挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
チートな俺と歌姫な俺と 作者:真幸

◆◇ 第二章 -幸運と不幸- ◇◆

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

53/54

3-21 <氷剣技。だがそれは氷月天衝>

「さぁ、これでお前はチート野郎からゴミ野郎に成り下がったわけだ」

 ニブルは再度嫌な笑みで見下し、嘲笑う。

 チラリと目線を逸らし、剣との距離を測った。
 目算、全速力で二秒はかかる距離。

 しかしそれを遮る分厚い氷の壁。
 迂回は無理なほどに高く、長い。

 壊すか、倒すか。

 そう選択を迫われている気がした。
 立ち膝をつきながら、歯を軋ませる。
 勝ち誇るあのニヤケ面に一発かましてやりたい。
 だが無手でコイツと対峙するのは、無理だ。
 剣が無くては絶対に勝てない。

「イーターほどじゃねぇが、俺も無手の魔法剣士狩りは得意でな。雑魚ほどいたぶるのは面白いっていうだろ?」
「っち」

 焦りから舌打ちが零れる。
 何かないかと右、左と視界を動かすも、見えるのは氷のみ。

 いや、いけるのか。
 ニブルの奥に大きな樹が凍って存在していた。
 あれを使えば、なんとか氷の壁を超えれるだろう。

 しかし、ゲスな笑みを浮かべるニブルが立ちはだかっていた。
 あれを掻い潜って行かなければ。

 そこで違和感というか、立ち膝付いた膝から冷たい感覚が。
 足元が水浸しになっていることに。
 その元を辿って行くと……ニブルの剣先からだった。

 やばい。

「遅い!! 凍れ!!」

 ニブルの剣先を地面に突き刺すと、周囲を瞬時に凍らせ、地面から鋭利な氷柱が複数生える。
 察知したものの、反応が遅れて氷柱が複数下半身に突き刺さる。
 HPが50パーセント(黄色ゲージ)以下からさらに削られた。
 空中で無理矢理体を捻り、飛距離を伸ばして危険地帯から逃れる。

 地面を滑り、地に手を付いて再度舌打ちをする。
 悪態でも付いてやろうかとニブルの姿を追うも、すでにその場にはいなかった。
 見失った。

「がら空きだぞ」

 後ろ!

 すぐさま防御魔法を詠唱するも、それごと壊してニブルの剣が襲う。
 左腕を切られ、俺のHPがHPが30パーセント(赤ゲージ)に迫ろうとしている。
 たが――これで!!

 ニブルに背を向けて走る。あの氷の樹へと走る。
 幸いなことにニブルは自分からそこを退いてくれたのだ。
 この機会を逃しはならない。
 それに、奴は俺よりもAgi(敏捷)値が低い。
 競争になった際は俺の勝ちだ。

「読んでるんだよ!!」

 さらに目の前に氷壁が姿を現す。
 しまった! 飛び越え、迂回は――無理だ。

「お前みたいな三下の考えることなんて、丸判りだ」

 さすがに読んでの行動か。
 戦闘において、こいつの読みの凄さは俺の想像を遥かに超える。
 本当に怖い。

「なら、俺が次に考えてることもわかるか?」

 苦い顔を一生懸命にポーカーフェイスを作ろうと歪ませた。
 こちとら全然考えてはいない。
 幸運を、直感を否定してしまった手前、至近距離での戦闘はとてもじゃないが勝てる気がしない。

 だったらここで、俺は、ブラフでも笑ってやる。
 諦めない。
 貫くと決めたのだから。

「っへ。勝手に考えてな!! どうせこれで終わりだ」

 避けれない――っ!!

「そうだな。とりあえず邪魔だ」

 スローモーションだった。
 あと一歩で攻撃が届くという瞬間に横から文字通り割って入ってくる黒の閃光。
 ガラス面のような分厚い氷を破砕し、破片がキラキラと輝いて舞う。
 黒い軌跡は線を描いて通り抜けて行った。

「俺を忘れるな。そもそも、そんなハンデが楽しいのか? ニブル」
「アスキラァ……」
「雑魚なんてその辺にいくらでもいる。俺が欲しいのは絶対的な強者だ」

 そう言いながらアスキラさんは立ち膝付いた状態から立ち上がり、俺に剣を投げ渡す。俺の大剣を。

「あ、アスキラさん――――」
「ユキ、お前もだ。俺の相手をしてくれるんじゃないのか。さすがの俺も怒りが有頂天だぞ?」

 笑っているアスキラさんだが、目だけは凄んでいるのがわかる。
 鈍感な俺でもわかる。あれはめっちゃ怒ってる人の顔だと。
 俺は目を逸らしながら頬をかく。

「い、いやぁ。なんといいますか」

 姑息なニブルの攻撃に、イラついて向かった。
 そんな子供みたいな返答をしたら絶対に怒られる。
 だから一生懸命に言い訳を考えるが思いつかない俺がいた。

「まぁいい、俺も鬼じゃない。一分待ってやる。決着をつけろ、ユキ」
「はぁ?!」

 いや。否定してますけど、鬼かな。
 それでも一分って――。
 もし一分以内に終わらなかったらどうなるんだろうか……?

 チラリとニブルを見るも、不機嫌を増したのか、イラつきから有頂天。顔に青筋が浮いている。

「不服か?」
「っは。こんな雑魚一分あれば十分だ。待ってろアスキラ。お前を倒すのは俺だってな」
「いい返事だニブル。吼え面になるなよ」
「言ってな」

 それを合図に殺陣がはじまる。

 数度打ち合うと、ニブルは眉をひそめた。
 そりゃそうだろうさ。
 二章3-15(以前)の俺を柔と表現するならば、今の俺は剛と表現するだろう。
 簡単なものは避けれるが、基本的にはダメージ覚悟の猪突猛進。
 こちらはガリガリとHPを削られるも、俺の一撃は一撃必殺。
 顔色を窺えばどちらが優勢なのか一目瞭然だった。

 両者のHPがHPが30パーセント(赤ゲージ)、同じくらいになると鍔迫り合いの後、距離を離して構える。
 二人の肩は大きく上下し呼吸を整えた。
 チラリとアスキラさんを覗くと、貧乏ゆすりをしている。いつ痺れを切らしてもおかしくはなかった。

 再度、俺はニブルを一瞥すると、研ぎ澄まされた刀。一歩でも動けば斬る。
 そんな雰囲気に一瞬飲まれそうになるも、なんとか気を引き締めた。

 すると、ニブルは構えを変える。
 利き手に持った大剣を腰に納め、居合の構え。
 それで感づく。

 あの構えは氷剣技・氷月天衝アイシクル・ヴァルムーン
 打ち合いを望んでいるのか。こちらを待っているようにも思えた。

 意図は理解できないが、乗ってみることにする。
 俺自身も大剣を腰に構え、大きく息を吸い込む。
 肺を膨らませ、同じく大きく息を吐く。
 だいぶ緊張が解けたように体全体が軽く感じた。

 それと同時にニブルが動いた。

「うおおおおおおおおお―――――――――っ!!!!」

 氷剣技・氷月天衝アイシクル・ヴァルムーン

 負けじと俺も叫ぶ。

「はあああああああああ―――――――――っ!!!!」

 こちらも同じく氷剣技・氷月天衝アイシクル・ヴァルムーンを放つと、青い半月は互いに惹かれるようにしてぶつかる。
 十字を描く半月は互いを削るようにして振動、最後には爆散した。

 だが、読んでるよ。ニブル!!
 スキルエフェクトが視界を隠しており、それを突き破るようにニブルが目前に迫る。

 ゲスな笑みを浮かべている。
 が、その表情もすぐさま凍りついた。

氷剣技(アイシクル)―――――」
「防御――間に合」

 何度お前と戦った。
 お前が突進してくるなんて御見通しだと。俺は二発目の氷剣技・氷月天衝アイシクル・ヴァルムーンを構えていた。

 どんなテクでも小細工でもやってみろ。
 今度はどんなものでも貫いて見せる!!!

 振りぬこうとする大剣の重さがはっきりとわかった。それも柄に巻いた布地のザラザラとした感覚が刀身の重さを伝えてくる。

 いやに感覚がクリアだ。

 爆発音で耳鳴りがするおかげでニブルの声が聞こえない。別に聞きたくないから支障はない。
 ニブルを見据えているはずなのだが、周囲の、視界の端にいるアスキラさんの姿すら鮮明に見える。剣を構えて痺れを切らしていた。
 鼻先にはさきほどの相殺されたスキルの熱を感じる。氷による冷やかな、それと爆発で熱を帯びた臭い。矛盾の臭い。
 それと同時に口の中へと入ってくる。土と氷の味。さっきからジャリジャリといっている。 

 その砂利みたいな硬いものをかみ砕き、吼える!


氷月天衝(ヴァルムーン)――――!!! はあああああああ―――――っ!!!!」

 突如として再度、爆音。



 爆風が大きく前髪を揺らす。
 青いコートの裾が舞い、その風が止むのを待った。




 膝をつき、空を仰ぐニブル。
 両手に握った武器は地面に落とし、放心していた。

 俺は本当に終わったのか半信半疑の中、ただただ肩で必死に息を吸い込んでいた。

 ギラリと、ニブルの目がこちらに向く。

「認め、認めねぇ――」
「そうか」

 ニブルは粒子となって消えた。
 積み重なった粒子が払われるようにして舞い、その姿を無くす。

 視線の先には黒一色の姿が光の無い目でこちらを見据えていた。

「アスキラ――さん」
「時間だ。勝負がついたのに往生際の悪い奴だ。犬なら犬らしくハウスで帰ればいいものを。フフ……」

 アスキラさんは冷静を装っているが、恐いくらい殺気がダダ漏れだった。
 口元では笑っているものの、目だけはただただこちらを見続けている。
 二刀の小太刀はブラりと手に提げてはいるが、ここで俺が攻撃をするものならすぐさま受け流し、一撃をいれてくるだろう。隙はない。

 どうしても、戦うのか。

「なに。心配するなユキ。
 勝つか負けるか。それを俺が求めているんじゃない。
 俺はただ、強い奴と戦いたいだけなんだ。
 格闘ゲームの筐体で俺は座っている。お前はただ正面の筐体に座って百円を入れるだけだ。そして全力を出してくれればいい。
 ただそれだけだろう? お前はどれだけ強くなったのか採点してやるって言ってるんだ。
 それに―――――」

 なんだろう。
 ここまで饒舌なアスキラさんを見たことが無い。
 目を丸くし、その姿に見つめていると、途端に笑みがこぼれた。

「だから――っ。何がおかしい」
「いえ、すいません。そこまで俺と戦いたいだなんて。ちょっと、嬉しくて」
「あぁ、今のお前は最高だ。確実にサーバーで十本、いや五本指――もしかしたら俺を超えてるのかもしれない」
「買いかぶりですよ。俺はただ運がいいだけ――」
「違うな。運も確かにあるだろう。けどな、俺には分かるんだよ。努力して手に入れた力、そいつが迷って答えを探して手に入れた力、なのかをな」

 その言葉を聞き、なぜか、小さいころからあった胸の奥が軽くなった気がした。
 手を胸に当てるも、動く鼓動。変わらずで重りなんてない。ないのだが。

 なぜか清々しかった。

 目頭から冷たいものを感じ、すぐさまそれを拭う。

「そうですか。わかりましたいいですよ、俺の全力見せます」
「っ! よく言ったな【ブリューナク(・・・・・・)】」
「え?」
「ほら、回復薬使え。イベント限定で配られるマックスポーションだ。馬鹿高いが、何。お前と戦うためならこんなもの安いくらいだ」

 そう無理矢理受け取った赤い瓶に入ったポーションを渡される。
 これはイベント上位者にしか配られないHPをマックスにすることができる回復薬、マックスポーションだ。
 市場でも出回るのはちょっとで、たぶんサーバーでも百個もない本当のレアアイテムだ。

 いや、それよりも。
 俺は不思議な、そして単語を聞いた。

「え、あ、あの………【ブリューナク(・・・・・・)】って?」
「俺が考えたお前の通り名だ。確かにお前は【絶氷】に勝って名を取り戻したんだろう。だがその穿つ魔氷の剣に、お前のその勇気。まさしく伝説の武器、【ブリューナク】の名に相応しいと俺は思って付けたんだが、嫌だったか?」
「えっと……嫌ってわけじゃないんですけど」
「そうか。もっと他のモノを考えてたんだが。武器名から【穿凍】。色から【蒼の矢】とか。だが俺の中では【ブリューナク】がしっくりきてだな」

「その……確か【ブリューナク】って、炎の槍(・・・)、でしたよね」

 長い時間、場が氷ついたように思えた。

 別に新しい名を付けられるのはいいんだ。
 しかもその名付け親が、自分が憧れているアスキラさんからなんて十分名誉なことだ。

 ただ、伝説上の【ブリューナク】っていうのは太陽神ルーの槍だったはず。
 それに俺の獲物は氷の大剣であって、だいぶ、その……貫くところしかあってないようなぁ……。

「だ、誰がブリューナクが炎の槍だって決めつけた! 神話上の武器なんて書物が違えば種類も変わる。北欧神話の主神オーディンですら、オーデンやオディーンと言われてるからな。ブリューナクが槍じゃなくて剣でもなんら問題でもない」
「えっとでも、ルーって太陽神じゃ……」
「なんだ? 太陽神だから氷の剣を持ってちゃおかしいのか? ポセイドンだって海と地の神なのが所持しているのは雷の槍だ。反する属性武器を持っていてもおかしいはないだろ?」
「えっと、その……はい」

 ぶっちゃけどうでもよかった。
 こんなにも喋るアスキラさんを見れて、「あ、この人本当に人間なんだ」と思えてちょっと嬉しいのもあった。
 それ以上に俺の努力を、才能以外のところを見てくれる人がいたことに、俺は本当に嬉しかった。
 俺は、まだまだ方便や言い訳を捲し上げるアスキラさんを余所に、もらったポーションを飲み、軽く剣を振るう。

「それよりも、アスキラさん。こっちの準備はいいですよ」
「であるからにして――っ! えっと、なんの話だったか?」
「俺と戦うんでしょ。やらないなら帰りますよ」
「ほ、ほんとか!」
「ふふ、ええ」

 まるで子供のようなアスキラさんを前に、笑みがこぼれた。

 アスキラさんは頭を振り、両の頬を叩き気合をいれる。
 さっきまで見せていた真剣な顔を向ける。

「ギルド【SEED】マスター、双剣士アスキラ。参る」
「【ブリューナク】、氷剣士ユキ。いざ――」



「「尋常に!!」」

 これでラストと言ったな。あれは嘘だ。
 次がラストだ。

※【ブリューナク】について、2015年頃からブリューナクは日本の創作物だと言われており、この名前にしたのはそれ以前のためご了承をお願いします。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ