前作 かなたへ 第七部 終焉のかなた http://ncode.syosetu.com/n5518j/ からの続きです。
かなたへ 第八部 Rewind(リワインド) 序章 電話2nd
ハルヒが引き起こした、と言って言い訳するのは少なくとも今回は無しだ。確かに元を質せばハルヒがマジックポイントを吸い取りそうな珍妙な動きであのオーパーツを振り回したからではあるが、それは単なる鍵、ハルヒの力を試して開けさせるための鍵でしかなかった事は俺にだって分かる。一年前の俺なら、あるいは理解出来なかったかもしれないが、今はそれも含めて俺が選択した運命だったんじゃないかとふと思ってしまうぐらいには、俺だって成長したというか、馴らされてしまって言うんだろう。特に彗星を撃破し、かなたを復活させるための一連の出来事はもはや俺が黒幕、責任者だと言われれば否定の仕様が無い。俺以外の誰だって他の選択枝は無かったと、そう誰かが慰めてくれないかとは思うのだが、そんな酔狂な知り合いは残念ながら俺には無い。古泉と朝比奈さんにはある程度の話はしたが、かなたの復活の仔細は二つの宇宙の存在に秘密の根幹そのものに関わることだけに幾ら信頼すべき仲間とはいえ詳らかにする事はさすがに憚られるからな。
だが、その中で、天蓋領域がもたらしたであろう、あの絶体絶命の危機から俺が脱出できたのは佐々木のお陰である事は事実だ。そう、佐々木にだけは礼を言わねばならない。話したって笑われるとは思ったが、俺としてはせめて感謝の言葉だけは伝えよう、そう決意した。
長門に相談すると何時ぞや以来俺の携帯のアドレス帳から消滅していた佐々木の携帯の番号を復活してくれた。
佐々木が塾から帰り、一人自室で勉強しているであろう深夜前の時間帯に思い切って俺は佐々木に電話を掛ける事にした。
やっぱり呼び出し、五回コールを待たされるかな、そう思い、その間に少しでも心を落ち着かせようとした、俺のその思惑は見事に外された。呼び出し音が鳴ったか鳴らないか、その瞬間に受話器の向こうに無音が広がる、 また、ハッキングされて繋がらないのか? 壊れたのか? 恐る恐る呼びかけてみる。
「もしもし、佐々木さん、ですか?」
「……はい、佐々木です……」
佐々木の声、間違いない。
「俺だ、佐々木、忘れたのか?」
「失敬な、忘れる物か、僕だよ。
しかし、『佐々木さん』なんて、君に呼ばれたのは何年ぶりだろうね。
君から今夜電話が来るかもしれないと橘君に聞いてはいたが、本当に掛けて来たのか」
「済まない、今、良いか」
「良いも何も、ずっと手元に携帯を置いて待っていたのだ。
で、一体何の用なのかい?」
ずっとって、じゃ、ワンコールもしないうちに電話に出たのはじっと携帯を持って待ってくれていたからなのか? そんなに待たせて一言礼を言うだけなのは気がひけるが黙ってるのも俺の本意ではないからな。
「用という訳ではないんだ。佐々木に礼を言わねばならないと思って電話したんだ」
「何なのかな、この一年以上殆ど君とは接触すらしていない僕が君に改めて礼を言われる理由は思いつかないね。待ちたまえ、少し考えさせてくれ、いや、あの事は君は知らないはずだ、でなければ、そうか、君の携帯のアドレス帳を涼宮さんにでも詮索されたのかな? 僕の番号を消してもらったお陰で君はあらぬ嫌疑を免れた、そんなところじゃないのかな?」
「そういえば、その事もだ。だが、今日電話をしたのはその事の礼のためじゃない」
「久しぶりだね、君の考えを喝破できなかったのは。
尤も殆ど君と出会っていなかったからこれはやむをえない事なのだろうが、少々僕としては残念だね。
仕方ない、もう少しヒントをくれないか」
いつもの佐々木にどうにか戻ってきたのか、最初の緊張が解け心なしか嬉しそうですらある。
「俺が礼を言いたいのは最近の事では無いんだ。いつも佐々木が俺に色々な事柄を尋ね、教えてくれていたろ。言うのも変なのだが、今になってその事の有難さが身に染みているんだ」
「不思議な事を言うね、君には学業の足しに成るような話も、そうそう実生活の役に立つような話もした記憶はない。
むしろ、僕の雑駁な趣味というか、雑学に類する、他人に話せば与太話とか言われないような話しかしてはいなかったはずだ」
「以前、ポーランド何とかという計算方法を教えてくれたのを覚えているか?」
「逆ポーランド記法だね、無論覚えているとも。
あれは君に悪い事をしたのではないかと、実は心配していたのだよ。
あそこまで君が見事に理解してくれないので少々君をからかいすぎた、それで君は僕と同じ高校への進学を諦めたのじゃなかったのかい。
僕としては、むしろ当時あの事を君に語ったことについては随分悔やんだものだよ。
僕に思いやりが有れば、というか僕の傲りが無ければ、あるいは今も君と一緒に登校出来ていたのでは無いかとね。
今となってはもう遅いのだけれどもね」
「そんな、俺が北高を受けたのは俺に意気地がなかったからだし、事実、難しい私学の進学校をを受けても通りはしなかったのは分かっている。
だが、そんな事を気にしていてくれたのか。俺こそ済まない。
実は、ある状況でかなり命がけのゲームをやる羽目になってな、その時の問題を解くのに、その、なんて言ったっけ、『逆、ポーランド?』だったけ、その計算方法を知らないと解きようの無い問題に出くわしたんだ、それで、佐々木があの時、懸命にしてくれた説明を思い出し、なんとか切り抜けることが出来たんだ。
だから、その事で佐々木に礼を言わなくてはならないと思ったんだ」
「くっ、いまさら、何てことを言うんだ、君は……」
佐々木、涙声なのか?
俺、何か悪い事を言ったか?
「僕の予想以上に君は真性の馬鹿なのか?
一年も二年も前の、あんな話をずっと覚えていて、いまさら解っただって?
君は全く信じられない奴だ、あの時からずっと無意識下で考えてでもいたのか?」
「そんな事、俺にも分からないさ。
ただ、数のカードと四則計算のマークのカードを並べた例題があって、1、2、+、3、+、4、+の並びが『10=』のカードに繫がっていて、これって、佐々木が教えてくれた、その逆ポーランド何とかじゃないかって気がついたんだ。
それで9のカード4枚と四則演算のカードを組みあわせて、やっぱり10を作るカードの並びを作るのが問題だったんだ」
「待て、君は、その問題を解いたとでも言うのかい、何時間かかった?」
「そんなの、計ってる余裕なんて無かったけど、全部で数分かだったと思う、間に合わなければ俺の友人の命が危なかったんだ」
「……信じられない、まさか……君が、待ってくれ、僕にも解かせてくれないか、四則だから、累乗なんかは使えないんだな、紙も鉛筆もなしに電話口で解くような問題じゃないぞ、いや、四則だから落ち着けば小学生でも解けるんだろうが……うむ、そうか、解った、しかし、これを君が自分独りで数分で解いて、逆ポーランド法で正確に表記しただって、信じられない、今僕が通っている学校の優秀な生徒だって、逆ポーランドの知識なしでは無理だろう。無念だ、やはり、君をなんとしても……
いや、悪かったのは全部僕だ、君の潜在力を信じてやれなかった僕なんだよ、一番で入学してやろうなどというつまらない思いに捕らわれず、とっ捕まえてでも君の勉強を手伝うべきだったんだ。
そうして置けば、僕だって、こんな……
ぐ、ぐ、ぐっ、
はぁ、まで、まだでんばをぎるんじゃないど」
「おい、佐々木、大丈夫か、完全に鼻詰まってるぞ。良いから電話おいて顔洗ってこいよ、切らずにまってるから、俺、お前の泣き声なんて、初めてで、どうしたら良いんだ」
カタリと携帯を置いた音がした。
ビビビビ、時計が震える。
KANATA.M> キョン先輩、大変です、今、行きます。ベッドの上空けてくださいね
え、何だ、ベッドの上、何も無いが……
その瞬間、ベッドの上に抱きあった長門とかなたが現れた。
「位置情報書き換え終了」
二人ともどうしたんだ? 何が大変なんだ?
「佐々木さんからの情報フレアの量が異常に増加しています」
「会話内容から推測し、過去への時間軸の巻き戻しが起こる確率73.2%」
え、何だって?
「キョン先輩、私から離れないでください」
かなたはそう叫ぶと俺の胸に飛び付くと俺の腰に腕を回し、頬を俺の胸につける。
「私はこの時空でバックアップにあたる」
ベッドの上に立ったまま長門がそう囁いた。長門、何が起きるんだ。
「貴方、帰ってきて、お願い」
「時間跳躍で逃げましょう!
あ、駄目、時空振動の予震、次、来ます、大きい、大きい、キョン先輩、有希姉さま!」
そんな……、原因は佐々木なのか? 佐々木の所へ行けないか? あいつは、そんな無茶をする奴じゃない、話せば、きっと解決できる。
「今、飛ぶのは、危険」
「干渉を試みます、少しでも影響が小さくなるよう、良いですね、キョン先輩。
私を忘れないでください、お願い」
かなたは伸び上がると俺の首筋に小さく歯を当てた、ナノマシン?
+注意+
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