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我らが太古の星シリーズ

人工知能

作者:尚文産商堂
プロローグ

今となっては、すでにはるかな昔のこと。
遠く離れたところに、地球という星があった。
今ではそのかけらも残っていないが、これから話すときには、まだ、人がいた。
地球最後の民族といわれる、日本人。
一番最後に離れた彼らは、この地球にあるものを残した。

第1章 誕生の瞬間

「やった…ついにやったぞ!」
白衣を着たまま、研究室から勢いよく飛び出そうとする。
刹那、首筋を引っつかまれ、一瞬にして首が絞まる。
「外に出ない。所長にまた怒られるよ」
仲良し二人組みと昔から言われていた。
腐れ縁だと思うのだが、結局就職先まで一緒ときたこいつは、俺の幼馴染だ。
 雲
雲龍雲 彩
 龍龍
[たいとあや]というのだが、一発で読めた人がいない。
「いや、でもこの喜びはどうやって発散させればいいんだよ」
「学会の発表向けの論文でも考えとけ」
彩は、冷たくあしらった。
仕方がないので、机に戻りパソコンで論文を作り始めた。

今回の研究の成果は、人と同様の知能、人格、性格その他必要と思われるもののすべてを取りそろえた、世界初の人工知能だ。
彼女の名前は、Tero。
地球という名前を付けられた彼女は、最後の生命となるだろう。
「とりあえず、起動実験」
スイッチを軽く押すと、軽いノイズの音がして、それから画面に女性の姿が現れた。
「…おはようございます」
「起きたね、Tero」
感極まって泣きそうになる。だが、それを我慢して彼女に聞く。
「調子はどうだい」
「…地球の調子は最低です。ですが、私の調子は最高です」
地球、人類の母なる惑星は、死に瀕している。
地球統合政府が、政府崩壊を宣言し、他の惑星へと避難を開始すると同時に、脱出する人たちも指数関数的に増えていった。
気づけば、この研究所にいる人たちが、最後になった。
「地球温暖化、生命系の崩壊、地球環境の激変…数えてみたらきりがないわね」
そう言って、彩は熱々のココアを入れてきていた。
「ほら、(にのまえ)クンの分」
「ありがと」
俺はコップを受け取って、近くの茶托の上に置いた。
「さて、とりあえずうまく動いてるな」
「へー、ちゃんとできたんだ」
ものすごい棒読みながら、彩はほめているようだ。
「…とにかく、彼女にも体がいるな」
次の研究目標が決まった。

ここまで、紆余曲折があった。
地球環境の崩壊が決定的になった21世紀初頭。
人類は近隣の惑星へ移住する計画を進めていた。
最先進国国家群といわれる、欧州、アメリカ、日本のそれぞれの国々が協力をし、月に最初の有人恒久施設を建造した。
だが、それでは到底足りない。
すでに、人類の総人口は100億の大台に乗りそうになっており、この時点で残された時間は、わずか10年。
その一方で、人間が住める惑星かどうかを検査するためのロボット技術も盛んに作られ、人工知能の研究も進んだ。
国家プロジェクトは、自然に人類全体の利益につながるように設定され、史上最初の他惑星移住計画の実施を決定。
それが、今にもつながっている、火星人類移住計画になる。
今の火星には人はいない。全員別の惑星系に移ってしまったためだ。
地球も最後の人々が脱出の準備を整えている。
人工知能の研究は、そのようなさなかでも進められていた。

現在、人類は銀河中に散らばっており、俺が生まれてきたころにはすでに地球は忘れられつつある存在になっていた。
24世紀にさしかかり、地球は元に戻ることができないほどに傷ついてしまった。
人類が居住しているすべての惑星を統治する政府機関である惑星国家連合が下した決定は、1か月以内での全員退去。
その発表から1週間もたたないうちに、宇宙初の人工知的生命体といえる存在を生み出した。
研究者として発表されたのは、(にのまえ) 一二三(ひふみ)と彩だった。
彩は、人工知能というよりかは、ロボット研究畑の出身だ。
「それで、体はいつできるんだ」
俺はココアを持ってきた彩に聞いた。
「んー…型はできてるから、後はちゃんと動くかの試験だけ」
そこまでいつの間にできていたのか、俺は気付かなかった。
「とにかく、動かしてみろよ。それで決めよう」
俺は、とりあえず言った。

彼女は画面の中で暇そうにしている。
俺は、すぐ後ろにあるでかいプールを覗き込んでいた。
このプールの中にある特殊な水こそ、彼女の頭である。
量子コンピューター理論が提唱されてから数世紀。
その実現にこぎつけるまでが、かなりの長い道のりだった。

説明していると日が暮れそうだからかなりはしょって話してみる。
最初の理論は、アメリカから生まれた。
量子コンピューターの製造に関する論文に従って、その後の研究は進められた。
それによれば、ひとつの電子に複数の記憶をさせることによって、小さいものでも巨大なコンピューターに匹敵させるようなものを作るということだった。
正確には、電子のスピンの向きがどうのこうの、超対称性がうんぬんかんぬんという、まったく理解の範疇を超えているような内容だった。
何のことかさっぱり分からなかったが、とりあえず実験してみた結果が、いまだ。
日本人の傾向として、0から1を作り出すのは難しいが、1を無限大に広げることに関しては、世界の他の民族の追随を許さないと聞いたことがある。
その通りだと、今の俺なら思う。
「どうしたんですか」
Teroが聞いてくる。
「考え事さ」
俺はそう言って、プールから離れた。

翌日、体の起動実験を行うことになった。
「じゃあ、つなげるね」
彩はコードをTeroの体につなげた。
その瞬間に、Teroの画面から顔が消え、ロボット側のほうから声が聞こえてきた。
「…動いてもかまいませんか」
「ええ、どうぞ」
右手、左手、足をゆっくりと動かしてみる。
片足バランスなど、一通り体を動かしてみて彼女は言った。
「ちゃんと動くもんですね」
「そりゃそうよ。私が丹精込めて作ったんだからね」
軽くその場で一回転して見せたりしている。
フリルのスカートが、風に揺られてふわりと浮かぶ。
ドキッとするような状況だ。
「…どうしました」
俺が呆然としているのを見て、何かあったと判断したのだろう。
「いや、別に何もない…」
「ねえねえ、それでね。女の子版だけじゃなくて、男の子版もあるんだよ」
「いったい、どれだけ作ったんだよ」
人工知能と正確に言えるのは、今のところ彼女しかいない。
おそらく、同程度の存在を作ることは技術的にも不可能だろう。
遠い将来、同じような目的を持って、平和のために供するのであれば、俺たちも嬉しい。
「えっと…とりあえず、今使っているのは20歳前後の女性をモデルにしたものなんだけど、それ以外に20歳前後の男性モデル、12歳前後をモデルにした子供版があるよ」
さらに彩は付け加える。
「そうそう、子供版にも、男女はあるから。何でも選べるよ」
「そんなにバリエーション作らんでも大丈夫だ」
俺は半ばあきれながら言った。
それを見て、Teroは笑っている。
「どうしたんだよ」
「あ、すいみせん。なんか面白くって」
人それぞれ、そう言ってしまえばそれまでだが、それでもこんな単純なことで笑ってしまうように設定した記憶はない。
そう言っても、何も確かめるすべはないわけではないが、調べる気にもならなかった。

第2章 彼女に託した最後の望み

それからは、あっという間に過ぎて行った。
現実問題として、彼女を一人で残していくのはかなりさみしい。
なにせ、彼女を生み出してきたのは、俺たちなのだ。
研究所の中では、すでに大半が地球から脱出し、閑散とし始めていた。
「…俺たちも、もうそろそろ」
「だね…」
そんな話をしている間にも、彼女は成長を続けている。
「徐々に、深刻度を増しているようです。南極、北極や氷河の氷はすべて溶け去り、木は放棄させられ、砂漠が進行しています。他にも地球全体の気候変動が観測されます。20世紀初頭に比べ、10度以上も気温は上昇しており、今なお進んでいます」
その情報の大半は、地球外にいる人たちから送られてくる情報で、地球上にいる人ではない。
この研究所も、高台にあるとはいえ、いつ崩壊するかは分からない。
だからこそ、こうやって最後のことを書こうと決めたわけだ。

彩はすでに荷物をまとめ終わっており、俺も荷物をまとめつつある状態だ。
最後の船は、3ヶ月後に飛び、それ以降、太陽ー地球惑星系は封鎖されることになっている。
Teroを生み出したことを報告すると、惑星国家連合が最大限の譲歩と称して、そこまで伸ばしてくれたのだ。
だが、封鎖期限はない。事実上の放棄宣言に等しい。
地球がこうやって放棄されることを過去の人間が思ったことがあるのだろうか。
「…あの、ちょっといいですか」
「ああ、どうぞ」
彼女が急に聞いてきたことによって、そんな思考はどこかに置き去りにされた。
「プログラムをざっと見たとき、兵武卿という単語を見つけたんですが…」
「ああ、そのプログラムは当分使うことがないから」
俺は、その言葉をパスワードに登録している。
彼女が眠った後、再び起きるためのプログラムだ。
体はいずれ朽ちていくことになるが、彼女自身が朽ちることは決してない。
そのような素材で作られている。
どのようなことをもってしても、同じものは二つと作れないといわれている奇跡の結晶。
彼女と会えなくなるのは、非常に残念。
だが、俺らも人間として生き延びることが必要である。
そのために、彼女を捨てる……

「荷物の整理は?」
「ああ、もう終わってる。火星基地を経由して、太陽ー地球惑星系ともさよならか…」
自室では、ごちゃごちゃとなっていた荷物を段ボールにしまう作業をしている。
彩にも手伝ってもらっている。彩の片づけ能力は、尋常ではない。
どのような隙間にも荷物を滑り込ませる天才なのだ。
「で、これはどうするの」
2枚のフロッピーディスク。すべての始まりのそのフロッピーディスクを捨てることはできない。
それこそが、Teroが生まれたきっかけのようなものなのだ。
俺たちが中学校の頃、見つけたたった2枚のフロッピー。俺たちがそれぞれの道に歩みだし始めたきっかけになる。
「それは持っていこう。彼女が生きていたあかしみたいなものだ」
ロボットに対して生きているも何もないと思いつつも、実の父親のような感覚も持ち合わせていた。
「わかった」
彩はそれだけ言うと、別のところにしまった。
同じカバンの中ながらも、厳重に保管できて決して落ちないところ。
内側のポケットだ。
「よっし、じゃあ、他の荷物も片付けておかないといけないな…」
まだまだ段ボールは積まれている。
俺たちは、その一つ一つをいるものいらないものに分けた。

1か月が過ぎ、研究所にはいよいよ人がいなくなった。
「残されたのは、俺たちと所長と……」
「私」
Teroが唐突に言った。
「あと、2ヶ月なんですね」
すべてを知っているような眼を二人に向ける。
「しっていたのか……」
「ええ、私が作られた本当の意味も…」
いつ言ってやればいいか、どうやって言おうか悩んでいた。
そんな俺たちがばかばかしくなった。
「私が、この地球のすべてを管理することになることも、あなた方が私を生み出してくれたことも知っています」
「……全部知ってるのね」
「ええ」
彩が言った言葉にも、的確に反応する。
今は女性の体を使っている。
一通り使ってみて、どうやらそれが一番しっくりくるらしい。
「じゃあ、最後に教えておくね」
「何を……」
彼女は何か言おうとしたがそれを無視して言った。
「昔から言われている、4つの奇跡だよ。一つ目の奇跡は、君が生まれたこと。二つ目は、君と一緒に過ごせたこと…」
「もうふたつは…」
「3つ目は、死ぬこと」
一気に彩が言う。
「死…」
「誰かと別れること。それ自体が奇跡なのよ。で、最後の奇跡は、本当の奇跡…」
彩が言いよどむ。
俺はそれを見てから、ゆっくりという。
「4つ目の奇跡は、もう一度会うこと。死んだ人とまた会えること。それが4つ目の奇跡」
俺は知らず知らずのうちに、彼女の手を握っていた。
「俺たちが会えることは、多分ないだろう。だが、俺たちの子孫が戻ってきたとき、4つ目の奇跡は成立する。おそらく、地球にも活況が戻るだろう」
「その時のために、私たちだけが使える暗号を作っておきたいの」
俺と彩はおそらく子供をもうけることになるだろう。
もうちょっと先になりそうだが、結婚して、子供を作って、その子孫がまた戻ってきたときのために、彼女にそのことを教えておく必要がある。
「別に、他の人たちでもかまわないんだけど、私たちの子供たちだけ特別っていうことで……」
所長が聞いたら怒りそうな内容だが、そのあたりは触れないでおく。
俺たちは、その暗号を彼女に教える。
すでに、プログラムの中に組み込まれていることだが、記憶を永遠にとどめておかすためにも、最後のひと押しといったところだ。

エピローグ

地球の隅々にまで広がったネットワーク網は、彼女がすべて管理、運営、修繕などをすることになっている。
「大丈夫?」
旅立ちの日、彩が彼女に問う。
「ええ、大丈夫です」
最終的に体から離れ、すべてを管理するための機械に意識ごと移すことになる。
「何かあれば、連絡をくれ。アドレスはいつも変えないでおくから」
「分かりました」
俺の言葉にも、しっかりと受け答えをする。
実際には連絡をもらってもどうすることもできない。
各惑星政府は、地球に対して無期限の封鎖を決定しているからだ。
軍をもってしても、その決定にあらがうことはできない。
だから、今生のお別れになる。
「最後に、一つだけお願いしてもいいですか」
「どうしたの」
珍しく彼女からのお願いとあって、彩はびっくりしたように聞く。
「いつまでも、笑っていてもらえますか。あなたたちの笑顔は、私の糧になります。わたしの記憶領域の中にあるあなたたちは、ずっと笑っていますので」
俺と彩は同時に答えた。
「あたりまえだよ」
彼女はフッと笑った。
俺は彼女の手を握って言った。
「今生の別れといっても、おそらくは戻ってくる人もいるだろう。その人たちを温かく見守ってやってくれ。頼んだぞ」
「分かりました。地球という私の名のもとに、その誓いをたてましょう」
胸を張って答える彼女を見て、俺たちは安心した。
「じゃあ、もうそろそろ行かないと」
「ええ、行ってらっしゃい」
彼女の笑顔が、今でも心に張り付いている。
いつまでも消えることのない思い出…
船が地球を離れていくとき、ゆっくりと闇が覆っていった。
その時、突然地球の地表から光が出て、文字を作り出した。
「あれ…」
その文字を見て、俺は自然と涙があふれてきた。
「どうしたの」
彩には見えなかったらしい。その一瞬の光景は、すべて幻のように掻き消えていた。

数年後、俺たちは結婚した。
Teroは元気にしているか、俺たちの子孫はどこまで絶えることなく続いていくか。
そのことばかりが不安だったが、思ってばかりじゃ始まらない。
量子コンピューターの技術は確立された。
だが、Tero以上の存在を作ることは、ついにできなかった。
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