き込みながら口を開く。 
「わざわざ迎えに行かなくても直ぐ来るんじゃない?あの人、中学の先生なんでしょ?」

…あの人?

僕は不思議そうに元子の顔を見た。智博も竜揮も同じ様な表情で元子を見ている。

「なんかね、中学の時の先生がたまたま旅行に来てたみたいだよ?」

僕等の視線を感じ取って、元子が続ける。
元子は中学校が別だったので、その先生は知らないらしく由恵と宴会場へと足を向けたらしい。 

「…でも…もう夕食始まる時間だし…あの先生に捕まると長いから…」

由恵が元子の方を見ながら怖ず怖ずと答える。
…よっぽど苦手な先生なのか…?

その様子を見ながら僕は

「とりあえず見て来るよ。」

と言って、ロビーの方へと足を向けた。


************

僕はロビーの前までやって来ると、ソファーに腰を降ろして話をしている美咲と男性を見付けた。 
僕は掛けようとした声を、一瞬飲み込んでから二人を見つめた…
「中学の先生」と言われて想像していた中年の男性とは違い、20代後輩と見られる男性は、爽やかな顔立ちと長い手足。そして醸し出された大人な雰囲気。
そして、その横で静かに笑う美咲は浴衣姿がいつも以上に大人に見えて…
…どう見ても二人は大人の恋人同士にしか見えなかった…

僕はそんな二人を前に、声を掛ける事も出来ずに立ち尽くすしか出来なくなっていた…

…そして何よりも、美咲がその男性を見上げる仕草、少し伏し目がちに笑う表情…全てが、僕の知らない美咲だった…

智博や竜揮に見せる、一線を引いた笑い方でも、僕に向ける悪戯娘の様な笑い方とも違う…

それは僕の目に、美咲は恋をしている少女の様に映っていた。


…僕の中で、先程の美咲の切な気な表情と、今の美咲の笑い顔が重なり始める…

…美咲の好きな男性が、あの隣に座る男性なのだと気付くのに時間は掛からなかった…

僕の中で消し去ろうとしていた喪失感が、途端に胸一杯に広がり始める。

僕の足は鉛の様に重く、その場に立ち尽くす他になかった。


すると、その男性が席を立ちながら美咲の頭に手を乗せた。
美咲も少しハニカミながら一緒に席を立つ。
そして視線が緩やかに僕の方へと向けられた。 

「…マコちん!」

美咲が僕の姿を見付けて声を上げる。
そして男性と少し話をしてから僕の方へと足を向けた。
その後ろで男性が僕に軽く会釈をしたので、僕も男性に頭を下げた。

「迎えに来てくれたの?」

美咲が笑顔で僕を覗き込む。

「…今の人は?」

僕はやっと声を絞り出して美咲に尋ねる。

「中学の時の先生だよ。部活の顧問だったんだ。」

笑顔で楽しそうに答える美咲。
僕は
「…そっか」 
と小さく返して、宴会場へと足を向けた。

「…マコちん?」

僕の態度に不思議そうに声を掛ける美咲。
僕は立ち止まり、精一杯の笑顔を作り美咲の頭に軽く手を乗せた。…先程の先生の真似をしてみたのだ…


「…ふ…ふははっ!何かマコちん変ー!」

…途端に笑い出す美咲…

僕は先程、美咲が先生に向けていた表情を思い出しながら、停めてた足をまた進めだした。












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