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仮眠転生 ~起きたら本気出す~

作者:天界


 ありのままに私に起こった事を話そう。何小難しい話じゃないさ。
 あぁそうだ……。少し時間がかかってしまうが大丈夫かい?
 そうかそうか。じゃぁ話そうか……。

 私の始まり……。それは……。


 しがない公務員だった私が目を覚ましたとき全てがぼやけ輪郭を掴むことすら難しい視界で覆われていた。
 周りから聞こえてくる嬉々として祝福するような暖かい言葉と空気。
 だが聞こえてくる言葉は理解できず、恐る恐る代わる代わる私を抱き上げる仕草は微笑ましいものがあった。


 そう……。私は抱かれていた。
 まさに幼子をあやすように愛しむように。


 最後の記憶は24歳の春から夏になる季節。
 私は仕事から帰り泥のように眠った。土日の休みにも関わらずついてしまったくせでいつもの時間に起きたのだが妙に腰が痛かった。
 スタンバイ状態のPCを起動し、いつものチャットに書き込みをしたあと仮眠を勧められたのでベッドに横になったはずだ。

 だが起きたらこの状況。
 理解は追いつかない。






  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 私が仮眠から目覚めたこの世界は魔法が存在するファンタジーな世界だった。
 生前の記憶ということになるんだろうか。とにかく私は24年分のこことは違う世界で生きた記憶を保持している。
 それは他人に……家族ですら知られることは危険が伴う。

 私は至って普通の商人の家に生まれ変わったようだ。
 いや4人目の子供である私――今生の名前はリリアック・リ・リリールが口減らしのために奴隷となる必要がない程度には裕福な商家だ。
 リが多いがこの国ではリは祝福を示す言葉なので多くても問題ない。むしろ喜ばれるほどだ。

 8年の月日を掛けて私はこの世界を学んだ。
 宗教色が強いこの国では生前の記憶を保持している所謂転生者は生前でいうところの魔女だ。
 見つかれば異端審問という名の拷問の後に火あぶりが待っている。

 それを言葉を喋れるようになる前に知ることができたのは幸運だろう。
 私は普通の子供として……いや少々頭のいい子供として……いやかなり頭のいい……わかったわかった。本当のことを言おう。
 父上に影から助言し、この小さな商家を王族御用達にまでのし上げたのは私だ。

 そして今私はある店舗で商いを行っている。
 まだ8歳だ。当然2番の兄が店主兼経理で色々と手伝ってくれている。
 兄はすでに23歳。結婚適齢期であるがまだまだ私のことが心配なようで3人の兄が血涙を流して頼み込むので1番仲がよかった彼についてきてもらった。
 他の2人も実は変装して3日に1度は店にやってきていたりするがな。


 さて私が何の商いを始めたかというと、所謂ファストフードだ。
 お手軽に庶民価格でそこそこ美味しい物を。
 これがコンセプトだ。

 ぶっちゃけ父を通して金は唸るほど手に入っていた。
 王族御用達のような庶民からは天上のような存在と化してしまったこの家に飽きていたのもある。
 そこでそこそこ善政を敷いていた王に許可を貰い、庶民からも親しみある商いを目指してこの商いを始めたのだ。

 販売している物はこの世界には存在しなかったハンバーガーだ。
 この世界でのパンは黒パンが基本であり、固い、まずい、味がしない、の3拍子が揃っている。
 当然そんなもの使えるわけがない。
 なのでまずは白パンからはじめハンバーガーのパンズとして十分使える物を作成した。
 無論この技術だけで巨万の富を得られるレベルだったが金は今更だ。

 販売されたハンバーガー1号は売れに売れた。
 王族御用達というブランドと庶民でも簡単に手が届く価格。
 そして何よりうまかった。

 パンズはふっくら柔らかく。ソレ単体で食べても十分に至福を味わえる。
 挟んである野菜は瑞々しく。こちらは市場を探せば見つかるがそれでもなかなか手に入らない品質。専属契約した農家に作らせているので当然だ。
 本命は多種多用な肉を混ぜ合わせたパテ。噛み締めれば肉汁が溢れ、パンズと野菜と一緒に味わうことを前提として作られた濃厚且つ複雑な味わい溢れるその様はファストフードといえば手軽な値段で素早く食べられるといった私の生前の常識にあった物とは一線を画すものであった。

 1号から始まりたくさんの種類のハンバーガーを作成し、販売。
 真似をする店も数多く出たが、まずパンズが問題となり野菜の価格やパテの作成など費用がかかりすぎるため価格をどうしても下げられず早々に撤退していった。
 それでもめげずに残っていた店は価格を下げずにやっていたようだが、全ての品質において劣っているため客足はさっぱりで後を追うように撤退していった。

 農家との専属契約やその他の製法は販売開始前に比較的安価で作成可能にしてあったので薄利多売の精神で赤字になることは決してなかった。
 それどころか2号店3号店を続々と出店。
 最終的に王都に18店舗構えた。

 まぁ最も繁盛していたのは私がいる本店だが。


 4年で王都にこの店ありというほどに名を轟かせた私の店だが、半年ほど前からあるお客さんが訪れるようになっている。
 彼女は生前の世界での人間――ヒューマンしかいないこの国ではとても目立つ存在だ。
 だからだろう目深に被ったフードでその存在を主張してしまうものを毎回隠して訪れている。

 最近販売を始めたフィッシュフィッシュという魚をパテにしたハンバーガーを大量購入していく。
 王都は大陸中央に位置する為、海の幸はほとんど手に入らない。
 そこを冷凍や締め方を工夫して輸送できるようにしたため現在王都で手に入る海の幸の種類はかなり豊富だ。
 だがその元締めをしている私はさっそくハンバーガーのパテとして活用している。

 その結果としてこの猫の耳を持つ人種族――ワーキャットの少女はフィッシュフィッシュを気に入り毎回大量に購入していってくれる。
 だが知っている。
 彼女がこの宗教色強い国と冷戦中の猫の国のお姫様だと。

 彼女は変装しているがそれに付き従う老年の渋い執事さんはそのまんまだ。
 帽子を被っているのでぎりぎり耳は見えないから問題ないが、そんまんますぎて執事すぎる。

 兄が気になり調べた結果王族御用達の力は並ではなく、あっさりとその身元が判明。
 ちょっとした騒ぎになりかけたがなんとか沈静化。
 お姫様は今日もフィッシュフィッシュを大人買いしていく。


 それから更に1年。
 王が崩御した。……だが次王がまずかった。
 善政を敷いていた前王とは異なり、暴君が誕生したのだ。
 事前に察知していた我が家はワーキャットのお姫様達と共に国を出奔。
 展開していた全ての店舗はもぬけの殻となり、暴君の手先となりさがった国軍が乗り込んできた時には何もなかっただろう。
 店員はそれぞれ別ルートでワーキャットの国に入り無事合流。

 ちなみになぜうちが狙われたか。
 当然だ。王族御用達となり力を蓄え大商家となり、その上ハンバーガー店舗でそれを大幅に底上げし、民衆の支持も得ていた。
 血筋さえ問題なければ王にすらなれていたほどだ。
 だから芽は早いうちにと――すでに咲き誇りまくっている段階だが――潰そうと暴君が動いたというわけだ。

 ワーキャットのお姫様との交流のおかげで亡命することに成功し、すぐさま始まったワーキャットでの出店。
 ここでも大繁盛し、お姫様から頂いた初期投資はあっさり2ヶ月で返済し終わった。
 半年経たないうちに基盤は完成。2号店も展開するほどになった。


 だが問題は残っている。
 暴君だ。

 ヤツは冷戦状態だった猫の国に再度宣戦布告。
 だがそうなることを予想していた私は亡命のお礼として密かに開発していた魔道技術で鉄壁の防衛ラインを形成。

 打って出ないことを条件とした完全な守りは広大な猫の国全てを覆い尽くし守った。
 戦争再開から3ヶ月で鉄壁の守りに業を煮やした暴君は標的を変更。だがそれが仇となった。

 標的が違う国になった途端猫の国の防壁は解かれ挟み込むように2国から一気に攻められた暴君はあっけなく逃げ出した。
 こうして平和になった祖国でも店舗を再開し、どんどん大きくなっていくハンバーガー商業。

 本店に戻り新しい肉を使わないハンバーガーを販売したことが契機だった。
 そこには変装したエルフの女王が……。


 私の激動の第2の人生はまだまだ終わりそうにない。


 え? 続きは?
 そうだな……。まずはこの新作ハンバーガーを食べてからにしようか。

 ハハッ。美味しいだろう?
 なんせ私のハンバーガーはいつでも美味しいからね。

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