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今回はずっと士郎のターン‥‥もとい視点です。
なんかもう紫遙君いらないかもなぁなんて(笑)。
あとオリキャラ二人ばかり出ます。
 
間章
第二十五話『贋作者の心配』


 
 
 side EMIYA only

 
 
「あれ? 遠坂、午後は出かけるのか?」

「ええ、ちょっと人と逢う用事があってね」

 
 休日は俺と一緒に出かけることをせがむか工房や自室に篭もるかしている遠坂が今日は珍しく出かけるという。セイバーと一緒に手分けして昼食の片付けをしていた俺はちょっと驚いてリビングの方に振り返った。
 この家では遠坂はあまり家事をしない。なにしろあいつの忙しさときたら尋常じゃないし、もっと暇な奴がここに二人もいるんだから当然のことだと思う。色々と律儀な遠坂は何度も申し訳なさそうに頭を下げたけど、そもそも俺は遠坂の弟子兼おまけ兼お手伝いさんとして時計塔に入学してきた身。精一杯彼女のフォローをするのは至極当たり前のことに他ならない。

 
「もしかしたら今日は帰らないかもしれないから。夕飯はとっておかなくていいわ」

「そうか? じゃあ軽く夜食につまめるもの用意しとくよ」

 
 振り返った先に立っていた遠坂は、いつもよりちょっとおめかししていて驚いた。俺と出かけるときは大抵日本に居たときと同じ格好だったし、遠坂は素が美人だから学院にいるときはいつも簡単な最低限の化粧で済ませているらしい。
 今日の遠坂はいつもの赤いコートではなく、落ち着いた茶色のジャケットとロングスカートを着ている。日本ではツインテールにしていた髪は大人っぽく下ろしていて、薄く口紅までつけて完全によそ行きの格好だ。

 
「‥‥ちょっと、何も言うことないわけ?」

「ん? ‥‥ああ、随分とおめかししたんだな。今日は何かの研究の発表会か?」

「‥‥もういいわよ! じゃあ行ってきます!」

 
 一体何がまずかったのか、遠坂は眉間に皺を寄せて俺の方を睨むと、ぶんと髪を翻してどかどかと足音高く出かけていった。何が悪かったんだ? 学会とかならああやって外行きの格好しなきゃまずいってのはわかってるつもりなんだけどな‥‥。
 と、後片付けの残りをやってしまおうと思って台所の方へと向くと、そこには目をまん丸にして手から皿を取り落としたセイバーの姿があった。幸いにして床にはカーペットを敷いていたので皿は無事。いやぁよかった、あれはお気に入りの皿だから割れたら困る。

 
「どうしたのさセイバー。そんなに驚いた顔して」

「‥‥シロウ、貴方は本当に気づいていないのですか?」

 
 セイバーが落としてしまった皿を取り上げて、流しへ持っていって洗い直す。セイバーは今度は両手でぎりぎりと音が聞こえる程に布巾を絞り上げていて怖い。
 あれには強化をかけてないから耐久力が心配だ‥‥って、思ったはしからちぎれたぞオイ。なんで怒ってるのか全然わかんないけど、とりあえず落ち着けセイバー。

 
「‥‥はぁ、本当にシロウはシロウですね。今、凜が出かけていったということが何を示しているのか分からないのですか?」

「出かけていった理由って‥‥そりゃ用事があれば出かけるだろ?」

「そうではありません! 何の用事で外出したのかと言っているのです!」

 
 心底呆れたように腰に両手をあてて俺を睨みつけるセイバーに、こちらもわけがわからず疑問符で返す。いくら一緒に住んでるからっていって個人の行動まで規制する道理はないだろう。遠坂がどこに出かけるのも遠坂の自由じゃないか。
 食器を全て洗って拭いてしまってしまうと、俺はよくわからないけど興奮してるセイバーのために紅茶とお茶菓子を取りだして机に置いた。

 
「用事ねぇ‥‥。やっぱり何かの学会とかじゃないのか?」

「シロウを愚鈍です! 年頃の女性がおめかしをして出かけたなら、それは男性と逢い引きするために決まってるじゃないですか!」

 
 ‥‥‥‥は?
 戦闘の時に放っていた以上の殺気を放出するセイバーの言葉に数瞬意識を飛ばして停止する。誰が、誰に逢うためにでかけたって?
 遠坂が、男と逢い引きするためにでかけたって? トオサカガオトコト―――

 
「ってえええぇぇぇえええ?!!!」

「‥‥今頃気づいたのですか、まったく」

 


 たっぶり四拍は凍り付いてから近所迷惑な叫び声をあげた俺に、セイバーは呆れ顔で額を手で覆った。
 いやだってまさか遠坂が男と出かけるなんて‥‥。いやでも否定はしきれない。なにしろアイツが講義を受けている間のことは一切知らないし、鉱石学科でどんな交遊関係を築いているかも俺の知るところではない。
 俺が受けているのは初代とかポット出とかの駆け出し魔術師に常識や基礎を叩き込む講座だから講義の内容はあらゆる分野へと及び、必然的に授業の時間も長くなる。
 遠坂はどちらかといえばこの家での研究が多いし、俺はルヴィアのところでのバイトもあるから、実質時計塔で俺達が顔を合わせているのはそう多くない。
 だからその間に遠坂が誰とどんな人付合いをしてるかなんて全然わからないわけで、つまりは―――

 
「‥‥セイバー、すぐに追いかけよう!」

「シロウ、わかってくれたのですね!」

「ああ、相手の人がどんな目に遭うか心配だ!」

「‥‥シロウを愚鈍です」

 
 諦めたように俯いてジト目でこっちを睨んでくるけど、なんかよくわかんないから無視だ無視。なにしろこっちは忙しいのだ。遠坂が何を考えてるかは知らないが、アイツが男と二人なんて何をやらかすつもりなのかまったく保証できないぞ。
 前例もあるしな。具体的には海藻類がごにょごにょ‥‥。

 
「待って下さいシロウ、どうやって凜を見つけ出すのですか? もうとっくの昔にキャブを呼んで行ってしまったようですよ」

 
 焦ってジャケットを急いで羽織りながら飛び出した俺の後ろから、冷静に玄関の鍵をしっかりとかけたセイバーが話しかけてきた。
 ‥‥確かに、遠坂が外出してから暫く喋っていた分、もうアイツを老いかけるには些か時間が経ちすぎているな。困った、正義の味方としてはこれから巻き起こるであろう悲劇をみすみす見逃すわけにはいかないぞ。

 
「じゃあどうするんだ?」

「助っ人を呼びます」

 
 大通りの歩道で頭を抱えた俺に対して、セイバーは冷静そのものだ。ロンドンに来てからそれぞれ新しく購入した携帯電話を懐から取り出し、何やら打ち込むとやおら頭上に掲げてこう叫んだ。

 
「緊急指令だ! 10-4 10-10!」

「っておいセイバー?! それどこで、ていうか誰から習った?!」

 
 思わず肩を掴んで揺さぶってしまう。誰からと問はしたが決まってる、現存する宝貝である軍扇を持った某恋愛探偵に違いない。聖杯戦争が終わって俺達が三年生に上がってからはたびたび会うこともあったから、どうも何やら吹き込まれたのだろう。
 以前にも『バチカンでローマ法王を決めるコンクラーベというのはな、日本語の“根比べ”から来ているのだぞ。今は昔天成少年使節団がローマに行ったときにだな‥‥』と愉快極まるいー加減を信じ込ませたという実績があるから間違いない。

 
「どうしたんだよセイバー、一体何やって―――」

 ―――ギャギャギャギャギャギャギャ―――!!

 
 と、横で携帯を懐にしまい直したセイバーに突然の奇行の説明を貰おうと声をかけた瞬間、俺の鼻先数センチほどを掠めて、一台のイエローキャブが道路にタイヤによるブレーキ跡を黒々とつけて滑り込んできた。

 
「ようセイバーちゃん、久しぶり」

「ご無沙汰しています、ジョージ。突然お呼び立てして申し訳ありません」

 
 窓から顔を出したのは薄い色のサングラスをかけたナイスミドルの男性。白いセーターと濃紺のジャケットは落ち着いた中年の渋みをアピールし、口にくわえた火の点いていない煙草は客への思いやりを表している。
 そこまで確認した途端にさっきまで忘れていた冷や汗がどっと俺の背筋を伝った。あれ下手すりゃ俺轢かれてたよな? 挽かれてたよな? ていうか周りの人たちが毛ほども驚いてないのってなんでさ? もしかしてあれってもう日常茶飯事の出来事なのか? だとしたらここで取り乱すのもなんか恥ずかしいような。

 
「セ、セイバー、その人は―――ってのわぁ?!」

 
 咳払いを一つ、心を落ち着かせてセイバーと親しげに談笑する謎のキャブのおっちゃんを紹介してもらおうと一歩踏み出したその時、踏み出した足の先にあったマンホールがゴトリと動いて横にずれた。
 いくら聖杯戦争関連で荒事への耐性があるとはいえ、それは有事においての話。こんな突然予想もつかないことに襲われれば驚きもする。

 
「よぉ、セイバーの姉ちゃん! なんか用かい?」

「ああ、貴方も久しぶりですねガブローシュ。シュウガクリョコウはいかがでしたか?」

 
 持ち上げられたマンホールの蓋を横にどけて這い出てきたのは一人の少年だった。よれよれの帽子とチョッキにジャケットはやや薄汚れてはいたが、やんちゃな年頃の男の子ならさほど珍しい汚れ方ではない。
 こちらも親しげにセイバーに挨拶するとマンホールの蓋を戻して立ち上がり、服についてしまった埃やら何やらを叩いて落として帽子を被り直す。
 多分どちらもセイバーの知り合いなんだろうけど、おかしいな、どうしてこんなに交友半径が広いんだろうか。全然接点が読めないぞ。

 
「ああ、紹介しますね。こちらはジョージ・アラカワ、私のお茶飲み友達です。そしてそちらの少年はガブローシュ、私の遊び仲間です」

「よろしくな、坊主」

「はじめまして、おいらガブローシュってんだ。よろしくな!」

「お、おう、よろしく」

 
 キャブから降りずに窓から顔だけ出して笑うジョージさんと、またわざわざ帽子を被り直してから握手を求めてくるガブローシュに思わず日本式でお辞儀する。もちろんガブローシュとは握手もした。下水から出てきたわりにはきれいな手をしている。どうも話を聞くと、倫敦の悪ガキ共のリーダーで下水も自分たちで通りやすいように掃除してしまったらしい。倫敦の衛生事情が悪ガキに支えられているとは知らなかった。

 
「二人とも、実は今日は一つ折り入って頼みがあるのですが‥‥」

 
 一通り互いに自己紹介を交わすと、セイバーが二人に事情を説明する。曰く茶色いジャケットとロングスカートの黒髪の大和撫子を探せと。セイバーの説明だけでポケットから取りだしたメモ帳にモンタージュを作成していくガブローシュには驚いた。しかもそっくり。どんだけハイスペックなら気が済むんだこの少年は。

 
「OK、事情は大体飲み込めたぜ。任せなセイバーちゃん」

「おいらなら10分もかからないぜ? すぐ戻るから待ってなよ!」

 
 頼もしい言葉を放った二人はそれぞれの方法で遠坂の捜索にかかった。ジョージさんはキャブに備え付けの無線機を操作し始め、ガブローシュは出て来た時と同じようにマンホールの中へとあっという間に潜り込む。
 やっぱり何か人を集める魅力があるんだろうか。カリスマBは伊達じゃないのか?

 
「「見つかったぜ!」」

「早っ?!」

 
 具にもつかないことをどれだけの間考えていたのだろうか、おそらく五分もぼんやりとしていたワケではあるまいが、とにかく驚愕すべき程の短時間で二人は同時にキャブの窓とマンホールから顔を出した。
 ガブローシュの描いたモンタージュにも驚かされたけど、一体全体倫敦の人たちの能力はどうなっているのだろうか。まさか時計塔のお膝元だからといってこんなんなわけではあるまいが。
 とにかく二人はこの広大ではないが無数の人が存在し闊歩する倫敦の中から遠坂を見つけたのだという。キャブ仲間と悪ガキ共のネットワークは洒落にならないらしい。

 
「シロウ、見つかったのなら話は早い。すぐに追いかけましょう!」

「お、おう!」

 
 見れば既にセイバーはキャブの助手席に乗り込んでいる。俺は「先に子分に連絡して追跡させておく」というガブローシュの携帯の番号を教えて貰い、すぐさま先ほど同様地下へと潜り込んだガブローシュを見送ってからキャブへと乗り込んだ。
 古臭くはあるが清潔な車内の丁度良い反発力の座席に腰掛けてドアを閉めた途端、アクセル音を咆哮のように響かせた黄色い車体は僅かに前輪を浮かせて次の瞬間には風のように疾り出した。
 路地を飛び出し、大通りを爆走する。不思議なことにパトカーにも赤信号にも出逢わず、通常の速度でのんびり走る車の間を縫うようにして目的地へとひたすらに前進。注意深く運転席を見れば、ほとんどブレーキを踏んでいないのがわかる。尋常じゃないぞこの人。

 
「それにしても、一体何のつもりで遠坂は‥‥」

 
 前でまたセイバーが深い溜息をつき、ジョージさんがガハハと景気の良い笑い声をあげた。
 ‥‥さっきから一体全体、なんでさ?




 26th avt Fin?


 
 
次回偽装デート編完結!

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