かなたへ 第八部 Rewind(リワインド) 第六章 「木は森に」作戦 第4節
次第に俺たちの昼食会は佐々木組恒例昼食会と呼ばれ周囲の注目を集めるようになり、週末には団体さんのツアーよろしく教室を詣でる連中まで出る騒ぎになってしまった。朝倉にハンバーグの温度情報の書き換えを頼んだせいで教室中に美味そうな香りが充満した日には教室のあちこちで腹の鳴る音が聞こえた程だ。
ハルヒ程ではないにしろ、佐々木は良く食べるし、朝倉もしかり。基本属性が一般人の俺と橘ではとうてい太刀打ち出来そうに無い。
なあ、橘、一緒に昼食を取るようになってから、何だか肌が前にも増して綺麗になったんじゃないのか?
目の周りの隈もないし、随分色々と前より落ち着いてきみたいだよな。
それに、授業中つくため息も何だか大幅に減ってきたぞ。
「おや、キョン君、君はやはり随分と橘さんを観察しているんだね。
橘さんも隅に置けないね。
だが、確かに僕から見ても、橘さんは一回り綺麗になった様だ」
「佐々木さんも、キョンさんも、そんな、本当ですか?
確かに前より体の調子も良いですし、なんだか授業も楽に付いて行けるかもしれません。
あ、でも、これは電車で佐々木さんに勉強教えて貰える様になったからかもしれません。
佐々木さんにも感謝です」
佐々木が落ち着いて来て組織からとやかく言われなくなった事も大きいだろうが、これは言わないでおこう。
「そうよね、橘さん、高温期でもないのに、このごろ少し体温が高めよね。
というか、前、体温が三十五度台で低すぎたものね。
有機生命体にとって、食事内容って、やっぱり大きな影響があるのね」
「そうだな、キョン君も以前よりずっと調子が良さそうだし、勉強だってはかどっているみたいだ。
僕だって確かに色々体の調子はよくなっているな、うん、確かに。
これはやはりキョン君の同棲相手たる陸奥さんの手料理のお陰なんだろうか?
最初、キョン君の様子が変わった時には妙な推理をしてしまったが、意外とこれが真実だったのかな。
ふふ、日曜日を楽しみにしているよ」
佐々木、訂正させてくれ、同棲じゃない、同居の下宿人だ、周りで聞いてる連中が間違えるだろ。
その日、つまり土曜日なんだが、俺が家に帰るとかなたは出かけていた。そういえば、今朝、ちょと帰りが遅くなるかも知れないとか言っていたな。とりあえず着替えに部屋に入ると机の上にかなたかの書いたメモがおいてあった。
『キョン先輩、お帰りなさい。
今日はお出迎えできなくてごめんなさい
SOS団のフィールドワークに出かけてきます
冷蔵庫に キョン先輩へ ってメモを張ったケーキが置いてあります
手を洗って嗽をしてから食べてくださいね
夕食の用意には間に合うように帰ります
大切なキョン先輩へ
PS.今夜お買い物に付き合ってくださいね』
洗面所に手を洗って嗽をしに行く時に、妙に俺の頬が緩んできたのは何故でしょう、何故かしら、何故だかさっぱり分からんが、別に一人で笑ったら逮捕されるとかそんな法律は無いから良いじゃないか。
「あれ、キョン君。かなたちゃんに捨てられて変になっちゃったの?
お願いだから外では私に近づかないでよね」
こら、妹よ、別に捨てられたりなんかしてないぞ。いまから冷蔵庫にかなたが作ってくれたケーキを食べに行くんだからな。
「あれぇ、そんなの何処にも無かったよー」
パタパタと走って妹は外へ遊びに行ってしまった。何のことだ?
冷蔵庫へ走っていくと、中には俺宛てのメモなど何処にも無い。かなた、妹にやられたみたいだ。
ビビビビと時計が震える。
KANATA.M> やっぱり駄目でしたか、ごめんなさい
KANATAM> 私の部屋に冷蔵庫をもう一台買いました。中に研究用のケーキがあります
KANATA.M> 一つ、食べてくださって結構です。感想教えてくださいね♡
冷蔵庫の中には有名どころのケーキ屋さんのケーキがいくつも入っている。研究用という事は、いつもの、昼食のデザートのケーキを作るための研究なんだろうか?
紫色のソースのかかったタルトを一つ選んでいただく事にした、ベリー系のソースのかかったレアチーズケーキらしい。これは美味い、ぜひかなたに習得して貰わなくては。
ケーキを食べ終わると普段の様に勉強にとりかかる。かなたが出かけていたって、ちゃんとやらなくちゃならないのだが、妙にそわそわする。かなた、ハルヒに玩具にされてなきゃ良いんだが。朝比奈さんの代わりにされてなければ良いんだが、ハルヒにはイエスマン古泉では頼りにならないし。そう思うと急に心配になってきて居ても立ってもいられず勉強どころではない、かなた、無事か? 早く帰ってきてくれ。
その時、玄関の開く音がした、かなた、帰ってきてくれたのか?
小走りで玄関に出た俺は呆然とした。
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