1つめのお話し
1つめのお話し 《お月見》
僕の名前は、リン。 僕のおうちは、森の中にあるんだ。 お兄ちゃんと、お母さんと、お父さんが、一緒に住んでいるよ。
僕の耳は、頭の上にあるよ。 目は、くりくりしていて、大きなシッポがあるんだ。 シッポは、木から木へ飛び移るとき、鳥さんの羽みたいに、とっても大事なの。
手と足のゆびには、ジョウブなツメがあって、木登りするときは、幹をしっかりつかんで、おっこちないようにするんだよ。
歯もジョウブで、生えはじめてからは、ずーっと伸びつづけるの。 かたいクルミの実のカラだって、ガジガジして、割っちゃうんだ。 スゴイでしょ?
僕たちのこと、人げんは‘リス’ってよんでいるんだって。 近くの民家に住んでいる、猫のおばあさんが、教えてくれたんだ。
猫のおばあさんは、おうちの人たちから、タマってよばれていたよ。 だから僕たちも、タマばあちゃんって、よんでいるんだ。
タマばあちゃんは、とってもモノシリで、僕たちに色んなことを教えてくれる。 僕は、お話しを聞くのが、大好きなんだ。
お兄ちゃんのハルは、お話しの途中で、いつもお昼寝しちゃうけど。
ひなたぼっこしながら、おばあさんのお話しを聞くのが、タイクツなんだって。 お外で遊ぶほうが、よっぽど楽しいって言ってる。 そうかなぁ?
タマばあちゃんが住んでいる、おうちの庭には、大きな金木犀の木があるんだ。
ちょうど今ごろは、小さなオレンジ色のお花が、きれいに咲いているよ。 スゴイ匂いがするんだ。 甘くて、おいしそうな匂い。 でも、お花は食べられないけどね。
僕たち兄弟は、その金木犀の木が大好きなんだ。 よく遊びに行くよ。
今夜は、‘中秋の名月’って言って、お月様が、とってもキレイに見える特別な日なんだって。 タマばあちゃんが教えてくれたよ。
だから、今から、いつもの金木犀の木まで、遊びに行くことにしたんだ。
お空は少し曇っていて、お月様がちゃんと見えるか、ちょっとシンパイ。
おうちを出るとき、お母さんが僕たちに言ったよ。
「あんまり遅くならないのよ。 明日は、早起きしなくちゃ、ならないんだから」
明日は、僕たちの大好物の、’オニグルミ’の実が、食べごろになるまで、あと、どれくらいかかりそうなのか、お母さんに教えてもらうために、朝早くおうちを出る約束なんだ。
僕たちは、「はーい」と返事をして、元気に、木のおうちを飛び出した。
お兄ちゃんは、木から木へ上手に飛び移る。 先に行って、僕を大きな声でよぶんだ。
「リン、遅い、遅い! おいてっちゃうぞ!」
「まってよ!」
僕は、少しコワガリだから、お兄ちゃんのように、ピョンピョンとは飛べないんだ。
足もとの枝が、太くてシッカリしているのと、飛び移るところの枝が、ジョウブそうかどうか、ちゃんと見てからでないと、コワくて飛べないよ。
わ! お兄ちゃんが、いそがせるから、足がすべっちゃったよ! 足が枝からおちちゃって、ぶらぶらしている……! コワいよぉ……。
イッショウケンメイ、枝に手のツメを引っかけて、しがみついた。
「…お兄ちゃん! タスケテ!」
「リン! がんばれ!」
僕が、うーん、うーん、って、2回、声を出してがんばっていたら、つかまっている枝が小さく揺れて、お兄ちゃんが来てくれた。
「ひっぱるからな!」
お兄ちゃんが僕の手をもって、えい! って、ひっぱってくれた。 足のツメも枝に引っかける事ができて、足と手のチカラで、やっと枝の上にもどれたよ。
「ふー、たすかった」
「もう、ちょっとで、金木犀の木につくから、行こう」
お兄ちゃんがそう言って、さっきよりもゆっくりと、先の枝へ飛んだ。 やっと、僕も追いつける速さだ。
金木犀の木についたら、タマばあちゃんが、おうちのエンガワで、毛づくろいしていたよ。 僕たちを見つけて、のんびりと声をかけてきた。
「来たね、リスのイタズラっ子たち。 空をごらん、もうすぐ雲がはれて、きれいなお月様が顔を出すよ」
「ほんとに?」
僕とお兄ちゃんは顔を見あわせて、それから一緒に、お空を見上げてみた。
お空の色は、雲の白っぽい灰色がおおかったけど、紺色のすき間があって、そこへ、お月様の青白い頭が、少しだけ出て来た。
雲の間から、こっそり僕たちを、のぞいているみたいだ。
「僕たちはコワくないよ、ちゃんと、お顔をみせてください」
「友だちになろう?!」
僕とお兄ちゃんが、ちょっと大きな声で、お月様に話しかけていたら、タマばあちゃんが笑って言った。
「お月様に、ちゃんと声はとどいたかな?」
「あ!」
「ちゃんと、とどいているみたいだよ? さっきより、いっぱい顔を出した!」
ちょっとだけ長ほそい形をした、丸いお月様が、雲の間から、顔をしっかり出してくれたよ。 きゅうに、まわりの景色がキレイに見えはじめた。
「お月様、スゴイね! さっきまで真っ暗だったのに、ほら、タマばあちゃんの顔も、お兄ちゃんの顔も、さっきより、ずーっとハッキリ見えるよ!」
「金木犀の花も、キレイに見えるな。」
お兄ちゃんはそう言って、お花のいい匂いを、おなかいっぱい、すい込んだ。
「うーん、おいしそう……」
「お花は、食べられないよ」
僕が言ったら、お兄ちゃんがイタズラするとき、みたいな顔をして言ったよ。
「けど、ミツはすえるよ?」
小さなお花を1つ取って、お花のうらがわに、口をつけている。 チュっていう音がして、お兄ちゃんは、うれしそうな顔をした。
「甘くて、おいしい!」
「え?そうなの?僕も!」
僕も同じようにして、ミツをすってみた。
「ほんとうだ! おいしい!!」
お兄ちゃんと二人で、いっぱいお花のミツをすっていたら、タマばあちゃんが言ったよ。
「あんたたち二人は、花よりだんご…。いや、名月よりも花のミツ、だね。やれやれ」
そう言って、ちょっと笑っていた。
花よりだんごって、なんだ? って、ちょっと思ったけど。ま、いいか。
金木犀のお花のミツはおいしくて、お月様の青白い光はキレイで、僕たちはつい、夜ふかし、してしまったよ。 おうちに帰ったら、お母さんにおこられちゃった。
早く帰ってくる、ヤクソクしていたんだった。 ……お母さん、ごめんなさい。
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