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*第22話*

和が泣いたのは何年ぶりだろうか。

お母さんが泣くなって以来、和は何があっても泣いた事はなかった。

和は辛くても、悲しくても無理をして笑っているような子だった。

少し酷いけど、今、和が悲しみや憎しみの涙を流している事に、少し安心しているのだ。


玲がジュースを買ってくるといって病室を出た後。


「落ち着いた?」

「・・・うん」

「よかった。和、久しぶりに泣いたね?」

「・・・泣かないって決めてたのになぁ・・・」

「そんなの決めなくていいのに。泣きたいときは泣いたらいいんだよ?」

「でもそれじゃ、なんだか恥ずかしいでしょ・・・?」

俯いていた顔を上げて言う和。私は和の茶色の髪の撫ぜながら

「ううん。泣く事は悪い事じゃないよ?人はね憎しみや悲しみに触れても

必然的に涙が出るけどね、嬉しい事や幸せな事に触れても自然に

あったかい涙が出るの。だから、泣く事は悪い事じゃないよ」

「そ、っか・・・・それじゃぁさっきのは、悲しみ、なのかな」

「もしかすると、お父さんに会えたことが嬉しかったのかもしれないよ?」

「どうだろ・・・わかんないよ」

「・・・それもそうだね。深く考えないでおこっか?」

「うん、そうする」

パッと少しひさしぶりの和の笑顔に私はほっとした。


次は、玲に、だよね・・・?


話が終わった直後、玲は病室に戻ってきた。

「お待たせ、オレンジジュースと水でよかった?」

「玲兄ちゃんありがとう」

「玲、ありがとう。ごめんね」

「いいのいいの」

玲が病室の椅子に座って、オレンジジュースを開ける。

病室は空調が聞いていて暑くもなく寒くもないけど

やっぱり喉は渇くものだった。

私も水をあけて、コクコクと喉に通す。

「ハァ...久しぶりのお水だから美味しい」

笑顔で言う私。けどやっぱり玲には見破られる。

「お父さんの事、気にしてる?」

「・・・あのね、玲。さっきも話したように、私のお父さんは酷い人なの。

倒れた理由は、大声で叫んじゃって・・・」

正直もう何を言いたいのか分からない。

「えっと・・・だから、その、気、にしないでね?あれ、えっと・・・」

頭の中がこんがらがっていると、玲と和がクスクスと笑い出した。

「え?!な、なんで笑うの?!私おかしなことしちゃった?!」

「い、いや・・・あまりにも唯が可愛くて・・・」

と言いながらも笑っている玲。

「お姉ちゃん、大丈夫・・・?」

と言いながらも笑っている和。

「んも・・・なんで笑うのかなぁ・・・」

拗ねて壁を向いて布団にもぐったそのとき。

病室のドアが開く音がした。


・・・そして、聞こえた、嫌味な私の嫌いな靴音。


カツカツとベットによってきくるその嫌味な人物。


「・・・美唯、大丈夫か?」


案の定、父親だった。この靴音は小さい頃から大嫌いだった。


「なにしにきたの・・・かえってよ・・・吐き気がするの・・・近寄らないで・・・」

「美唯、本当にすまなかった・・・私にも非があった・・・」

「私にもじゃなくて、私にしか・・・の間違いでしょう?」

「そうか・・・それでいい、だから、許してくれ・・・」

またベットに近づく父に吐き気を覚える。

「近寄らないでって・・・言ってるでしょ・・・」

「美唯・・・!」

「・・・次は、どこまで記憶が抜けるかな・・・?」

少しニヤッとしながら言う私に和が

「お姉ちゃん!」

と私の体を揺さぶった。


私達は、5年前にも、こんな感じの状況に陥った。

・・・そして、耐えれなくなった私は、一部の記憶を落とした。

何処を落としたか自分でもわからない。

けれど、専属の医師(従兄弟)、海莉かいり先生が言うにはそうらしかった。

「いつかは戻るよ」とは言われたけど、なくした部分が分からないんじゃどうしようもない。

・・・そして、和は私がなくした記憶を知っているかのように

こういう状況を怖がっている。今、その現状にあって、和が私を揺さぶる。


「・・・・嘘だよ。大丈夫だよ、和。和が悲しむ事、しないからね」

壁を向いて言うようなことじゃないけど和を安心させるために言う。

和は少し黙ってから、見えないけど、多分、父の方を向いて言い放った。


「これ以上俺たちにかかわらないでください。あなたが俺たちの父親だかなんだか

知りませんが、俺たちにとっては何の関係もない迷惑な人です。

・・・これ以上、姉を悲しませるような事をするようなら、俺達は

一生あなたを恨み続けます。・・・もしかすると、あなたをこの世から追放してしまうかも

しれませんね」

和はニヤッ・・・と笑ったのか、少し鼻で笑ってから、ガツッとなにかにぶつかるようにしてから


「一生俺らに近寄るんじゃねぇ。消えろ、おっさん。」


そう言い放って、がさっと音を立てて、椅子に座った。

私は驚いて、みんながいる方向を向くと、私以外にも驚いている人は約2人。

「和・・・お前は、そんな子になってしまったのか・・・!」

「はは・・・そんな子?俺がどんな子だって言うの?あんた、俺と1年も一緒にいた事ないでしょ?

なのに、何が分かるのかな?言ってごらんよ、おっさん。」

私でも見たことのない、ドス黒いオーラを放った和が、笑いながら言う。

「そ、それはそうだが、お前は正真正銘、私の子供だ。そのぐらいの事・・・」

「俺はお前の子供なんて思ってない。俺の親は姉ちゃんだけだ。俺は友達いないし

いじめられてばっかりだけど、玲兄ちゃんだって姉ちゃんだって俺を助けてくれる。

おっさんが俺のなんだろうと、関係ないんだ。俺はこの二人がいればいいんだよ!

・・・でて、いけ!一生、、俺、、らの目の前に、、、現れるな!・・・きえ...」

「和羽、ストップ。お疲れ様」

和の頭をポンポンと軽くたたいて、叫ぶ和を止める玲。

・・・和は涙を流して父親に叫んでいたのだ。

「ひくっ・・・ひくっ・・・」

「おいで、和」

「うう・・・・ひくっ・・・」

和を抱きしめて、囁く。


『守ってくれてありがとう』


あなたがこんなに強い子だ何て私、思わなかったよ。

ありがとう、大好きよ、和。

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