男は薄暗い廊下をゆっくりと物音をなるべくたてないように進んでいた。男が今いる場所は数年前に経営が破綻してしまった廃墟の病院である。男はむちゃくちゃ怯えていた。なぜなら、この病院は”出る”と近所で評判なのである。昼間でも薄暗い病院なのであるが、男が今いる時間は丑三つ時であった。なぜ? このような時間に、このような場所に男がたった一人でこないといけないのか? 理由は簡単である。これは罰ゲームなのだ。昨日、男は仲間と賭け麻雀をしてひどく負けてしまった。仲間内では金銭を賭けるのはご法度なので最初から一番負けたものが、この病院に一人で徘徊しないといけないとわかっていたのだが、男は麻雀には、いささか自信があったので、まさか自分が最下位になるなんて夢にも思っていなかったのであった。しかし、結果はこのザマで……この薄気味悪い廃病院を一人で徘徊しないといけないのだ。
男の仲間は病院の玄関で待っている。ご丁寧に病院に男が入っていく前に、散々脅かしてくれた。
「あの病院はなぁ〜婆さんが”出る”んだそうだ! 婆さんにつかまると魂を持っていかれるって話だ! 罰ゲームといっても命がけだから気を抜いたらだめだぞ。それと、婆さんは物音に敏感だから、そのへんも注意するのだぞ!」
男は仲間が忠告してくれた通りに物音をたてないように廊下を進む。しかし、仲間が言っていた婆さんの事を考えると実に怖い。男の心臓はバクバク激しく鼓動している。それでも、男はなんとか、自分を奮いたたせて廊下を進む。そして、男は恐怖を抱きつつも、仲間が事前に指示していた手術室と霊安室をクリアーすることが出来た。あとは来た道を戻って仲間の元に戻る、そしたら、この罰ゲームは終わる。そう考えると、男はつい早足になってしまっていた。来た道の長い廊下を早足で進む男、あの廊下の角を曲がると仲間がいる玄関ホールに着くと思った時、男はついに駆け出して廊下の角を曲がった。その時、廊下の角にあった、防火用バケツに足をあててしまい、激しい音をたててしまった。男の視界には玄関ホールで心配そうに男を見ている仲間の顔が見える。男が音をたててしまったので仲間の顔が歪んだ。仲間はやってしまったという表情をしている。男は不安になってふと横を見ると、老婆が神妙そうな顔で男をみていた。そう男は老婆に見つかってしまったのだ。男がやばいと思ったとき、老婆はなにやら得たいの知れない呪文みたいな言葉を男に発する。その瞬間、男の体は金縛りにあってしまって、身動きがとれない。更に老婆は男が身動きが取れないのを確認すると、男に水みたいな物を体のかけた。男は体が焼けるような痛みを感じた。
その時である…… 薄暗い玄関ホールがパット明るくなった。いつのまにか、老婆の横にはテレビカメラと照明を持った男達とマイクを持った女性が立っていた。
もがき苦しんでいる男に老婆は声をかけてきた。
「苦しいかぁ? 苦しいだろう! 我慢せずに楽になりなさい」
男は老婆が何をいってるのか訳がわからない。続けて老婆は男に……
「成仏しなさい! 成仏を! なぜならお前は死んでることすらわからない地縛霊なのだから」
老婆はカメラを持った男に指示をだしている。
「しっかり、撮るのですよ、私の除霊によってこの霊が成仏するところを」
マイクを持った女性が老婆に質問する。
「法師様この霊は一体?」
「恐らく、この病院で亡くなった地縛霊です。まもなく、この霊は成仏するので、この病院での怪奇現象はおさまることでしょう」
「流石ですね。法師様」
女性が感嘆している時に、男の体は成仏した。
無論、この様子が後日、テレビの心霊番組で放送されたことは言うまでもない。
視聴者がカメラで男を確認することは出来なかったが……
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