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チートな俺と歌姫な俺と 作者:真幸

◆◇ 第二章 -幸運と不幸- ◇◆

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3-8 <クーリンの目的。だがそれはチェアータンブル土下座>

「"自分を貫く勇気"……?」
「そうです。貴方が自分を貫くことができるのなら。きっと、きっと負けはしないでしょう。アスキラさんにも――"【絶氷】のニブル"さんにも」
「っ!?……お前。見てたのか」

 一呼吸置き、クーリンは真剣な眼差しを細めた。

「そういうつもりじゃなかったんですけど――ね」

 困った風に微笑するクーリン。
 それは含みを持たせた言葉ではなく、本当にたまたまだと言いたげだ。
 本当にたまたまだと言うのなら別の"目的"が?
 ――もしかしたらその目的は流行りが終わった今もこのクエストを続けている理由なのだろうか?

「――もしかして、このクエストを続けている理由と関係してるのかな?」
「………」

 微笑んでいたクーリンの眉がピクリと動いた。
 なるほど。なんとなくで口にしてみたがまさか当たりだとわ。しかしクーリンの口は閉ざされたままで、怖いくらいに視線も変わらず俺を見ていた。
 俺が何かに気づいたのではないか?という変な勘ぐりを与えてしまったようで、警戒しているようにも見える。
 といっても……その理由なんてもの、全然わからないんだけどね……。
 だってさ。俺をストーキングする=ブームが終わったクエスト。

 ………。
 意味がわからない。

「――まあいいさ。話せる内容ならもう話してるよね?深くは追求しないよ」

 正直まったく分かってないのになぜこんな事を口走ってしまったのか、後悔している。
 だって変な事言って警戒させるとか……。俺としてはここでクーリンという師匠がいなくなるのはかなりの痛手であり、デメリットだ。
 ―――きっとクーリンもそう思うはず………たぶん。

「………そうですか。ありがとうございます」

 クーリンの困った風な笑みはさらに柔らかくなった。
 よかったとかホッとする前にクーリンの笑顔に少し、ほんの少し――心が揺れ、見蕩れた。
 その笑みは自分と同じ男とは思えないほど柔らかく、輝かしく。簡単に言えば少し……かわいいと思ってしまった。
 俺は急いで目線を逸らす。
 だって、だって!男を見て可愛いと思うなんて………。
 え、ええーい!

「そ、それじゃ―――さっさと行こう」

 な、なに顔を赤くしてんだ―――俺。
 誤魔化し半分に踵を返す俺に対しクーリンは。

「――?」

 急におかしくなった俺に首を傾げるクーリン。
 べ、別にやましい考えなんてないからっ!
 今後BLへと展開とか絶対ないからっ!



 ◇◆◇◆



 運んできたお茶を彼女と自分の前に置いた。

「ちょっと。お茶うけのお菓子も出ないわけ?」
「おっと悪い―――って、なら帰れよぉ!?」
「ならアンタが帰りなさいよ」
「ここ俺の店だから………あぁ。なんだか頭痛くなってきた………」
「馬鹿でも風邪ひくのね」
「風邪じゃねーよっ!!風邪だとしても原因お前だからっ!!」

 シュウの発言にプイ。っと顔を逸らすなり口元にお茶を運んだ。飲み込んだ物が想像よりも上物でハッと目を大きく見開いた。さっきまで怒っていた顔が嘘のようにコロッと変わった。まるで猫のようだとシュウは肩を竦めて、ドカリと椅子に座った。

「んで。お前まだ待つつもりか?」
「別にいいじゃない。来てもいいって話だったし」
「そんな話したっけ?」
「んで、ユキいつ帰ってくんの」
「話を逸らすなっ!!………さあな。会いたいなら会いに行けばいいじゃんか」
「べ、別に会いたいなんて―――っ」

 自分の気持ちを紛らわすためにお茶を啜るも「熱っ!!」と舌をやられたようだ。シュウはその猫舌な弓娘、テルプの前に座るなり心の中でざまーみろと言うのであった。
 さて、問題を置いていったアイツはいったいどこで何をしてるのだろうか。別に心配などしていない。むしろ皮肉を込めてそのまま帰ってくるな! と言ってやりたいほどに。
 アイツが一人で行動するってことは踏み出そうとしているときだ。引篭もりだったアイツが一人でボイトレの教室通いだした時も、何食わぬ顔で学校へ来た時だってそうだ。きっと何かを見つけたのだろう。バラバラに散らばったピースを。
 昔アイツが言っていた。

『自分が思い描いた夢ってジグソーパズルなんだよ。ピースを一枚一枚はめて夢っていう絵を完成させる。けどそのピースは散らばってて、一生懸命、本当に一生をかけるようにしてそれを探してはめていくんだ』

 幼馴染でもあり、親友であるユキが自分の知らないところでドンドン成長していく姿に嫉妬もした。だがシュウはそんなユキの努力も知っているいるし、自分にはその類の才能がないことも知っている。

 何かしてやりたいが、直接きいたところであの頑固者はそれを蹴っ飛ばして「一人でやらないと意味が無いよ」とか言うんだろうな。
 何かアイツにやってあげること………。
 そういえば武器盗られたんだっけ?

「っ!?」

 何か自分にできることを閃いたと同時、ベル音と視界に来客を知らせるウィンドウが表示された。
 来客の名前を見ると『クオリア』と表示されていた。

「あらあら。珍しい面子ですねぇ~~~」

 フレンド登録、さらにここのアクセス権をユキ達に渡しているので勝手に入ってこれる。遊び場にされるのは些か癪ではあるが………。
 ユキはいいとして、クオリアに関しては………出会った当初、地獄を経験しているので何も言えない。一撃で殺し、蘇生。その繰り返しはまさに地獄だった………。一度でも『蘇生魔法(リザレクション)の受諾』をしてしまうものなら、ずっと私のターン!!とばかりに全属性魔法飛んできた。見るに見かねたユキは必死に止めるも、クオリアの猛攻と甲高い笑い声はその場に反響し続け、俺に一生消えない恐怖を刻みつけた。
 ―――あのときのことを思い出すだけで体は震え、クオリアの目を合わせれないでいる。
 キョロキョロと当たりを見渡しているクオリアにシュウは勇気を出して彼女が求めている解答を投げた。

「ユ、ユキならいないぞ……」
「あらあら。そうですか」

 困った風にクオリアは手を頬に置き首を傾げる。芝居がかった仕草に色々と疑いが過るも、シュウは心を落ち着かせようと自分のカップに手を伸ばした。
 鉄と炭の匂い、さらにはこの恐怖心さえも消す強烈な甘い香りが嗅覚を占拠する。まるで現実を忘れさせてくれるほどの甘い香り、"マスカットフレーバー"―――マスカットぶどうを口に含んだような香り―――がシュウを落ち着かせた。
 俺にはよくわからないが、クオリアが「この香りが強いほど高価でおいしいんですよ?」と言うのだ。騙されてるのかもしれないけど……。
 さすがは一見さん用に買った高い紅茶だ。なんだよ、一〇〇グラム一M(一〇〇万)って。安いのでいいだろうと適当に買い漁っていると、紅茶にうるさいクオリアに捕まって紅茶の歴史やウンチク話を三時間近く聞かされた後、自分が選ぶと言って選ばれたのが今飲んでいるダージリンだ。今思えば自分で飲みたいがために買わせたんだと思う。
 だがこれ、ガチで旨い。自分でもたまに飲みたくなるほどいいものだ。
 いちおうゲーム内の飲み食いはリアルのもと似せているらしく、クオリアに言わせると「まずまずですね」とのこと。
 ゲーム内でこれほどに美味しいのだ。本物の高級ダージリンはどれほど美味しいのだろうか。ある種の探求心がシュウを狩り立たせたが―――また嫌なこと思い出した。
 そんな話をアイツの前でしたら「どれも一緒じゃない?」とクオリアの目の前で言いやがった。
 あぁ、これはクオリアの説教コースだろうなと思ったが、現実は残酷だった。「そ、そうですよねぇ~~。ど、どれも一緒ですよねぇ~~。ホントこんなもの買うなんてお金の無駄ですよねぇ……」と引きつった顔でクオリアが言ってた。って、おい!!俺のあの説教はなんだったんだよっ!!
 これだから女って奴は……。

 お茶を啜っていると、香りに釣られたのか、クオリアがシュウの横に座り、自分のマイカップをアイテムストレージから取り出した。俺はそこで二度見したのは言うまでもない。
 俺の許可もなく、さらにはいつも持ち歩いてるんだろうマイカップに手慣れた手つきで紅茶を注いだ。
 クオリアは香りを嗅ぎ、一つ頷いた後、それを飲み込んで静かにカップを置いた。作法も何も知らない俺だが、その動作は様になっているものできっと正解なんだと思えた。
 もう一口飲み込んでいたクオリアだったが、テルプと目が合いニコリと不敵にほほ笑みカップを置いた。

「また会いましたねぇ~~。テルプさん」
「ゲーム内でもその喋りなわけ?疲れない?」
「貴方の方もだいぶこのゲームに馴染んできたんじゃないですかぁ~~?」
「いい時間潰しよ。教えてくれてありがと"ク・オ・リ・アさん"」
「いえいえ。でもその時間潰しが一日の大半を使ってるとか。使ってない――とか?」
「ほ、本選始まるし。そっちのが大事だからインしてるだけで―――」
「その割にはレベルもあがってませんし、装備も変わってないですけど?」
「そ、それは―――」
「それにストーカーまがいのことしてると耳に―――」
「だ、誰がストーカーよっ!!誰がぁっ!!」

 不穏な空気が充満し、まるで今から『デュエルよっ!!』『いいですよ?』そんな雰囲気である。
 やめて!!俺の店を荒らさないで!!やるなら外でやって!!そしてクオリア負けて!!けちょんけちょんに負けて!!そのまま帰ってくるな!!
 そんな雰囲気から急に踵を返し、クオリアはシュウに視線向けた。
 唐突に振られたものでシュウは『まさか――コイツ心を読んだ!?』とカップを持つ手が震えた。更には手から溢れんばかりの手汗が……やばい、殺される。

「それでユキ様はどちらに?」
「ななななな、なんでもないですよっ!!何も思ってないですよっ!!」

 急に話を振られ、何か言われるのかと怯えていらん事を口走ってしまった。
 クオリアの瞳がキラリと光ったようにも見えたが、数秒シュウを見つめた後、瞳を閉じてわざとらしく咳払いをした。

「――……コホン。それで?ユキ様はどちらに?」

 仕切りなおしとクオリアは同じ言葉を発した。
 いちおう見逃してくれるようで、泳ぐ目にパニクった思考で急いで解答を出した。

「な、なんか修行の旅に出るとか言ってましたよ?」
「―――そうですか」

 尚も不自然に敬語のシュウに、疑いの眼差しを向けるもクオリアは『まぁいいや』と話を終わらせた。

「そもそもユキとフレンド登録してるんですから聞かなくても場所わかるんじゃ……?」
「いつもここにいらっしゃるもので。そうですね。そうしましょ」
「さっさとどっか行っちゃえ!!」

 シッシッとテルプに追い払われながらクオリアは飲みかけのカップをストレージに戻し、シュウとテルプに一礼して出口へと向かった。その間もシュウはいつ魔法が飛んで来てもいいように身構えていた。

「それでは、ごきげんよう」
「べぇ~~だぁっ!!」
「………」

 最後、鬼の形相をテルプに向けられていた事をシュウは見逃さなかった。あれは俺を殺したときと同じ顔だ。俺を睨んでいないとしてもどうしても震えてしまうのはナゼ………?
 その死神にも似たクオリアというバケモノの姿が完全に消えるのを確認し、シュウは安堵の溜息を漏らした。

「おっ、おっかねぇ~~……」
「アンタ、ビビリすぎ。所詮アイツも女よ?男の腕力に任せて顔面殴ってしまいなさいよ」
「お、おおおおお前。そそそそそそそんな恐ろしいことしてみろぉ!明日からINできない体になって―――」
「クオリアぁ~~!!なんかコイツがアンタぶん殴りたいって―――」
「言ってません!!言ってません!!ホントに言ってませ―――」

 背面が出口というのもあり、シュウは椅子の背もたれに両膝を当て椅子を倒し、シュウの体重が乗った椅子が倒れる音と共に土下座の姿勢が完成されていた。
 名付けるなら『チェアータンブル土下座』。
 きっとこれなら寛大なクオリア様も怒りを―――って、いねーし。

「ぷっ、ぷ………………アッハハハハハハハッ!!!!!!!!!!!アンタ面白すぎッ………や、やば………アタシを笑い…殺すつもりね――アッハハハッ………!!!!!」
「―――」

 こ、これだから―――女って奴は―――。
 シュウは土下座している姿を崩さずに怒りに震えていた。
 絶対、女なんて信じない。俺は絶対女なんて信じない。そうだ、あのとき言われていた『三次元を信じず、二次元を信じろ』ってあったな………俺もそっちの世界で生きれば―――。

「すいませんッ!!ちょっと――……な、なにを――なさってるんですかぁ……?」

 乱暴にドアを閉め、再び現れたクオリアの目にはテーブルの上で悶えるテルプと、盛大に、クオリアに向け、倒れた椅子の上で土下座しながら泣いているシュウの図であった。

「い、いいえ――どうしました?」
「えっと……すいません。ここで"落ちても(ログアウト)"いいですか?」
「え?」
「ちょ、ちょっと用事思い出してしまったので―――」
「ちょ……」

 ちょっと待て、訳くらい言えよ。と言おうとしたが、すぐさまログアウトしていったクオリアと、来客を知らせるベル音とウィンドウにかき消された。
 後ろを振り返るも、未だに笑い悶えるテルプ。
 悶えるテルプの姿を見ながら、絶対女だけは信じない。と、固く誓うのであった。

「すいませーんっ!!」
「は、はいっ!!ただいま!!」

 店の方から客が催促の声。
 早く行かなくては、といそいそと店に出るシュウであった。


・補足・

***【チェアータンブル土下座】***
 椅子に座っている状態から緊急に土下座をしなければならない状況に使う物。体重が乗った椅子の倒れる盛大な音がインパクトとなって絶大な効果を生み出すだろ。………たぶん。

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 次回はたぶん速いと言ってたはずがまさかぴったり二ヶ月かかったでござる。何を言ってるのか―――。
 色々と忙しさに駆られ執筆作業から逃亡した次第です。すんませんした!!
 ある程度モチベもあがっているので頑張って二章終わらせます。
 といっても………まだ二章の四分の一を行ったか行ってないか微妙なところなので頑張ります。
 とりあえずこの作品を最初から見直しながらチョコチョコと手直しし、続きを書いていくつもりですので長い目で見守ってください。。。

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