一時 優しい少年と新しい生活
周りが真っ暗な場所で男性と少女が居た。
男性は私の父だった、父が少女を見る。
その目には怒りの感情が込められている様な目だった。
父がゆっくりと口を開く。
『ちくしょう・・・俺が何をしたってんだ、ああ!!』
父の手が少女の髪をつかむ。
その少女は幼い頃の私だった。
『いや、やめてお父さん。』
泣きながら少女は父に言った。
すると、父は顔を真っ赤にさせて言った。
『うるせぇ!! お父さんなんて呼ぶんじゃねぇ!!』
そして、少女を殴る。
力が強かったのか少女は頭から血を出しながら倒れる。
「いや、・・・・やめて。」
私は思わず声を上げる。
父は倒れた少女を何回も蹴る。
そして、これで最後とばかりに大きく足を上げる。
「いやぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
その足が少女、幼い頃の私の腹部に入る。
サッカーボールのように飛び、地面を三回ほど転がって止まる。
その時、視界が黒から白に変わり、目が覚めた。
◇
がばっと、ベットから体を起こす。
「あれは・・・夢? それに・・・・ここは何処?」
息が荒く、汗も凄く掻いていた。
昔の事だ、あれは夢、今は大丈夫、そう思うことにして、周りを見てみた。
今いる場所は、部屋の隅のベットの上、周りの家具は綺麗にされており、埃ひとつ無い。
外は土砂降り、窓を打つ雨の音がすごくうるさい。
「私の家とは違う、こんなに綺麗な部屋もあるんだ。」
春の家は掃除なんて滅多にしなかったので、いつも埃だらけだったし、
他にもカップ麺などのゴミで散らかっており、足の踏み場も無いほどだった。
この部屋は違う、余計なものが何一つなく、よく言えばさっぱり、悪く言えば殺風景な部屋だ。
「ってなんで悪く言わなきゃいけないの、元の家に比べたら十分だよ。」
なんて言っていたら扉が開いて、自分と同い年くらいの少年が入ってきた。
「起きてたの、大丈夫?」
その少年を見た時、私は思わずこう言ってしまった。
「え、・・・・・・・・翔・・・君?」
そっくりだったのだ、幼馴染の翔君に、でも少年は。
「違うよ、僕は椿、翔って名前じゃない、君は。」
「わ、私安藤春って椿君、名前は?」
「ないよ。」
「え?」
「それよりもこれ、安藤さんのだよね。」
そう言って、椿君はポケットから懐中時計を取り出した。
「あ、そう私の。」
私がそう言うと、時計を渡してくれた。
時計はまだ止まったままだ。
「ずいぶん古いね。」
「そうなの、おばあちゃんので。」
「そっか。」
そう言って椿君は、服をタンスから取り出し、私に渡す。
「着替えなよ、汗、掻いてるでしょ。」
「・・・・ありがと。」
久し振りに素直にお礼が言えた気がした。
「どういたしまして。」
そう言って椿君は部屋の外へ出て行った。
あっ、早く着替えないと、汗で気持ち悪いし。
◇
「単刀直入で聞くけど、君はどうしてこんな所に?」
着替えが終わり、部屋に戻ってきた椿君に真剣な顔で聞かれた、しかもいきなり確信。
でも、私は隠さずに全て話した。
こうやって、全てを話せる人が居なかったから、親に虐待を受けた事、生徒にいじめられた事、全て話した。
途中から涙が出てきた、擦っても止まらない。
「もう、あの家に・・・・帰りたく・・・ない。」
口から嗚咽が漏れる、みっともないと思っても出てくる涙。
それをしばらく見ていた椿君がこう言った。
「じゃあ、ここに住めばいいよ。」
「ふぇ?」
驚いた、まさかそんな事を言われるとは思ってなかった。
「ここは椿荘って言ってね、簡単に言うと親がいない子が集まる所、今の所住人は四人いるけど、安藤さんはどう?」
嬉しかった、初めてだった、こうやって人に聞かれるのは、今までは有無を言う事なんて無かった、決めた、私はここで変わる。
涙を拭いて、力強く言った。
「よろしくお願いします!!」
そう言うと椿君は、少しだけ笑ってこう言った。
「はい、ようこそ、椿荘へ。」
私はここで変わる、そう決意した日、土砂降りだった外は眩しいほどに晴れていた。 |