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彼とあの子を見かけた私

まだ肌寒いが、駅を出て見える晴れ渡った青い空に行き交う人たちは心なしか浮き足立っている。四月。春爛漫を期待して瞳は輝いているように思える。

「ねえ最近できたカフェに行かない?」

春らしい白のフレアワンピースの女の子が手を繋いでいる彼をお茶に誘う。

彼が何を言ったかは私には聞こえなかったけれど、あの子を見る優しい目が私の胸に刺さってしまった。

すれ違う私に彼は気付かないまま行ってしまった。

立ち尽くす私以外、行き交う人々は忙しなく、しかし自信に満ち溢れている。

置いてけぼりみたいな私は小柄だから、人通りの多い町中では埋もれてしまいそうで正気に戻って大学へと足を進めた。

好きな人はいた。同じ学部のお喋りではないけれど無口でもない優しい彼は、最近、恋を実らせ可愛いと評判の彼女を手に入れた。

私は地味で小さくて一度も染めたことのない真っ黒のショートヘアーだから、オシャレとは縁遠い。

あの子は、茶色く綺麗に染めた髪は胸まであったし、ゆるく巻いてある。

手足は細く長く、モデルのように背が高くスタイルがいい。とはいっても、彼の背丈を脅かすほどに高いわけではなく、160といったところだ。

私は149だから、170ほどの彼のとなりに並んだら不釣り合いで見上げなきゃならない。

あの子ならバランスもいいし、なによりぱっちり二重のあの愛らしい顔で笑いかけられたら恋へと一瞬のうちに突き落とされてしまう。

いつも、笑顔を絶やさない可愛いと評判の彼女と地味で自信もないちっぽけな私。

ショーウィンドウに写る小さな地味な女の子と目があって思わず溜め息が出る。

「はぁ」

いつもは、彼とあの子からも鏡からも目をそらすのに。

春爛漫の今日は私にとっては嬉しくもなかった。



「菜々子、どうしたの?」

ぼうっとしていた私に大学の友達が心配そうにしている。

彼女はあの子と同じように髪を茶色に染めていてゆるく巻いている。二重の目は大きくて綺麗。お化粧だっていつも入念だ。170近くある彼女はモデル体型。いつも明るく地味な私にさえも優しい。いいなぁ、可愛くて。私なんかとは大違いだよ。

「可愛いなあ」思わず出た独り言に目の前の彼女は目を丸くしたあと体ごとぶつかってきた。否、抱きついてきた。

「菜々子ありがとうー!大好きよ!!」

ひとしきり彼女が私を抱き締めたあと、体をやっと放して

「でもね、菜々子だって可愛いよ!」

「ないないないよ!何いってるの、ともちゃん!!」

あわてて否定する私に、ともちゃんは、可愛いよ変わらずに言ってくる。

その日は可愛い、可愛くないって双方その一点張りで譲らずに終わった。

可愛いわけないよ、私なんか。



地方から上京した菜々子こと、私はやっすいアパート暮らしだ。

独り暮らしとは食事が一番めんどうである、とは菜々子の姉が言っていた言葉だ。確かにコンビニで出来合いを買ってきたら栄養が片寄るし、お金もかかる。

かといって、張り切って自炊しても長くは続かない。

けれど、出来るだけ自炊をしようと私は思っていた。お金を貯めていつか変わるのだ、可愛い私に。服を買ってみたいし、薄化粧の普段とは違ってやってみたことのないアイメイクもしてみたい。服は白いレースのワンピースがいい。合わせて靴も買いたい。ヒールが高いものがいい。

髪も編み込んだり、巻いてみたい。染めてみたいけれど、勇気はなかった。

そんなふうに、気分を上げてみるけれど、暗い室内の電子レンジに写った自分にまた溜め息。

地味で代わり映えしない私が可愛くなれるわけないよね。

自信がほしい。可愛いっていう自信が。

誰も羨んだりしない自信に満ち溢れている私になりたい。


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