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チートな俺と歌姫な俺と 作者:真幸

◆◇ 第一章 -オーディション- ◇◆

19/54

2-11 <前半戦終了。だがそれは前編>

「ここだな………」

 肩を大きく動かし、乱した呼吸を落ち着かせようとする。
 ユキは目的地である『C-3』になんとか着くことができた。『C-3』は洞窟を抜けた先、最初に訪れたマップ同様、溶岩に囲まれた岩場だった。
 道中ランダムで出現する巨岩亀竜によって入り口を塞がれ、回り道を余儀なくされたときはどうなるかと思ったがなんとか到着することができて安堵した。
 乱れた呼吸が正常に戻ったとき、思考も正常に戻り一つの疑問が浮かんだ。
 どんなに急いだところでラファが来なければこの先に進めないのだ。低レベルであるラファのAgiではどんなに急いだところでユキの移動速度に到底追いつくことができない。
 舌打ちが零れ再度システムメニューのパーティー欄を見ると依然として彼女の位置が『B-2』から動いていないことが確認できた。予想通りそこが巣だと思って間違いないようだ。
 『念話』で彼女の安否を確認しようにも一次予選同様、念話使用不可能の×マークが大きくそれを包んでいた。
 次第にどうすることもできない事態にユキの苛立ちは急上昇していく。

「アリスゥ――――――ッ!!!!」

 先ほど聞いた自分を呼ぶ声が聞こえた。自分が来たところとは違う右側から声がする。

「お、お待たせぇ………」

 少女は汗だくで先ほどの自分以上に息を乱していた。
 自分と彼女とのAgiの差は歴然だ。それなのにほぼ自分と同速で着くとは―――。
 ユキの表情は喜びよりも驚きで溢れていた。どうして?

「何を驚いているのですかぁ~~?」
「ッ!?」
「クオリア―――はやっ!!」

 未だ呼吸を整えずにいるラファの後ろからカツカツとブーツを鳴らしながら歩み寄ってくるクオリアの姿を見てユキは合点がいった。
 そういえばラファはあの【魔道姫】と組んでいるのだ。風魔法の『加速する風(アクセル)』が付与されてもおかしくはない。それならば遠い回り道を強いられた自分と同着だったのは頷けた。
 そんなクオリアは呼吸一つ乱れておらず、むしろ笑みをこぼしながらユキに近づいた。

「さぁ、ラファさん。ユキ様に付与を」
「ちょ、ちょっと待って………途中でバフ(支援効果)切れて…………ガチで走ってきたから………呼吸が………」

 二人はラファの呼吸を正すのを待ち、最後の深呼吸を吐ききったラファはスキル欄にある【耐熱の舞曲(フレイム・ボレロ)】の音符を確認した。
 確認したのち、にぱっと笑顔を見せてラファは「行くよぉ!!」と息を吸い込んだ。
 先ほどテルプによって聞いた三拍子のカスタネットとアコースティックギターが演奏するBGMが流れ確かに左下のログにも付与されたことが確認できた。
 内心、パーティーメンバーのみ付与可能なのでは?と疑ったがこんなイベントが起きた時点でそのことはないと確信した。

「ありがとうラファ。―――行ってくるよ」

 そう言うなりユキは柔らかく笑い、急いでその場を後にした。

「………」
「なに呆けてるんですか?」
「―――っ!?うっ、うっさいわねぇ!!―――このタヌキッ!!よくもあたしを騙してくれたわねぇ!!!!」

 ユキの笑顔に不意を突かれときめいてしまったことを言い当てられ、すかさずラファは反撃に出た。

「あらぁ?なんのことですかぁ~~~?」
「口調戻したって無駄なんだからねっ!!この借りは絶対返してやるんだからぁ!!―――ほら、あたし達もさっさと行くわよぉ!!」

 ズカズカと物凄い形相でラファはユキが行ってしまった方へと向かう。その様子をクオリアは見つめクスリと笑い、彼女の後をゆっくりと追いかけるのであった。


 ◇◆◇◆


「―――テルプッ!!!!」

 二マップ目を通過し、最終目的地である『B-2』へと到着したユキであった。
 マップ移動直後に足元は溶岩の海に囲まれ、この歌スキルが無ければ十数秒もすればこの五桁あるHPもゼロになってしまうと思うとぞっとした。

「きた―――。ッ!?――――おっ、遅すぎるわよぉ!!このダイコン役者がぁっ!!!!!!!!」

 一瞬彼の到着に安堵して涙を浮かべたことに気づき、テルプはすぐさま彼を罵倒した。
 ユキはその言葉に深く反省し、「ご、ごめん………」と小さく謝りながら彼女に近づいた。
 同マップに彼女が存在したことにより視界右側に彼女のステータス状態が表示されるようになり彼女のMPゲージが劇的に減っていることに気がついた。どうやら彼女自身【耐熱の舞曲(フレイム・ボレロ)】を何度か使用したのだと理解した。

「今行く。そのまま動かな―――」
「何がごめんよぉっ!!!!散々人待たせといて最初の台詞がそれぇ?もっと言葉選んで喋りなさいよぉ!!!!」

 近づくことによって大声での罵倒が勢いを増していった。それは彼女を助けようと近づくユキへの精神攻撃にもなり、眠る者への目覚ましにもなっていた。
 その異変にいち早く気づいたのはユキだった。
 近づくたびに何か黒光る物が少女の足元に存在することに気がつく。

「ま、待ってテルプ!!あまり騒がない―――」
「―――だいたいアンタ遅すぎるのよぉ!!!!いくらワタシが主役だからってこんなところで放置してもいいと思ってるわけぇ?絶対アンタなんか―――」

 やはりか―――。とユキは確信が脳裏を横切った。
 足を止め、背に携えたレジェンド級武器『氷覇王竜・逆震』を構えた。

「ちょ、ちょっと何怒ってるわけ!?怒りたいのはワタシの方なんだからぁ!!!!だいたいアンタはこのいたいけな女の子をこんなと……こ…………ろ―――――」

 お互いの視線は起き上がる物体に注がれた。
 どうやら敵が目覚める前に彼女を救出するのは無理だと判ると剣先を『炎王竜-モトグニル-』に向けた。
 明らかに様変わりしたかの竜を見つめる。先ほどまで見せた炎王を象徴させた真っ赤な鱗に覆われたその体は岩のような黒ずんだ物となっており、いかにも強固で通常の攻撃は効かないことを促した。
 このゲームでは敵モブのHPは表示されないようになっているので自分の感覚と経験で相手のHPを想像しなくてはいけない。予想としてはHP半分になってこの巣へと逃げ込んだことから半分。それからこのマップで睡眠によるHP回復から六〇~七〇パーセントであることが予想された。
 チラリと左に表示されているバフ効果時間を確認すると残り一分を過ぎたのがわかった。ならば第一に優先するの彼女の救出だ。
 すぐさま彼女を助けようと体を動かすのだが敵の様子を察知してすぐさま走りだした。
 かの竜は寝起きで"空腹"だ。そもそもなぜ彼女をあのように張り付かせたことに気づかなかったのかとユキは自分の愚かさに叱咤した。
 答えは簡単なことだ。空腹なら用意した"餌"を食べればいい。反転した竜は壁に張り付いた"餌"、テルプへ向けてその大きな口を広げた。

「ちょっ、待ってぇ!!!!きゃああああぁぁぁぁぁ―――――――――――っ!!!!!!!!!!」
「っち!!!!」

 液状に進入したことによる移動速度減少へ盛大に舌打ちし、近場にあった岩へと飛び乗りその岩を壊さんとばかりに力を込めて蹴った。
 宙を翔け上段に構えた大剣を左下段へと移動させスキルを発動させる。
 氷魔法剣上級技【氷剣技(アイシクル)吹牙雪(テンペスト)】。システムアシストにより上方へと切り上げながら氷風のエフェクトを発する。

 やったか――――?

 相手の反応はなし。
 手ごたえとしてはよくわからない。が、どうやらヘイト値を稼げたようでなんとかモブから視線を取ることができた。
 手ごたえはよくわらなかったが一つ不安要素が脳裏に追加された。
 先ほどまで一撃与えると怯みをせずとも仰け反りを見せた竜が反応を示さない。

 それはまるで――――。

「っ!?」

 炎王竜は雄叫び一つあげたのち、溶岩に落下したユキをサイドから現れた尻尾によって弾いた。不意を突かれた一撃に対処できずユキは大きく吹き飛ばされ、肺から空気を吐き出される。
 なんとか壁に激突する前に体勢を立て直すことができ、ユキはすぐさま呼吸と共に"確認"のため左手で詠唱しながらもう一度翔けた。
 氷魔法中級技『突き進む氷槍(バージジャベリン)』を竜の胴体目掛けて放った。それは一直線に竜の体に衝突し、乾いた音をたてて破砕された。
 ユキはその事実に冷や汗を垂らし、口から零す音などしてる場合ではないと悟る。

 確信がついた。
 どうやらあの形態は【氷属性無効】のようだ。
 再度、竜はその大きな口をあけて灼熱の火球を作り連射で仕掛けてきた。体を動かし迂回するようにユキはその攻撃から避ける。

 どうする――――?

 バフ効果時間も残すところ三〇秒を切った。凍結させてその間に救出する作戦を頭の中で立てていたが【氷属性無効】がついている相手には状態異常【凍結】も効果はない。

 万事休すか―――。

 眉をひそめるユキを見兼ねたテルプは危険を承知で叫んだ。

「ワタシを攻撃しなさい!!!!!!」
「っ!?―――――」

 テルプの意思のある表情を読み取ったユキは彼女にもわかるように大きく頷き、加減するため氷魔法初級技【氷の礫(アイスストーン)】を彼女に向けて発動させた。
 それは命中すると共に彼女全体を徐々に氷漬けにし、状態異常【凍結】にした。

 やってしまった。

 開いた口が塞がらないユキに対し、氷漬けにされたテルプの口元がニヤリと動いた。
 最後の火球を特大のステップで避け、彼女のいる壁際まで辿り着くことができた。しかし依然として竜は餌の死守に全身を壁にして行く手を塞ぐ。

 残り時間十秒を切った。

 そんなとき、パリーンというガラス塊が破砕された軽快な効果音がそのマップ中に鳴り響く。

「――――そうかっ!!」

 テルプの意図に気づいたユキは猛スピードでかの竜目掛けて走る。

 あと五秒。

 もう一度竜はその大きな口を開けて火球を生成する。
 その行動を予期していたユキは集中した意識と、その驚異的なステータスにより火球が発すると同時、意識が加速、世界がスローモーションした。寸前のところで体を回転させ勢いを乗せたまま彼は炎王竜の横をすり抜ける。

 あと二秒。

「テルプゥ―――ッ!!!!!!!!」

 空に手を伸ばす。
 彼女が意図した通り、彼が理解した通りに落下してきた彼女をユキはしっかりと受け止めたのであった。
 つまりはどういうことだってばよっ!!!!
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