挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
魔法少女は空へ飛び立つ夢を見る 作者:楠楊
29/31

間奏

 白翼の魔法少女は空を飛び、空に近付くことを誰よりも望んでいました。
 しかし現実は甘くなく、少女に変化を強いました。
 やがて少女は自分の夢が叶わない空物語であることに気付きます。少女はその現実を受け止められませんでした。そして命を代償にし、無理矢理にでも夢を叶えようとしたのです。
 ――あの空にまで飛んでいきたい。魔法少女になったら、どこまでも飛んでいけると思っていた。でも現実はそんなことなく、あの空までいけることはなく、ただ地面の餌をつつく鳥のようなもの。羽ばたきたい。禁じられたあの空まで――。
 叶わない夢、届かない夢を抱いた少女は愛しき腕の中で静かに眠ります。
 天蓋の外、空を邪魔する遮蔽がない平原に、少女は埋葬されました。
 時々その場所に、物言わぬ影がやってきます。影は自分がどうしてこのような場所に来るのかを覚えていません。ただここに来ると、影は朝焼けの空に滴を落としました。
 天空ソラは悲劇をとげた白翼と黒翼に嘆きなさり、一つの奇跡をお与えになりました。
 それがどのような奇跡であったかは当人達しか知りません――。



「で、終わりになるはずないだろう?」

 童話の最後のページが破られた。光包まれた物語に一点の闇が生まれ、その中から藍をかたどる幽幻が姿を現す。空中で軽やかなステップを踏むと、首に巻いたおりが主を護るかのごとく張り付いた。腰の帯はぎらぎらと牙を剥き、人の注目を集め、主の印象を薄らげる。金色は力や富の象徴ではない。幽幻に潜む異物だ。

「さあ夢から覚める時間だ」


挿絵(By みてみん)


 劇は終演だと両手を鳴らし、演者の尻を幽幻は蹴る。

「本番を迎えてこその予行練習シミュレーションだ。同じ失敗は繰り返さないと誓い、立ち上がれ。これは僕が導き出した、結末の一つ。夢は終わり、現が顔を出す。君が目を覚ましたとき――そこは現実だ。
 あぁあぁ、責任転嫁しないでくれ。君には伝えたい言葉があっただろうに。うむ……頑張るんだよ。僕はもう、介入できないんだから。はいはい、この夢は幕引きだ。次の夢物語を奏でようじゃないか! 僕はいつでも、人とともに。たとえ声を交わすことも触れ合うことさえあたわずとも、僕はここにいる」

 ページが一枚破られようとも、新しい物語は生み出されていく。

「おや、こういう結末になったのは僕のせいだと言いたいのかい?」

 幽幻は歯を見せて、雛鳥に渡したはずのマフラーを背中に投げた。

「……夢を見ているのは僕の方か。ありがとう、いい夢を見させてもらった。ありがとう……ありが……とう。最後の一歩を踏み出す瞬間、人は独りになるとしても」

 夢が偽物で、うつつだけが本物ならば、この物語も泡となって消えゆく運命さだめ。だけれども語り続けよう。夢を追い求めた少女の物語を。彼女の心の支えになった機械人形の物語を。聞き手がいる限り、似た夢を抱いて追従する者がいる限り、ときには教訓として、ときには応援歌として、語り続けよう。
 夢主ゆめぬしらに幸あれ。




+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ