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チートな俺と歌姫な俺と 作者:真幸

◆◇ プロローグ ◇◆

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1-1 <激運。だがそれはチート>

 設定が思いつき、いてもたってもいられず書きました。後悔はすごくしてます。
 曇空広がる荒野にて、周りの土色とは正反対の青いロングコートを着けた男がいた。
 銀髪のワイルドショートは強風が吹いたとて崩れることはなく、頭上のはねた髪とロングコートの裾は大きく揺らすのみだった。
 肩についた銀色のファーから見える男の身長ほどある大剣。これもまた青だ。
 しかし舞う砂嵐の所為でその綺麗な青もくすんで見えた。
 全体的に銀と青色で纏まった彼は、吹き荒れる砂嵐の中悪目立ちしていた。

 何度か風に体を持っていかれそうになるも、体の重心を前に持っていくことでそれを凌ぐ。

 突如キョロキョロと当たりを見渡す彼。
ビバークする地点でも探しているのだろうか。
 しかし四方八方砂塵が舞い上がり、とてもじゃないが一寸先も見れる状況ではなかった。
 痺れを切らしたのか、彼は赤みがかった茶色の瞳で砂塵を睨み、即座に背負った大剣を片手で抜いた。

 上段一閃。
 文字通り、風を斬った。

 駆け抜けたのではなく、砂嵐を切り払ったのだ。
 そこから広がるようにして徐々に、徐々に砂塵が晴れていった。
 晴れた視界には今にも降りだしそうな曇空と、殺風景な山脈が見えるのみ。
 あとは何の変哲もないただの荒野だった。

 しかし地面だけは揺れ動く。

 ―――グルヴォォォオォォォォォォォオアアアアアアアアアァァァァァ!!!!!

 地震と同じくして生命の咆哮。何者かの雄叫びが鳴り響く。
 彼は大剣を肩で担ぎ、真っ直ぐ前を見据えた。

 突如、近くの地面より爆破。砂と砂塊が噴き出す。
 風も強く、とてもじゃないが避けられなかった。
 肩に担いだ大剣を地面に突き刺し盾にする。彼は自身の身を守るので精一杯だった。
剣を突き刺す際に一撃、塊が体に当たったらしく彼の頭上に表示されたゲージが一割削れる。
 そのことに気を悪くしたのか、舌打ちがこぼれた。

 爆発が収まった。
 しかしいまだ咆哮だけ荒野に木霊する。

するとさきほど爆発があった地点より、空に昇る一本の黒い道が表れた。

 ―――否、道ではなく大蛇。

 大蛇はその長い胴体を全て空に送るや、雲の中を縦横無尽に駆け巡る。
 その行為でまた風がざわつきはじめた。
 砂の味がする風を感じ、彼ははめたグローブを引っ張り、硬く留める。

 どこまでもうごめく曇空。
 砂埃舞う荒野に竜巻のフルコース。
 世紀末ムードをバックにしては、彼の表情はどこか楽しげであった。
 準備できたとばかりに地面に突き刺した剣を掴み、右に一振りしてみせた。
 開いた赤茶色の眼光が、雲から降りる大蛇を睨み付ける。

「さぁ、準備はいいかい。バアルグニル」

 彼が言い放つと、大蛇の真紅な瞳と目が合う。

 バアルグニル。
 属性は風で弱点は氷。
 全長約一〇〇〇メートルはある空飛ぶ大蛇に、人々は敬意を表してこう呼んでいる。

 嵐王竜と。

 さきほどまで風切り音しか聞こえなかった聴覚に、軽快な、そして緊張感のあるBGMが鳴り響いた。
 それもそのはず。この大蛇は最終シナリオのボスであり、通常十八人という人数で戦う相手だ。
 それを彼は一人で立ち向かうのだと意気込み、荒野を一人で駆け抜けた。

 右手に握った大剣を引きずりながら駆ける。
 硬い岩場を踏みつけるごとに、大剣は火花を発して空へと跳ねる。
 分不相応な武器を携えている割りに、彼の速度は尋常ではなかった。
 風と大地を切り裂きながら荒野を駆け抜ける姿は、さながら風の申し子とも呼べるものだった。

 バアルグニルの口が大きく開き、風を吸引している。
 集めた風を圧縮させ、なにか弾丸めいたものを口元で精製しているのがわかる。

 この竜が持つ、遠距離技の一つ『嵐丸砲』だ。
 砲弾のように放たれた砲弾は、地面に着弾するや雲まで届く竜巻が発生する。
 当たれば被弾ダメージと、上空まで飛ばされ落下ダメージが合わさり、ダメージが加速する。
 言うなれば、即死級の技だ。
 パーティーでの対策としては、バラバラに散らばり、バアルグニルがその攻撃をやめるまで耐えるのがセオリーだ。
 しかし彼だけは依然と、バアルグニルに直進していた。
 かの竜の足元に辿り着いたとしても、今は上空にいる。
 色々ある武器の中で、もっとも射程の長い武器である弓ですらギリギリ届くか届かない距離。
 彼の大剣ではとてもじゃないが届くとは思えない。

 それでも彼は走る。
 走り抜けることで数秒前にいた場所に発生する竜巻。
 バアルグニルの足元にたどりつくと、彼は急ブレーキを掛け、タイミングを見計らう。
 一呼吸入れて数を数える。

 1、2、―――3ッ!!

 彼が後ろにダッシュするのと同時に、バアニグルは真下に嵐丸砲を放つ。
 これを待っていたとばかりに再度ブレーキを踏み、竜巻に身を投げ出した。
 さきほど説明した通り、『嵐丸砲』は着弾後その場で竜巻を発生させ、被弾したプレイヤーを上空に飛ばす。
 このとき食らうダメージは嵐丸砲の着弾ダメージだ。
 その後、長高所からの落下ダメージが予定される。

 話を戻すが、つまりは彼がしたのは着弾ダメージなしの浮上だ。

 しかしこのままでは落下ダメージを喰らってしまうのではないか。
 だがその点は、バアルグニルの真下という事で解決される。
 そう言うなれば彼の行動は、バアルグニル直通の飛翔だった。
 上空に飛ばされ、大蛇の背に足をつける。
 蛇の鱗のような滑らかな感触が足から伝わり、少し寒気がした。
 こればかりは馴れないな。とこぼした。

 大蛇の背に着地してから、プレイヤーには数十秒の行動時間を設けられている。
 それを超えるとバアルグニルによって振り落とされてしまう。
 しかし彼にとってはその数十秒だけでこと足りた。

 何せ彼は、“氷に特化した”魔法剣士なのだから。

「出番だよ、相棒!―――氷剣技・吹牙雪アイシクル・テンペスト!!!!!」

 上段に構えた剣を長く溜め、システムアシストによって人の何倍もの速度で剣が走る。
 淡く青白いライトエフェクトが剣を包み、下段へと光の軌跡が描かれた。
 軌跡は元の場所に戻るように上段へ斬りあがる。
 ライトエフェクトは綺麗なV字を描き、バアルグニルの体を斬りつけた。

 ―――グポォォォオォォォォォォォオアアアアアアアアアァァァァァ!!!!!

 先ほどのような怒り狂う雄叫びとは違い、甲高く、苦痛の叫び声が荒野一面に反響する。
 これはまだ序章だとばかりに、彼は不敵な笑みを浮かべる。
 体は前のめりに傾け、右手の剣と無手の左手を後ろに広げる。
 先ほどと同じ、淡い青のライトエフェクトが右手に握る刀身を照らし、それと同じように無手の左手も光り輝く。

「――――あぁぁあああああああああッ!!!!!」

 彼の咆哮と同時に、大蛇の頭目掛けて駆ける。

 このゲームのスキルは、プレイヤーのステータスと技発動のモーション条件をクリアしなければ発動しない。
 ステータス。プレイヤーの筋力数値であるStr、素早さであるAgi、魔法ダメージに関係する知力のInt、そして魔法発動に必要な器用さDexを適切な数値に振らなければならない。
 これは自身のレベルや、装備やスキルのボーナスで割り振ればどうにでもなる。
 しかしスキル発動に必要なモーションは別だ。
 スキルを呼び出すモーション受付時間が、上位スキルになるほどシビアになる。
 こればかりはスキル推奨値に振ったとしても、スキル発動は極めて難しく、慣れたプレイヤーでも成功率一〇〇パーセントをキープすることができないほど。
 ならプレイヤーはスキル不発となるの事を恐れず、勇気でスキルを放つのか?
 いや違う。
 これはサーバーメンテナンス以外、ログアウトしない神。
 俗にいう廃“神”の言葉だ。

『推奨値で駄目なら、倍振ればいいじゃない』

 当時の一般プレイヤーの間では、『それって、なんてマリー?』や、『さすが廃神www俺達に出来ないことを平然とやってのけるwwwそこに痺れるwww憧れるわけねーだろ、バーカwww』などと言われていた。
 だがレベルキャップも99になると、装備やスキルでのステータスボーナスにインフレが起こった。
 そして大抵のプレイヤーは神の発言通りの事ができるようになった。

 事実、この魔法剣士は両手を使わないといけない大剣を軽々と片手で扱えるほどStrを振り、スキル発動率一〇〇パーセントにするためAgi、Dexを基準より多く振り。魔法の威力をあげるIntもStr並みに振っている。
 これにより右手で剣による物理スキルを、左手で魔法スキルを扱えるように調整しているのだ。

 そしてこれが、彼が誇る最高の剣技と、最高の魔法の合わせ技。
 右手の最上級剣技、夢幻の雪月花ファンタズム・ヘルヘイムと左手の最上級魔法、光り輝く氷嵐ダイアモンド・テンペストを同時に放つ、無限の氷乱斬嵐インフィニティ・ニヴルヘイム
 剣撃十六連撃、魔法最大百二十ヒット。合わせて百三十六ヒット。

 スキルや、装備が氷属性特化にしているだけあり、一撃与えるごとにバアルグニルの泣き叫ぶ声が聞こをあげる。
 時には凍ってしまったように動かなくなったりと、壮絶なダメージを与えているのだと手に取るようにわかる。
 ついでに言ってしまえば彼が握る大剣、レジェンド級大剣『氷覇王竜・逆震』には『氷耐性貫通』、『氷属性ダメージ倍』、『凍結耐性貫通』、『凍結確立上昇』、『全ステータス上昇』のレア効果がついている。
 さらにこのバアルグニルの弱点は氷。
 もう手に負えない惨事だ。
 当然、一〇〇〇メートル先にある頭部へ到着する前に、嵐王竜のHPがゼロになり、そのまま嵐王竜と一緒に落下していった。
 この落下ダメージだけは考えてなかった。と密かに目論んでいたノーダメージクリアができず、彼は顔を歪めた。

 クエストを開始して約二分。
 まずまずだとメニュー欄にあるクエスト経過時間を見て、彼は一先ず頷いていた。
 一般的に竜巻でバアルグニルの背に乗れることが周知されておらず、それに氷属性武器の供給量が足りていないというのもあって、クエスト達成者が限られている状況だ。
 それをソロでわずか二分という高記録でクリアする彼の装備が異常とも言える。

 少し経つと消えるように大蛇の姿が無くなった。
 消滅と同時にメニューのアイテム欄を確認してみると、「よっし!」とガッツポーズ一つして喜んでいた。
 どうやら目的のアイテムを拾えたらしい。

 そこからメニュー欄を一つタッチし、群青色したクリスタルを取り出す。
 そのアイテムは『帰還のラピス石』と言い、握りつぶして割ると、自身が設定したタウンに帰還ことができる。
 この石を使わずに帰る方法は二つ存在して、一つはモンスターにやられて死ぬ。
 一つは来た道を戻る。
 前者の場合は死亡すると、『帰還のラピス石』のように設定したタウンに戻れるが、その際にデスペナルティ(死亡時のペナルティ)としてレベルに応じた時間過大なステータスダウンがついてしまう他に、自身の装備の耐久度が大幅に減少してしまう。
 高レベル者ほどそれのペナルティが大きいため、避けたがる。
 後者は来た時間かけて戻ればいい。
 だがせっかちな財布に厚みがある人ほど、すぐこの帰還アイテムを使ってしまう。
 帰還のアイテムは高価なもので、後者を選択する人も少なからず存在する。
 彼は迷わず帰還の石を片手で砕くなり、その姿を荒野から別の場所へと移すのであった。



 * * *



 ガウルの港。
 上空には青々とした晴天の空と、白い羽を広げたウミネコ達がミャーミャーと泣き叫び、雲のように群れをなして飛び交う。
 港と言うからに、停泊する船の数も海面付近に連なり、その屋根にもウミネコ達が大小重なって一休みするものも見えた。
 船着場周辺を少し歩くと、木材と布で作った簡易露天が人並みと一緒に連なっている。それぞれ活気ある声をあげ賑わいを見せていた。
 プレイヤーの武器や、鉄製の防具を作ったり修理したりする鍛冶屋。
 りんごなどの食材を広げる八百屋。
 布系の防具、服を置いていたり修繕している店など、様々な店が軒を並べていた。
 海に面したこの街は、色々な地へと船を介し旅立つことができ、瞬時に移動(船での移動は一瞬)したいプレイヤーには絶好の溜まり場になっており、ここをホームにして住み着くプレイヤーも多く、ゲーム内で最高の人気と活気のある街でもある。
 以前までは開発側も意図してなかったのか、狭い街ではあったが、プレイヤー達の要望とアップデートにより、以前の十倍ほどの面積となってしまった。
 その変貌は一種の都市となり、プレイヤー間では冒険者(プレイヤーの総称)の都となっている。

 露天通りを離れると丘になっており、そこは緑が生い茂、森林と一緒にプレイヤー達の家、プレイヤーハウスが連なっていた。
 プレイヤーはそこに仲間を連れ込み、クエストの作戦や、交流を深めたり、自分達のコスチュームコレクションを飾り付けたりと、それぞれの物語を閉じ込めた場所だ。
 そこを少し奥に進むと、『復活の神殿』と呼ばれる大聖堂が天を指すかのように建っていた。

 『帰還のラピス石』を使用して戻ってきた彼は、その聖堂の扉を開け、スキップ交じりの軽快な走りで飛び出した。
 『帰還のラピス石』で戻ってくる場所は、ホームに設定した街の『復活の神殿』と呼ばれる聖堂にワープする。
 ここ、『ガウルの港』の『復活の神殿』は、港とは正反対の丘、プレイヤーハウスの奥になっておりプレイヤーハウスが近いという点においてもプレイヤーに好まれ、人気の理由の一つでもある。
 彼もまたこの街にプレイヤーハウスを持っており、外套であるロングコートと、相棒でもあるレア大剣を家に置いて、すぐさま露天通りへと向かった。
 オートロック式で、扉を開けていない限りは他人も入れない仕組みになっており、チート並みであるあのレジェンド級大剣の保管場所として、あそこほどいい金庫はないだろう。
 高い崖を飛び降り、露天通りに着地すると数名の悲鳴があがった。

「ご、ごめんなさい……」

 謝りながら走り去る彼。
 少し大人気なかったと反省した。
 人ごみを縫うようにして走り、目的地に着いたようで歩みを緩める。
 露天とは名ばかりの、レンガで造られた店舗の裏に周り、そこにある扉を開け放って彼は叫んだ。

「シュウ! やっと嵐王竜の宝玉取ったよ!」

 熱した金属にハンマーを打ち付ける少年に、彼は近寄る。
 作業中であったシュウという少年は作業を止め、ため息一つついて振り返った。

「あのなあ、チーター。オレはいつまでお前の運の良さにすげー! ユキ! どうしたんだよ! すげー! って、幼児退行して言えばいいんだ? 素材持ってきて『氷覇王竜・逆震作って!』って言った数日後に宝玉って………」
「宝玉のドロップ率どんくらいだっけ?」
「〇.〇〇〇何パーとかそんなもんだぞ! ただでさえクエスト達成者が少ないって言うのに………こんなにあっさり出す奴がいると、運営も呆れてチーターだと疑われちまえ!」
「所詮確率だしね」
「お前が言うと、本当にチート使ってるとしか思えねんだよ! ユキ」

 ユキ。
 それが彼の名前であり、噂のラッキーボーイ。

 【絶氷】のユキ。

 この簡易炉に薪をくべ、生産職としてユキをアシストしているのが、リアルでも親友であり、幼馴染みでもあるシュウ。
 共に、この竜型のモンスターを倒して自由を求めるVRMMORPG、『ドラゴンスレイヤーズ』のプレイヤーである。

 早いもので、このゲームのクローズドβに応募して早一年が経過した。
 VRMMORPG、ヴァーチャルリアリティマッシブリーマルチプレイヤーオンラインRPG。簡単に言えばゲーム世界に行けるオンラインゲームだ。
 日々技術が進歩していく昨今のゲーム。
 気づけばVRMMOというジャンルを築いて、約6年の月日が経ち、色々と危ない事件を乗り越えて今に至る。
 従来のLギアと呼ばれたフルフェイス型のヘルメットが必要だった数年前とは代わり、今ではイクスフィアという冠状の輪っかを頭につけるだけでよくなった。
 最初に出回ったVRMMOは、通信速度とLギアの出力上どうしてもラグが発生してしまっていた。
 そのラグの所為で、VRMMOというジャンルはコンテンツやシステム的な制限が窮屈なものと定着しつつあった。
 しかし技術の進歩、イクスフィアという新ハードにより、その問題点も解消され、今では幅広い自由を持ったVRMMOが出回りだした。
 その中でも、今一番の話題作が、彼らがプレイしている『ドラゴンスレイヤーズ』だった。

 ちょうど一年前、そのクローズβが開始されるときのこと。
 当時でも既に噂が人を呼び、テストプレイの応募倍率が宝くじのそれに届きそうになっていたころ。
 シュウに急かされ、二人で応募した際だ。
 ユキは、運がいいのを通りこしてなぜか二つ当選券が届いた。ついでにシュウは落選して、キレ気味に泣いて喚いたとか。
 呆れたユキは、すぐさま運営に連絡してみたところ。
 話はスムーズに進み、向こうの不手際であるため、友人招待券として使って欲しいという結果を生んだ。
 その後シュウと一芝居を打って、シュウを弄んだの言うまでもない。

「お前の強運は知ってるけどさ………クローズドでレアドロ量産して市場崩壊、公式イベントでユニークアイテム総取り、その他あげればキリがない………」
「照れるからやめてよ」
「褒めてねえから! そして今度はなんだ? 全装備レアボーナス補正だぁ? お前はいったい何がしたいんだよ!」
「おかげさまで片手剣扱う予定が、大剣片手で持てるようになっちゃってさ―――」
「もういいよ………凡人()天才(お前)の差を思い知るから………」

 ユキとシュウ、二人の関係は長い。
 幼稚園から現在の高校二年までなので、今年で十四年目になる付き合いだ。
 何度シュウはユキの運の良さに肖り、甘い蜜を吸った。何度危険な場面を彼の幸運に助けられたか。
 思い出すだけでシュウは、人類皆不平等だと謡い。ユキを羨むことしかできなかった。

 しかしユキはそんなシュウが羨ましかった。
 小さなころより両親が家にいることが少なく、現在進行形で親と顔を合わせるのは月に一度や二度あるかないか。
 最近ではちょっとした一人暮らし気分になってきたが、昔の彼には牢獄とも思えた冷たい家だったと語る。
 たとえこの強運を持っていたとしても、家族という本来誰しも持っているモノ。それが欠けている自分にとって、それはとても憧れで、シュウが羨ましく思い、彼もまたシュウを疎ましく思っていたときもあった。
 シュウの家が目の前というのもあって、小さな頃よりシュウのアットホームな家に呼ばれたあと、暗い我が家を見つめ、我に返って何度涙を流したかわからなかった。

 オレはお前を助ける。だからお前もオレを助けろ。

 それは今でもユキの胸に残る幼馴染の言葉だった。

『オレはバカだからさ。ムズカかしい事はわかんねー。だったらさ、オレとお前のいいところをさぁ。助けあえばいんじゃねーのぉ?』

 今となっては七対三くらいでユキが助けることが多い。それにそんな昔話されても背中が痒いだけだったりする。
 なんで俺はあんな恥ずかしいことを言ってしまったんだろう。その話をシュウの前ですると、顔を真っ赤にしてハンマーを叩く。それも高速で。

 まぁシュウにとってそれは建前であり、彼を裏切ってしまった自分への贖罪なんだと割りきるしかなかった。
 幼かった彼の、か細いと分かっていた彼の支えを折ってしまった。そんな罪から出た言葉なのだから。

「んで? 作るのか?」
「うん………心臓が爆発しそうだけど」
「つか、その運があるんだから普通にしてるだけでもどっかからスカウトくるんじゃねぇーの?」
「う~ん………」

 何をそんなに悩むのかねえ。とシュウは炉に薪をくべながらため息をついた。
 この二人は何の話をしているかと言うと、街のあちらこちらに貼ってあるチラシの話になる。

『次回アップデートにて『歌スキル』登場!! 求む、歌姫!!』

 早い話このゲーム、『ドラゴンスレイヤーズ』の運営会社、LC社と芸能プロダクション、ワンダーランドとのタイアップ企画。
 今、巷で人気のVRMMO内で、ネットアイドルを発掘しデビューさせてしまおうという企画だ。

 ユキには夢がある。
 それは歌手だ。

 その夢は小さいころからのモノで、もちろんシュウはその事を知っているし応援もしている。
 ただそんな強運を持つユキにも、コンプレクスがあった。
 それは歌声だ。
 普通に話す分にはユキの声は中性的で、男の格好していればそこまで違和感はない。
 ただ歌うことになると話は別になる。
 ユキの歌声は完全に女のそれになってしまうのだ。

「……まだ、なのか?」
「……まあね」
「……そうか」

 それは二人や周りの友達も声変わりが起きはじめた小学生高学年の話。
 町内会のお祭りで、カラオケ大会が行われた。
 毎年知り合い達との楽しい盛り上がりを見せる町内会のお祭り。
 その場の勢いで当時の友達、四人でステージに立った。
 それまではよかったのだが、結果は悲惨なものだった。
 みんなが知っている曲を歌ったつもりが、リズム、音程が全員バラバラ。
 歌っている自分達でもこれはひどい。と思わずにはいられなかった。
 そんな中一人、女の子のような声で会場を沸かした者がいた。
 それが彼、ユキだった。
 ある意味拍手喝采で、その年のMVPとして祭り上げられた。

 大人達はユキをチヤホヤするも、やはりそれをよく思わない人がいるのも人間社会。
 すぐさま学校では馬鹿にされ、一緒に歌った他の三人でさえもユキのことを悪く言う始末だった。シュウもその一人だった。

 それからというもの、ユキは自分の声というものにコンプレクスと、軽い人間恐怖症を抱くようになってしまった。

 しかしそれでもユキは歌手を目指した。
 理由はシュウも知らない。
 コンプレックスであるのに、歌手を目指す。
 そのことに矛盾を感じざるを得ないが、本気でそれを目指すユキの姿と罪の意識からシュウは全力で応援する事を心に決めた。
 ユキはテレビの中、ステージに立って、大勢の観客の前で歌うことを夢見た。
 ユキは毎月親から渡される小遣いと言う名の生活費をやりくりし、音楽にお金と時間を費やした。
 楽器も触った方がいいと先生に言われ、ピアノやギターとかも始めた。

 そして結果、彼の歌声はコンプレックスを強めるものとなるとは夢にも思わなかった。
 声変わりを終えたはずなのに、彼の歌声は女性の歌声に、拍車がかかるものとなっていた。

 そこからまた彼は心を閉ざし始めたが、シュウの支えもあってユキは一歩踏み出そうとしていた。

「と、とりあえず装備作っとくからさ、キャラ変えてこいよ」
「………わかった」

 シュウの好意に気がついたユキは、落ちた表情を無理やり元に戻し、シュウの言うとおりにメニュー欄のキャラクター選択画面をタッチするのであった。

 さっきまでの、騒がしい喧騒は静まり返り、耳に聞こえてくるのはこの『ドラゴンスレイヤーズ』とはかけ離れたポップなBGMが鳴り響いた。
 確か今話題の歌姫「ミーシャ・ソーエン」の新曲だ。
 今度のイベントのタイアップとかで、彼女の新曲が流れているそうだ。
 そんなことはどうでもいいと、むしろこの画面になると毎日聞いていて耳タコなユキは、手馴れた手つきでさきほどまで自分の分身だった 『ユキLv99』 をスライドさせ、 『アリスLv1』 を表示させた。

 実をいうところ、このアリスというキャラは、ユキが一番最初に作ったキャラクターだったりする。
 大概のゲームではキャラクター名が重複するの防ぎ、有名なキャラクターの名前や、安直な名前はすぐに取られてしまう。

 しかしユキにはクローズドβ当選特典の正式版までキャラクター名引き継ぎのおかげでこの二つのキャラクターを作成することができたのであった。ついにで名前以外は何も引き継がれていない。
 そんな最初に作ったこのアリスという美少女アバター。いつ見ても惚れ惚れすると、アバター製作者である本人が絶賛するほどの美少女であった。
 ユキと同じ銀髪で、ふわっとウェーブのかかったロングヘアに、垂れ目で赤茶色の瞳。
 しっかりと女性という特徴は出ている体。
 そんなユキの趣味をこれでもか! と詰め込んだ自信作だ。

 しかし作ってみたものの、このキャラクターを選択しようとすると、昔のトラウマが脳裏を過り、決定を鈍らせた。
 数分悩んだ末、ユキは勇気を振り絞り『このキャラクターでプレイしますか? Yes/No』のYesを押すのであった。
 衝動に駆られて書いた話です。
 もしよろしければご意見、ご感想、ご評価頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
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