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チートな俺と歌姫な俺と 作者:真幸

◆◇ 外伝 -鍛冶師な俺とチートなアイツと- ◇◆

30/54

0-3 <切り札。だがそれは切れない>



(2012/09/13)番外編1、2話を改変。それ以前に読んでた方は読み直しを推奨。

 時刻は二十二時を周り、ゴールデンタイムの賑わいも少し落ち着いた程度、見える窓からは未だ人が消える気配はなかった。
 その中、街の片隅に位置するバーではクラシックのBGMが静かに響いていた。NPCのマスターはカウンター席の前で音を鳴らしながらコップを磨き、時より客が来店するたびに「いらっしゃい」と渋い声で言う。
 そんなNPCが経営する店で一人、カウンター席で頭を抱えている人物がいた。

「―――ッ」

 シュウだった。シュウは届いたメールの内容を確認したのち、急に顔色を変えた。
 届いた依頼書にはその武器の詳細な名前と能力、それに期日と支払う予定の金額、最後に前金の一M(一〇〇万)が同封されていた。
 なんということでしょ。大抵の武器は素材があり作れるのだが、今回依頼された武器は現在進行形で市場を奮闘させているほどのレア。

「まさかよりにもよって"あの剣"だとは………」

 依頼された剣の名前は【鏡剣(きょうけん)・ニトクリスレイヴ】。現ヴァージョンでの最高性能の片手剣であり、市場では五M(五〇〇万)以上の値で奮闘している。一般的に一時間での平均狩り収入は十k(一万)とされているため、この金額まで稼ぐのにどのくらいの時間がかかるのか考えたくないものだ。
 ランクはユニーク。現状ではレジェンド級の武器が存在しないもんで実質ユニークが最高になる。
 能力は既存で三つ付いている。【『Agi』値を上昇】、【PT(パーティー)メンバーの物理攻撃力、魔法攻撃力上昇】、さらには【自身のヘイト値を減少】させる能力を持っている。この【PTメンバーの物理攻撃力、魔法攻撃力上昇】がかなり大きな恩恵と人数に応じて効果も重複することからユキのような"アタッカー"型の片手剣使い達はPTに優遇されるようになった。今まの今までは"アタッカー"型の片手剣士はPTには冷遇されて某匿名掲示板でも『盾を持たない片手剣を入れるくらいなら魔法使いや両手(ツーハンド系の武器)使いを入れろ』と言われていた。しかしこの剣の登場で掌返しのスレ民『俺は片手剣を信じていた』『あいつならできると信じていた』『だがそれ以外の片手剣。お前はダメだ』と言われている。

 その現状最高性能の片手剣、【鏡剣・ニトクリスレイヴ】を作って欲しいとのことだ。

「それを五日以内………で十Mか………」

 やばい。十Mって一体いくらだよ。ちょっと前リアルで電子機器見てて、「十kか………安いな」って思ったけどよくよく考えると一万なんだよな。ネトゲに慣れすぎると金銭感覚が狂ってくる気がしてしかたない。
 早い話十Mって言ったら一千万だ。今持ってる所持金と合わせれば"循環システム作り"も簡単になり自分の店舗を持つことなんて造作もないだろう。

 だがこの依頼はその辺の『職人』でも逃げ出したくなるような難問。だが彼にはチートと呼ぶアイツがいる。
 その時、入口側からウェスタンドアが開く音と、カランカランとそれを知らせる音がし、渋い声の「いらっしゃい」が静かな店内に響いた。

「………やっと来たか」

 木製の床を歩く音が二つ。今回の依頼の切り札とも言える親友―――と、その現パートナーだろうか?黒に近い赤色、臙脂(えんじ)色のフード付きケープを着込み、膝から上を隠していた。
 その二人はシュウの横に座る。

「人を呼んでおいて、"やっと"ってなんだよ。マスター俺はコーラで。この人にはアイスティーを」

 するとケープの人は注文するユキの手を掴んで『自分はいらない』と首を振っていた。

「いいのいいの。ここはコイツの奢りだから」
「おいおい………」
「そういえば紹介がまだだったね。こっちは親友のシュウ。こっちは狩り仲間のクオリア」

 クオリアと呼ばれた彼?は、何も喋らずに小さくペコリとお辞儀した。シュウの第一印象は変わった人だったとかなんとか。
 それに反応してシュウも挨拶した。

「シュウだ。よろしくクオリアさん」

 露天商売で学んだ営業スマイルを向けるが無反応に注文したアイスティーをストローで飲んでいた。すごくいたたまれない気分になった。
 ユキも注文したドリンクを飲んだ後、一息ついて本題に入った。

「―――早速本題だ。ちゃんと正式な依頼書も作ってきたぞ」

 ストレージから出してシュウは二つ書簡をユキに渡した。
 ユキは一通り目を通すとクオリアにも「はい」と渡す。

「メールの内容と一緒だね」
「メールの内容そのままコピペしたからな。早い話俺からのクエストだ」
「いいね。それで報酬は?」

 コイツ本当に依頼書に目を通したのかと疑いたくなった。
 シュウは眉を寄せた表情から笑顔に戻し、指を三本立ててユキに見せた。

「三Mだ。PTへじゃなく一人ずつにだ」

 取り分は三:三:四でシュウが多いことになるが問題ではないだろう。
 そのことに口笛を吹かせるユキと小首を傾げイマイチ状況を理解していない一人がいた。ユキが説明してくれるだろうと今はクオリアをスルーすることにした。

「それで?そのクエストに必要な素材は?」
「あぁ。【鏡の中の竜】というクエストで出てくる【鏡竜・ニトクリウス】からのレアドロップ【鏡宝玉(きょうほうぎょく)】だ。某匿名掲示板での確率計算上、0.00パーセントってレベルのレア素材だ」
「なるほど。いつまで?」
「向こうの依頼では五日後までだが四日以内で頼み―――ん?」

 クオリアはユキの裾を引っ張り、見ていたんだろう外部サイトを指差しユキに見せた。

「あぁ~~~………了解」

 ユキは頷いてこちらを一瞥するなり手を合わせてきた。

「ゴメンっ!!この依頼受けれない!!」
「はぁ!?なんで―――ッ!?」
「その【鏡の中の竜】ってクエスト、メインクエストを前提まで進めないと受けれないみたいで………」
「お前、まさか………」
「全然進めてない」
「――――ッ!!?!?!!」

 声にならない声で唸った。

「どこまでだよ―――っ!!メインどこまで―――まさか………」
「―――最初からです」

 シュウは頭を抱えた。そういやユキのレベルのあがりが遅かったと覚えている。しかしそれがメインクエストをやっていない差だと当時のシュウには全然思わなかった、むしろ優越すら感じた。普通に他のクエストと同時進行でやってれば終わるので何も疑わなかったけど―――まさか、まさか頼みの綱がこんなことになるとは………。
 今からメインクエストを一からやろうとすれば五日はかかる絶対間に合わない。
 シュウは口元を手で隠しその下では下唇を噛み、目を閉じて思考する。

 どうする?カルアさんにいいところ見せたいがために引き受けたけど、今更断ればボロクソ言われた挙句、掲示板に晒されて変なレッテル貼られるに決まってる。そんなことになったら………このゲームをアンインストールしないといけなくなる………。
 さすがにそこまでは考え過ぎな気もするが間違いなくカルアさんとの関係はそこで終わってしまう。それだとカルアさんと俺との間に何も築けない。それだけは絶対に死守しないとだめだ。

 せめて―――。
 せめて期日が一週間なら―――っ。

「ちょっと失礼―――」

 思い立ったシュウはすぐさまカルアさんに念話するため席を立ち、入口付近でメニューを開いたところでカルアさんの言葉を思い出す。

 『一週間後にギルマス(ギルドマスター)の誕生パーティーをするんです。そのためのプレゼントを―――』

 今回の依頼目的はそれだ。期日を伸ばしてくれることはまず無い。それに元からシュウという鍛冶師を信頼してるわけではない。こんななり立てのまだ名も知られていない無名な鍛冶師だ。だれが信用する?
 だったらカルアさんにユキの強運の話をし、信じてもらって期日をパーティー当日にしてもらうのか?

「―――馬鹿馬鹿しい」

 シュウは頭をグシャグシャとかき、考えていた策を壊した。

 そんな話誰が信じるんだよ。運なんて所詮確率であって他人から見たらユキのなんてたまたまにしか思えない。なのにコイツを信じてくれなんて冗談でも笑えない。

 だったら………。自分でやるしかない。

 一Mなんて大金を前金として貰ってるんだ。例え期日が迎えたとしても血まなこでやればいい。
 間に合わなかったら間に合わなかったらで謝って、土下座して、自殺して、生き返ってもっかい土下座して、最後に前金返すだけだ。

 結論を自分の中で出したシュウは席に戻った。

「仕事か?」
「え?―――そ、そんな感じ」

 メニュー開いていたもんだから念話してたと思われてたらしい。シュウは心配されまいと歪な笑顔でそう言った。

「いや~~~喉渇いた。あ、マスター!この"青汁もどき"ってやつ頼む」

 誤魔化すつもりであまり飲んだことのない名前のドリンクを注文した。味は―――青汁だった。

「まずい――――」
「もう一杯?」
「いらんわッ!!!」
「ッ」

 ユキとシュウは目があった。
 クオリアがクスリと笑ったのだ。
 シュウは『自分が驚くのはわかるが、なんでお前が驚いてるんだよ』と突っ込むと、ユキは『俺だってクオリアが笑うところみたことない』と返ってきた。そういえばコイツユーモアにかけるもんな。と遠い空を見た。

「それでシュウ。依頼どうするんだ?」
「ん―――?とりあえず野良PTでも入って頑張ってみるよ」
「………そ?」
「あぁ、心配すんな。ちょっと一人で頑張ってみるからさ」

 ユキの横を見ると、少し申し訳なさそうにするクオリア。目があったようですぐさま伏せられてしまった。やっぱり変わった人だった。

 それから二十三時を回ろうとするとクオリアが落ちることなのでそのまま解散となった。


 ◆◇◆◇


 次の日。
 サウラ火山。シングルエリア。

 吹き荒れる熱風に噴出す溶岩。天へと突き出す岩々の林は見たものをストーンジャングルと言わせるほどだった。
 その中で一頭、西洋風のドラゴンが四本足でその岩の上に着地し羽をゆっくりと動かす。全身メタリックな銀色の竜は辺りの溶岩の色、オレンジ色を吸い込み神々しい金色を発していた。

 【鏡竜・ニトクリウス】

 その金色の鏡の竜の瞳、瑠璃色の瞳で彼が隠れる場所を見つめていた。

「ハァハァハァ――――っ」

 高鳴る鼓動を落ち着かせ、震える手でポーションの液体をシュウは一気に飲み干した。
 長らく戦闘という行為から離れていたからか、感が鈍って躱せるものが躱せなくなっている。HPも四分の一から全快まで回復させたのを確認できたのでシュウはまた【鏡竜】目掛けて走り出した。
 まるで弄ぶかのように【鏡竜】の長い尻尾攻撃がなぎ払う。それをなんとか【両手槌】の柄で防ぐものの、自身の技術不足で防ぎきれず大きく吹き飛ばされた。もう少し力を入れないとダメだと深く反省する。

「っく…………」

 岩の林に体を打ちつけられ、自身のHPゲージを確認したのち【鏡竜】を中心にグルリと走り出した。
 正直に言えばシュウ一人では倒せる気がしない。かといって野良PTを募集して目的の素材を出してもその場で競りが始まるのが常だ。正直手持ちも少ないので競りになると勝てる気がしない。そもそもレア素材が簡単に出るのであればここまで苦労していないわけで、小さな期待を胸に抱いてシュウはソロ狩りに向かったわけだ。
 前日にサクッと終わらせてサクッと出してカルアさんにお礼言われてそのままお付き合いする夢を見たのだが、所詮夢なんだと現実を見せられた。

 この竜、ガチで強い。
 いちおうシュウのレベルは五〇。推奨レベルを満たしはいるが安全ではない。ソロでの安全マージンは六〇とされているほど強敵だ。
 ヒットアンドアウェイに徹して一撃、一撃と入れてはいるがそれは永遠に続くように思えて途方に暮れる。

 まずは動きを覚えることを初め、早三〇分が経とうとしていた。

 【鏡竜】は大きく息を吸い込んでいる。ブレス攻撃だ。
 ブレス攻撃はある意味ボーナスタイムであると覚えたシュウは【鏡竜】の四角を突くために後ろへと回る。これでこの長いブレス攻撃中はずっと俺のターンと殴れるだろう。
 大きく振りかぶり、両手槌初級技【インパクトスウィング】で弧を描くようにハンマーを振り回す。さらに繋げる様にしてその遠心力を利用し両手槌中級技【サークルスウィング】で弧を二度描く、最後の締めとばかりに両手槌上級技【ホイールスウィング】で三度弧を描いた。計六回ハンマーのぶん回し攻撃でだいぶHPを減らせただろう。
 この耐久レースが終わることを願ってシュウは二度ステップして下がった。

 だがここでまさかHP半分での行動パターン変更がくるとはそのときのシュウには思いもよらなかった。

 さきほどと同じようなブレス攻撃だ。
 これ見よがしにさっきと同様近づき、スキル三連撃を当てるのだが―――さっきと打って変わってブレス攻撃への予備動作がやたらに長い。三連撃を終わっても尚、息を吸い込んでいる。少し不安にも思ったがもう一度スキルを放とうとしたそのとき。
 シュウの体は半透明のまま浮いていた。
 しかも視界の下には半透明でないシュウが横たわっていた。
 この結果から死んだことを理解し、シュウは視界中央に出ている『復帰ポイントに戻りますか? Yes/No』の選択肢をやりきれない気持ちのまま「くそぉっ!!!!!」と『Yes』を殴るのであった。
 

 ・補足・

****【PT構成】****

 PT上限は『六名』となっていて、構成も鉄板があったりする。

 1、盾を持ち敵のヘイトを集め攻撃を集中的に受ける"タンカー"が1名。
 2、他のメンバーの回復を主にする"ヒーラー"が2名。PTメンバーの構成次第でこの人数は変動する。
 3、ヘイトを取らないように攻撃する"アタッカー"を3名。

 この形が鉄板だが、"アタッカー"でも"ヒーラー"を兼用する場合もある。
 大抵"タンカー"と"ヒーラー"集めたら残り適当で募集したりする。
 その"アタッカー"にも色々種類があるのだが、今回はスルーさせていただきます。

 他にも殲滅速度に自信があるのなら"タンカー"を外した"アタッカー"4名というのもある。
 そして"アタッカー"6名というのもあったりなかったり。

****【依頼書】****

 オリジナルクエストを制作できるスクロール。
 承諾するとメニューのクエスト欄で確認することができる。
 クリア報酬にアイテムやお金を渡す場合がある。
 簡単に言えば契約書みたいなもの。報酬に経験値はもらえない。

******************

 本当に予定通り5話構成で終われそうで一安心している。どうも真幸です。
 ライトノベルの書き方なる本を買って一から勉強している所存です。
 頑張ります!!

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