空から降ってきた一枚の羽。
それは天使の羽。
羽を掴んだ人は幸せになれる。
そんな噂を聞いたのは幼稚園か小学校の低学年位の時だった。
松井千里。
それが私の名前。
さっき私は長年付き合ってた彼氏に振られた。
(俺、他に好きな奴居るし。)
そんな最低な理由。
生きていても何も良い事無い…
そう思っていた時だった。
私の掌に一枚の羽が舞い降りて来た。
その時頭を巡った一片の記憶。
―天使の羽―…
確か…幸せになれるんだっけ…?
所詮噂。
それも十年程前に聞いた。
真実なわけが無い。
誰もがそう思うだろう。
確かに違った。
天使の羽は…
もっと恐ろしい物だったのだから…。
綺麗な白い羽。
本来なら汚いと思って捨てるのだけど、この羽だけは捨てられなかった。
何故か、気が着くと家に持って帰っていた。
疲れた…。
今日は色んな事があり過ぎた。
そう考えているうちに私は意識を手放した。
夢を見た。
綺麗な純白の羽を背にした一人の女の子。
少女は私に訊いた。
『貴方は何を望む?』
あいつを…私を振ったあいつに死んでほしい…。
『ならその望みを叶えてあげる。』
そう言って少女は消えた。
途端に景色が黒く一変した。
そして黒の中で、あいつが首を吊っていた。
私の後ろで少女が笑っていた。
鈴のように甲高い声を震わせて。
そこで夢は終わった。
目覚めると日は既に昇っており、時計は正午を指していた。
参ったな…寝過ごした。
私は今日大学をサボることにした。
どっちみちこの腫れた目では行けっこなかっただろう。
でも行かなくて正解だったのかもしれない。
あいつが大学で首を吊って死んでたんだから…。
私が望んだから…?
そんな思いが脳裏をよぎった。
しかし夢の中だ。
偶然や予知夢の類だろう。
そう思って私は出かけた。
あいつの葬式にも出た。
でも…不思議と涙は出なかった。
憎しみしか無かったから…。
〜♪
ふいに携帯の着メロが鳴った。
ディスプレイには『新着メール一件』の文字。
知らないアドレスから。
だれかアドレスを変えたんだろうか?
そう思ってメールを開いた。
本文は無く、画像が添えつけてあった。
その画像は信じがたいものだった。
なぜなら…
私があいつを大学の天井に吊るしている写真だったのだから。
どうせ悪戯だ。
何度かあったし。
気にせずにその画像とメールを削除した。
今日も一日が終わる。
いつも通り御飯を食べて、お風呂に入って眠る。
寝る前に一つ思った。
『あいつとの思い出が全て消えればいい』と。
次の日、私は大学へ行った。
一人の女の子が私に話しかけて来た。
『佐倉若葉』
十数年来の友達である。
「千里…。大丈夫だった…?」
何が?
「若葉は何のことを言っているの?」
そう問い返すと若葉は目を見開き、そして、『辛かったね…』と言い残し去って行った。
何か…何か忘れてる気がする…。
そう。
『あいつ』の記憶をなくしたのだ。
いくら考えても思い出せない。
まるで…
その時間が存在しなかった様に。
自分の手には以前舞い降りて来た羽。
でも少し違う。
心なしか純白だった羽が黒くくすんでるように見えた。
そして、何故か友達の視線が冷たく感じた。
大学から帰る途中、駅前の本屋に寄った。
欲しい小説の続きが出ていた。
買おうと思って財布の中を覗く。
でも今は給料日前。
バイトと言っても所詮家庭教師。
たいした給料じゃない。
そのせいで本を買うお金が無かった。
本はまた今度にしようと諦めて家に帰った。
今日はバイトの日。
生徒の家に行く。
この生徒はそうとう出来が悪く、疲れる。
死んでくれたら…。
次の日、家の電話が鳴った。
生徒が車に撥ねられて死んだらしい。
もしかして…この羽は願いを叶えてくれるの…?
じゃあ、こないだの本が欲しいな…。
そう思うと目の前に欲しかった本があった。
〜♪
携帯が鳴った。
この間の知らないメールアドレスから。
やはり本文は無く、画像が添えつけられていた。
すると、本を万引きする私が写っていた…
ありえない。
何より私は家から出ていないんだ。
万引きできるはずが無い。
やっぱり悪戯だ。
性質悪いなぁ。
私はアドレスを変えた。
変更した旨を書いたメールを送る。
すると全てエラーとして返ってきた。
何で…?
こんな事、小学校でハブられた時以来だ。
寝て忘れようと思って寝た。
何時か夢に出てきた少女が微笑んでいた。
『君は何を望む?』
また聞かれた。
「友達が欲しい。」
そう言うとまた景色が一変し、真っ暗になった。
暗闇の中、市一つの光があった。
光の中に若葉が居た。
彼女は微笑む。
次の瞬間、彼女の首は地に落ちていた。
暗い景色が赤に染まって行く…。
私に問うた少女が微笑んでいた。
私は叫んだ。
「若葉を殺すくらいなら友達など要らない!!」
私はそこで目が覚めた。
手に羽を握り締めていた。
羽は拾った時とは違い、随分黒くなっていた。
そこで初めて気が着いた。
私の頬に涙が伝っている事を。
私の着ていた服が真っ赤に染まっていた事を。
私の隣に若葉の首があった事を。
夢だ。
夢に違いない。
キッチンの包丁を手に取った。
夢である事を証明するかの様に私は自らの首を切った。
次に目が覚めたのは病院だった。
医師や警察の説明によると、私は若葉と一緒に家に居り、何者かが家に入って来た。
そして若葉と私を殺そうとしたらしいが、私は死ななかったらしい。
あれは…夢だったのか?
いや、そうとは思えない。
夢にしてはリアルすぎだ。
一体何なんだ…?
この事をきっかけに沢山の奴らが私に良い寄るようになった。
『友達だ』
全員が全員そう言った。
所詮上辺だけだろうが、私は嬉しかった。
退院して初めて携帯を開いた。
『新着メール一件』
そこには私が若葉の首を刎ねている写真があった。
嫌だ。
ありえない。
何で私が若葉を殺す!?
一体何の!!?
私が何をしたって言うの?
ただ聞かれた事に答えて、只望んだだけじゃない!!
全部夢だ!
私の前から全て消えろ!キエロ!!!!
クスっと笑う声が聞こえた。
後ろには夢に出てきた少女が居た。
『その望み、叶えてあげる。』
少女の顔は歪んでいた。
黒く、醜く、歪んでいた。
少女はニヤリと笑うと私の首に手をかけた。
苦しい。
華奢な腕からここまで強い力が出るものなのか?
景色が霞み、やがて光が見えて来た。
その中に若葉が居た。
(助けて…)
若葉に、私が殺した親友に、助けを乞うた。
その助けを裏切る様に若葉は歪んだ笑みを浮かべ、私の首を絞めた。
意識が途絶えた。
天使の羽。
それはどんな願いも叶えてくれる。
でも願いえを叶えるにはそれ相応の代償が必要。
貴方の手に羽が舞い降りたら気をつけて?
ほら、貴方の後ろに少女が居るよ。
使い方を誤らないで?
人は浅ましいから無理でしょうけどね。
ひらりと舞い降りた羽。
『これ…何…?』
この人の運命はどうなるんでしょうね?
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