西洋人で日本語を話せる人間は少ない。
しかし、日本でのビジネスはかなりの金になる。今では、日本人側が英語を話せるようにしているところが多いらしいが、記者会見ではそうもいかない。
つまり、この俺のような存在が必要となる。
日本語も英語も任せろという超優秀な通訳が。
前回、クラウチ……もとい倉内の会見で、手痛い失敗をした俺は、今回の仕事には入念にチェックを入れた。
そう。そいつが日本語を話せるかどうか、だ。
今回の選手は全く日本語は話せない。つまり、今度こそ、俺の出番ということだ。
「それでは、記者会見を始めます」
俺の隣に、今回の主役である元イギリス人のサッカー選手、ウエインがいる。なぜ元なのかというと、日本国籍を取得し、名前が『上院』になったからだ。
……しかし、最近はイギリスサッカー選手の帰化が多いな……来週あたり『貴公子』という異名を持つアイツも来るんじゃないのか? イギリス代表にはもう呼ばれない可能性が高いだろうが、日本ならまだ十分エースクラスの力を持ってるだろうし。なにより日本じゃ異常に人気高いしな……
いやいや、いかん。すでに会見は始まっているのだ。これはビジネスの時間だ。個人的な考察は止めよう。
今は上院の通訳を……しかし、少し強引すぎやしないか? この名前……
「ウエインさん、Jリーグへの移籍に伴い、国籍まで取得した理由をお聞かせください」
日本人の記者が質問する。
よしよし、ここで俺の出番だな。見てろ、この華麗な通訳を……!
「金だよ! 金! それにFA(イギリスサッカー協会)にアホな始末書や謝罪文なんざ書きけるかってんだ! あと、ここならFWが雑魚ばっかだから、好き勝手やらせてくれんだろ? (全文英語)」
……そうだった。コイツ、アレだ。素行や発言に非常に問題のあるヤツだったんだよ……。それで付いたあだ名が『悪童』だもんな……しかし、リップサービスくらい覚えろよ! チクショウ!
「……え、ええっと……金銭的に裕福であるため、この国のFWはゴールに対するハングリーさが足りない。自分がそれを補いたい。FAは関係ない……と言っています」
誤魔化せたかな? 多分、大丈夫だ……聞き取れるような単語はそのまま使ったハズだ……。
「プレミアリーグ内のみならず、世界的に見ても非常に高い次元であらゆる攻撃能力を有するあなたを、チームは手離したくないと考え、かなりの額で交渉されたと訊きましたが?」
これくらいは普通に受け答えできるだろう……。
「なんでテメェに俺の給料の話をしなきゃなんねーんだよ! C.ロ○ウドと一緒にぶっ殺すぞ! (全文英語)」
オイオイオイ! 切れるならまだしも、なんで爆弾発言付だよ!? 和解したんじゃなかったのかよ!?
「……ノ、ノーコメントです。皆様のご想像にお任せします。C.○ナウドは関係ありません……と言っています」
うぉーい! 俺の出番あるのはいいけどコレ、ヤバイよ!
もう一言も喋らずに終ってくれ、ウエイン。
嫌な汗、掻きまくりだ。喉もカラカラ……。
とりあえず出された水でも飲もう。……う、ぬるい。ぬるすぎる! でも旨い! もう一杯!
次の記者が立ち上がり、質問をする。
「こちらに来てから、日本の料理で気に入ったものはありますか?」
スポーツに関係ないと思うのだが……?
「はぁ!? アホかテメェ! サッカー関係ねぇだろ!? それとも何か? スシ食えば、シュートが枠に飛んでくれるのか!? FWも役立たずばっかなら、プレスも役立たずばっかだな、この国は! オイ! テメェ! とっとと帰ってテメェの大好きなカァチャンのおっぱいでもしゃぶってろ! (全文英語)」
なんでそこまでケンカ売るんだよぉぉぉ! 切れ過ぎだろ!?
「……ス、スシです。あ、あと日本のミルクはサイコー! ……って言ってます」
ああ……もういいよ。俺、ガンバルよ。ほら、次々と(俺が変わりに)質問に答えてやるよ。ウエインいらないよ、てかイギリス帰れよ。
…………。
「以上で、記者会見を終わりにします」
あー、やっと終わった。
嫌な汗でずれかけた眼鏡を直したり、異様な喉の渇きにガバガバとぬるい水を飲んだりして、何とかこの場を凌いだな。
これでクラウチのときと報酬一緒って、全然割に合わないよな……。
隣のウエインも立ち上がる。そして、記者団向けて一言。
「ファック・ユー!」
っ!
「あ、ありがとう!」
「ファック・ユーくらい解るよ、バカ野郎!」
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