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  平成幻想奇談掌編録 作者:春風夜風
バレンタイン、間に合わなかった……。

はい。新連載です。相変わらず奇妙な東方観です。一応、一話完結5000字以内を目指しています。またこの作品は、同作者の『東方な日々。』ともリンクしています。なので、そちらを未読の方にはやや分かりずらい設定などがあるかもしれません。
はっぴーばれんたいんでー
 
 2月14日。晴れ、時々曇り。
 冬の寒さも折り返し地点を過ぎただろう今日この頃。博麗神社で巫女をしている私、博麗霊夢は、本日も朝から蕎麦屋でバイトに勤しんでいた。実を言うと最近は巫女としての仕事も増えたのだが、しかし安定した収入が得られるこの仕事は、すでに無くてはならないものになっている。
 今日は何故か、朝から沢山の客で賑わっており、商店街の方が騒がしい。聞いた話によると、本日限りでしか食べられない希少な食材が出ているそうだ。その食材が何なのかまでは知らないが、お陰でウチの店にも客足が流れ、まだ昼前だというのに店内は満席状態になっていた。
 景気の良い話はまだある。今日は何かの記念日なのか、皆、高いメニューを注文してくれた。初めての顔も馴染みの顔も、まるで財布の紐をどこかに落としてきたかの様に今日はやけに太っ腹だ。更に何故か皆フレンドリーで、期待に満ちた表情で話しかけてくるので、しかし蕎麦屋の看板娘たる私も満更悪い気はしない。店長も終始ご機嫌である。これはひょっとすると、今日は特別ボーナスが出るかも知れない。
 などと浮かれていると、
「霊夢ちゃん。今日は、ホラ。誰にあげるんだい?」
 そんな事を一人のお客に聞かれてしまった。慌てて声の主の顔を見る。よく見る顔だ。確か呉服屋の主人か何かだったと思う。毎日昼時になると、この蕎麦屋に顔を出してくれる。そしてその件について店長曰わく、『ありゃあ、間違いなくファンだよ』とのこと。何のファンかは聞いてないが、蕎麦のメニューか何かだろう。有り難いことである。
 とにかく話しかけられたので応えることにする。
「……何の話でしょうか?」
「お~っ。さすが博麗の乙女。ガードが堅い!」
 ガードが堅ければ蕎麦屋でバイトなどしていない。益々意味が分からなくなった。何やら楽しそうというか、嬉しそうな表情も気になる。だが、そうこうしている内に他のお客から注文がかかったので、それ以上は聞けず終いになる。激しい違和感を覚えたが、まあ、何か勘違いでもしているんだろう。
 何故かその日は、後にも何人かに同じ様な事を聞かれてしまった。ブームなのだろうか。しかし、どのお客も、それ以上聞き返すと納得したようにはぐらかすので要領を得ない。挙げ句、バイト上がりに店長にも同じ事を聞かれてしまい、益々奇妙だ。
 もしかすると新手の宗教が流行っているのかも知れない、と考える。しかし、だとすると神社で奉仕する巫女が、異教に流されるようでは格好が付かない。より一層、自らを強く持つ必要があるだろう。
 私は決意を新たにして、そそくさと自分の信じる博麗神社に帰る事にした。

 そして愛しの我が家に帰ってみると、
「――おう霊夢。邪魔してるぜ」
 がくっと肩が落ちる。自身が一番安心出来るはずの神社に帰って直ぐ見たのは、私が一番見たくない顔だった。白黒の装束を身に纏い、自称普通の魔法使いを名乗る奴は、悪魔を崇拝する異教の徒である。神域を乱しに来た悪党である。つまりコソ泥である。また私のとっておき(緊急時用夜食)を失敬しに来たに決まっている。
 妖怪だろうが悪魔だろうが、救いを求める者には救いを与えるのが博麗の神道であるが、コソ泥には救いは無い。さっさと追い出すのが吉であろう。
「……と言う訳で、今すぐ即刻即座に迅速に帰りなさい」
「もう少しくらい話を聞いてほしいんだぜ」
「何しに来たのよ」
 私は不機嫌そのものな態度で聞く。これが絡むと大抵ロクな事にならない。魔女は不吉の象徴なのだ。
 すると、そんな私の心の内など全く意に介さない白黒は、ちょっと待てよなどと言いながら帽子の中を探り始める。なぜ帽子の中に物を入れるんだ。だが私は、そんな所から出てくる物などに興味はないし、言っても無駄なので黙っておく。帽子を四次元ポケットが如く使う奴は、その内、帽子の神様に祟られればいい。
 そうして奴は、私に向かって何かを放った。
「ほらよ、なんだぜ」
 私はそれをキャッチする。甘いにおいがする。奴が寄越したのはチョコだった。えらく安っぽい。しかし、なら私も渡す物がある。
「……奇遇ね。私も、ほら」
 そう言って私も同じように白黒にチョコを放る。バイト帰りに買ってきた物だ。売れ残っていたから安かった。
「今年も、なのか」
「今年も、なのね」
 溜め息混じりにごちる。一体、私達はどれくらいの間こんな事を繰り返せばいいのか。一体、私達はいつになれば友チョコから卒業出来るのか。
 そう思いながら私は貰ったチョコをかじる。苦い。とても渋い味がした。
「来年は、いけると思うんだ」
「じゃあ、一応お祈りしておく? 45円出しなさい」
 ――ちゃりん。お賽銭は空しい音を立てながら落ちた。それを合図にするかのように二人は同時に息を吸う。
「「来年こそはいい人が出来ますようにっ!!」」
 そして、その声は綺麗にハモったのだった。







 ……そりゃあ、私だってバレンタインくらい知ってるっつーの。


……はい。でもこの作品の立ち位置は明確に出来た気がする(笑)


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