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イリーガル・コール  作者: 山吹
Ver1.5
13/37

動画での攻防的な、

一部の感想を削除させて頂きました。詳しくは活動報告にて確認をお願いします。


その動画は前触れも無く運営により上げられていた。

決して珍しいことではない、多くのユーザーがプレイの様子を動画として公式HP(ホームページ)に上げられている。しかしそれは例外無くではない、イリーガル・コール・オンラインのアカウントを取得する時に有る『プレイの様子を運営の判断で公開することに同意する』の選択肢に、同意のチェックを入れた者だけがその対象となる。


多くの者は最初にこのチェックを入れないでゲームを始める。しかし自由なプレイを売りにしているイリーガル・コールでは、ただ狩りをするだけ、ただ街を歩いているだけでも思いもかけない事が起こったりする。

ある時見つけた自分のオリジナルプレイ、思いもかけなかった場所で見つけた絶景、思わず笑い転げるような珍事件。そんな刹那な思い出を、運営は数多く見つけてきた。

自分では記録できなかった思い出をシステム側からの描写等を使って記録する為、イリーガル・コールを続けるようになった多くのユーザーが今ではアルバム代わりに使っている。


そしてたった今、主流攻略法になりつつある攻城兵器を使わないで巨大魔獣を倒した『アーカイヴミネルヴァ』のメンバーである、自称広報担当の句朗斗がプレイ動画が上がっているか、または自分でサッサと上げちゃおうかなぁと、巨大魔獣のドロップアイテムそっちのけで動画掲示板へとアクセスをしていた。


「さてっと、サクッと分配しちゃいますかね」

「俺達の取り分は後でいい、先にレアとニャンデストさんの分を選んでもらおう」


ユカリアスとコーネリアスの会話に、まぁ当然だなとオスマとテンテアが同意する。こういう時いつも『裏で作業中(お楽しみ中)』の句朗斗はスルーされるのが恒例になっている。


「にゃにゃ、そんなの悪いにゃ。私逃げてただけだしにゃ」

「あ~ニャンちゃんニャンちゃん、遠慮しても無駄だよ。半強制的に欲しいの選ぶ事になるし、選ばないで帰ると後で郵送で適したもの送られてくるし」


かえって郵送費用分損させるし、自分で選ぶより多く送られてくるから素直に選んじゃった方が精神的に楽なのよ・・・・。と何処か遠い目でニャンデストの肩に手を置くフーレンスジルコニアス。

チラリと視線を送れば、ニコリと微笑む『アーカイヴミネルヴァ』のメンバー達。カクリと項垂れるニャンデストにうんうんと頷くフーレンスジルコニアスであった。


・剛毛なりしカツラ

 鉄壁の意思にて全ての視線をスルーする。

 防御力は心が強くなる。


・剛毛なりし胸毛

 鉄壁のダンディズムにて男力がUPする。

 防御力はギャランドゥ。


・剛毛なりし口髭

 鉄壁のジェントルメンにて紳士力がUPする。

 防御力はマンダム。


「嫌がらせにゃ!こいつ等絶対に嫌がらせしてるにゃ!」


何処か能面のような笑顔を貼り付けたユカリアスとテンテアが、ドロップ品を手にニャンデストに迫る。

完全にネタ装備、しかも男性用のアイテムを押し付けられそうになって半泣きになって後ずさるニャンデストの前に、庇うような形でネコ精霊が立ちはだかる。虚を付かれた様なユカリアスとテンテア、その手の中からサッとネコ精霊は1つのアイテムを取るとペタリと自分の口の上に付けてはしゃぎだす。


「ニャ~ニャニャ!ニャ~ニャ!」

「よく分からんが可愛いから許す」

「こいつ面白いな……」

「なんかどんどん要らない知恵をつけていくにゃ!」

「何この可愛い物体」


口髭をつけてはしゃぐネコ耳幼女という、かなりマニアックな光景に女性陣が盛り上がる横で、消去法的にカツラと胸毛がフーレンスジルコニアスとニャンデストに郵送されたのを知っているのは、能面笑顔を浮かべた男性2人だけであった。




カランと乾いた音に気が付いたのは、ネコ精霊で盛り上がる喧騒から離れていた、コーネリアスとオスマが最初であった。裏での作業(動画掲示板閲覧)で意識の大半をそちらに移していた句朗斗の手の中から、愛用の短剣が取り落とされていた。

有り得ないと繰り返しながら眉間に皺を寄せ、短剣を落とした事も気づかずに顎に手をやり尚もブツブツと呟き続ける。そんな句朗斗の様子に流石に女性陣も気づき始め、どうたの?と心配しながら近寄ってきていた。


「システム側の動画UPを待つか、さっきの戦闘の動画を編集して上げようか、撮った動画のチェックしつつ動画掲示板を見てたんだけど、ボク達の少し前に此処の巨大魔獣と戦ってた人の動画が上がってたんだ」

「あぁ、じゃぁ攻城兵器での討伐も成功してたんだね」

「まぁ俺達の戦法はかなり特殊だったからな」

「いや、そうじゃないよ。どうやら最初の成功例はボク達みたいだけど、上がってた動画はボク達前線組から見たらトンデモ無いものだよ」


特にボクから見たら有り得ない光景だったよと、いつもは笑みの形に細められている線の様な目から、鋭い印象を与えながら自身の取り落としていた短剣を見つめる。

只ならぬ雰囲気に一同は視線を合わせた後、コクリと頷きそろって動画掲示板の閲覧を開始した。



     20〇〇年 5月26日 19:25


 タイトル 新MAPでの独創的攻略風景 NO8


この動画は運営によりシステム側からの撮影で記録された物です。


短い説明文の後で再生され始めた風景は、今自分達がいる場所と全く同じどこか魔法文明と科学文明が融合したような、大理石のような壁や天井の中を光が流れる幻想的な風景。

巨大な体躯を収めても尚余裕を見せる大きな部屋の中に、艶を帯びた黒い毛で全身を包む魔獣が背を向けて鎮座している。

その部屋に不釣合いに思えるほどの人間サイズの入り口から、1人の男が進み行く。ゆっくりと靴音を響かせながら気負いのない姿は、全身を黒い服装で統一していた。

特に特徴の無い額にかかる程度の長さの黒髪、特に装飾も無い少し金属プレートが付いただけの地味な黒いコート、顔にはいつかのイベントで配布された仮面の黒バージョンが付けられてその表情を窺い知ることはできなかった。

彼の中で唯一目を引く所といえば、その腰の後ろに装備された2本の長剣だけであった。交差するように腰に帯びた長剣は、それ自体も黒に染められていたが鞘と柄に走った赤いラインが異様に印象にこびり付いた。


侵入者に気づいた魔獣が振り返る、たった1人でノコノコと現れたその人物を嘲笑うように、大きく振りかぶった腕を振り下ろす。男は剣の柄を両の手で掴みスラリと抜き放つ、その刀身にも赤いラインが刻まれ黒と赤の残光を残し、迫る魔獣の腕に振られる。

刀身の上を滑らせるように巨腕の軌道を反らせる、そのまま身体をクルリと回転させ二刀でもって斬りかかるが剛毛によって防がれる。しかしそれも予想していたのか、そのまま剣を支えに腕の上へと舞い上がると、そのまま腕を駆け上がっていく。

腕に付いた蟻を潰すように、反対の手で男を潰そうとする魔獣だったが、逆にその手にヒラリと乗り移りまた上へと登っていく。両の手の剣を逆手に持ち替え腕に付きたてる、縮地と小さく呟くと剣を持つ腕の力も加え男が更に加速して一気に頭まで登りつめて行く。


唯一毛の無い犀の様な頭まで登りつめた男は、その勢いのまま剣による猛攻を開始した。雷光のようなその攻撃速度は句朗斗と比べても遜色の無いほどで、短剣よりもより攻撃力の高い長剣での攻撃もあり瞬く間に魔獣のHP(ヒットポイント)を減らして行く。振り払うような腕を回避しつつ、何度目かの猛攻を繰り返し魔獣の残りHP(ヒットポイント)があと3割程となり頭上にスタンマーク(気絶でピヨピヨ)が現れた時、男が剣を今までに無い姿勢で構えた。

右の剣を肩に担ぐようにし、左の剣を右腕と交差させるように構える。


「秘剣、双龍牙s…って、おい!ちょっ!?」


ノリノリで技名を呟きつつ最期のトドメに入っていた男だったが、気絶したことで転倒も併発した魔獣の動きに対応できず、魔獣に押し潰されるように地面へと倒れこんでいった。

ドオォォぷちっォォォォン、と轟音の中にもの悲しい音をさせながら魔獣が倒れこむ、立ち込める砂煙が収まる頃、魔獣がムクリと起き上がると元居た場所に戻り大人しく座り込む。

初期化してHP(ヒットポイント)が回復した魔獣の背中で、パラパラと舞うクリスタルの破片(死亡エフェクトの残骸)が空しく風に消えていった。




動画を見終えた『アーカイヴミネルヴァ』のメンバーは黙り込む、数々の修羅場を経験してきた彼等からすれば、今見た動画の戦闘方法がトンデモ無い事がわかる。長剣二刀も見たことが無いが、敵の腕を駆け上がるなんてどれだけのプレイヤースキルがいることか。

回避に自信がある句朗斗とオスマでさえ、避けきる自信はあっても腕を駆け上がりきる自信は今は無い、あくまで今は(・・)だが。

そしてソロで挑んだという事は、ここまでもソロで到達したという事でもある。それだけでも彼の戦闘力を推して計るべきだろう。


「またトンデモないのが現れたね」

「以前に話題になったのは半年前の飛壱とびいちだったか?」

「また前線組ギルドの争奪戦(勧誘合戦)がはじまりそうだな」

「ボクとしては二刀の新境地の可能性を見た気分だよ」

「あんな動きされたらヒールしにくいから、ウチにはいらねぇ」


各々の感想を述べつつ『アーカイヴミネルヴァ』のメンバーは視線を横へと移す。

凄かったにゃぁと言いつつ、ネコ精霊と遊ぶニャンデストをそろってスルーして視線はフーレンスジルコニアスを捕らえる。

βテスト期間が終了し正式サービスが始まると共に実装されたギルド機能、乱立したギルド黎明期が終わった頃、実力者達が集った前線組の雛形になったギルド達が争奪戦を繰り広げた人材、それが初代話題の人物にして現在進行形で話題提供中のフーレンスジルコニアスだった。


正式サービスではじまった課金での容姿変更ラッシュ、数万、数十万もの課金をする者も現れ一気にビジュアル面での競争が激化した時期でもあった。

自然と開かれたミス・イリーガルコンテスト、ランクインする美貌のキャラ達は高額課金者であるのに対し第3位にランクインしたのは唯一の無課金者のフーレンスジルコニアス。極一部で認知されていただけだった彼女は一気に名が知れ渡り、話題性とその特異なキャラからTHEレアという二つ名まで拝命することになった。

そんな彼女が今もってどこのギルドにも属していない理由、その理由を知るものは以外と少ないのだが誰が勧誘しても良い返事が返ってこないことから、今は彼女を勧誘する者は殆ど居ない。


今度の新たなる話題性のある人物の登場で、フーレンスジルコニアスの戦闘面での(・・・・・)やる気を刺激してくれるのではと、淡い期待をしつつ見つめていると顎に手をやり考え込んでいたフーレンスジルコニアスがフフフと笑いだす。


「良いわ!この人とっても良い!フフフフ……、このままこの人が目立ってくれれば、何故か集まる私への視線が減るはず!そうよ、そもそも私が目立つってこと自体が変だったのよ。やっと私に自由が訪れるんだわ!」


フリーダームと叫びながら笑顔で喜ぶフーレンスジルコニアス、ルンルンとスキップしながら巨大魔獣を倒した事で開放された次の部屋への扉へと進むと、ウエルカム新世界と扉を開いた。



『フーレンスジルコニアスにより、新MAP最下層の神の間への扉が開放されました。これにより新システムが実装されることになりました。実装スケジュールは後日公式HP(ホームページ)によりお知らせします』



ポーンというシステム音と共に全体告知が放送される。扉を開けたままで固まっていたフーレンスジルコニアスがOrz(定番ポーズ)で崩れ落ちる。

狙ってやってるんじゃないかと思いたくなるタイミングで、墓穴を掘り続けるフーレンスジルコニアスだがサカサカとハイハイ状態でネコ精霊に近寄りアウアウ泣く姿に、あぁフーレンスジルコニアスだなぁとなんとなく納得する『アーカイヴミネルヴァ』とニャンデストであった。




結局、フリーダム新世界と扉を開ける姿の動画と、四十朗によるアンケートが上がった所為で、謎の黒剣士の動画はそれから然程再生数は伸びず、フーレンスジルコニアスの思惑は自らの手によって摘み取られたのであった。






あ、あれ?この話でネコ精霊の名前付けるはずだったのに…。

という訳で次話でネコ精霊に銘銘します、誰が付けるかわかるかなぁ?


途中で保存した分のルビ振りが変に保存されているようで、一部ルビがおかしくなってます。修正はしましたがまだ残ってるかも;;

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