――とどのつまり、犯人は貴方以外に存在しないんですよ、フェルトさん――
テレビから流れてくるドラマのシーンが、無性に五月蝿く感じるのは、僕自身が焦っているからだろう。それは当然と言えば当然だ。計画を本当に実行してしまったのだから。
どうにかしなければならない。この部屋も、彼も、自分も。全てをどうにかしなければならない。しなければ、僕が破滅するのだ。永遠に破滅するのだ。
とは言うものの、計画に沿えば安全なのだ。確実に僕は生きられるのだ。破滅せずに済むのだ。
落ち着いて、落ち着いて、ゆっくりと後片付けをしよう。
久我「犯人は貴方ですね。蟹谷 恭生さん」
久我は病院の一室で、ベッドの上で横になっている蟹谷を指差す。
蟹谷は久我を眺め、口許を歪ませる。
蟹谷「刑事さん、何で僕が犯人なんです?僕は被害者ですよ?何で僕が瀬瀧を殺した事になるんですか?」
久我「一つずつ、ゆっくりと説明しますよ。私が貴方が犯人と決め付けた推理を」
久我は近くの椅子に座る。
久我「まず、私が貴方を疑った理由からです。
私達警察が着いた時、貴方はリビングで、死んだ瀬瀧 陽真さんと一緒に居ました。貴方は脚に傷を負って、動けなかった。」
蟹谷「そうです。だからこうして、ベッドに横たわってるんじゃ……」
久我「貴方は『瀬瀧さんに包丁によって刺されて、その場に倒れた』と言っています。それは判っています。
しかし、おかしいんですよね。貴方は確か『瀬瀧さんは僕を殺してやると言って、僕を刺そうとしてきた』と言っていました。
普通、殺そうとする相手の脚なんて刺しますかね?」
蟹谷「それはそうでしょう。僕は胸に向かって来た刃物をいなして、それが脚に刺さってしまったんですから」
久我「それは尚更おかしいですね。いなすという行動は大抵、攻撃をかわすか、脇の方へずらすものです。
たとえ下の方へずらしたとしても、脚に刺さる前に腹部に刺さる筈なんですよね。」
蟹谷は目を剥いた。額にはうっすらと汗が滲み出している。
久我「まぁ、それはまだ一つ目です。まだ、貴方を疑う所があります。というよりも、そちらの方が重要です。
もう一つの理由、それは出血量ですね。あまりにも大量の血痕が、リビング中に……」
「何だよ、この台本はよ」
ソファーに寄り掛かった大嶽 典仁は、目の前にあるテーブルに、角をホッチキスで留めてある紙の束を、叩き付けた。典仁のいる部屋には、タバコの煙と、テレビから流れるドラマの音が充満している。
「どうかしました?」
壁を一枚隔てて、笹村 楊午は反応を示した。その壁には、典仁のいる部屋とを繋ぐ、ノブ付きのドアがある。
「『どうかしました?』じゃねぇだろうが!」
典仁は怒鳴り声を上げ、壁の向こう側で、典仁の家で料理を作っている[使用人]を睨み付け、堰の外れた川の様に、思う事をぶちまけた。
「楊午、なんだよこの台本はよ!推理物にしちゃ、内容がお粗末だろ!
大体何だよ、『あまりにも大量の血痕が、リビング中にありました』ってのは。こんなの、テレビで流したら、途中で直ぐにバレるに決まってるだろうが!
それに、タイトル名が『X』って何だ!?出演者も未だに『X』ってのは?
こんなクソつまらない台本で、俺を使おうなんざ、千年早いんだよ!」
楊午はその言葉に苛立ったのか、手に包丁を握ったまま、ドアを思い切り開き、典仁を見据えた。
「ふん、本当の事だろうが」
典仁はタバコを取り出し、先端に火をつけ、部屋に更に煙を充満させた。
「そう……ですよね」
楊午は肩を小刻みに揺らし、包丁を持っていない手で、目頭を抑えた。
「典仁さん、それじゃ、昼食がまだ出来てないので……」
「いらねぇよ。こんなの見た後で、その野郎が作った料理なんか食えるか。」
楊午――使用人に対して典仁はそう言った。
「判りました。でも、僕は最後の昼食を作りますよ。」
楊午は包丁の先端を、典仁の胸に合わせた。包丁は鈍く光っている。
「貴方を材料にね」
典仁の後ろにあるテレビでは、探偵が犯人を指差していた。
――とどのつまり、犯人は貴方以外に存在しないんですよ、フェルトさん――
テレビから流れてくるドラマのシーンが、無性に五月蝿く感じるのは、僕自身が焦っているからだろう。それは当然と言えば当然だ。計画を本当に実行してしまったのだから。
どうにかしなければならない。この部屋も、彼も、自分も。全てをどうにかしなければならない。しなければ、僕が破滅するのだ。永遠に破滅するのだ。
とは言うものの、計画に沿えば安全なのだ。確実に僕は生きられるのだ。破滅せずに済むのだ。
落ち着いて、落ち着いて、ゆっくりと後片付けをしよう。
|