デカイからってなめんなよ?的な、
また感想のご意見からセリフ頂きましたw
8/22 解り難いと指摘があった箇所を一部加筆しました。ストーリー的な変更点などはありません。
銃職人工房、建物の大きさから見るとその工房スペースは驚くほど狭い。
簡素な机と椅子が4つ壁際に設置され、メンテナンスや改造部品などはそこで作業をすれば多少作業効率が良くなる程度の差でしかない。残されたスペースに旋盤やらガンドリルマシンなどが押し込むように配置されているが、銃職人スキルのランクが足りないのか現状では作業には関係していない。
では残りのスペースが何なのか、それは喫茶スペースとして作られていた。
むしろ喫茶店の中に銃職人工房が間借りしてると言ってもいい程に、広々とした空間を使っている。観葉植物が置かれ、お洒落な小物がさり気無く配置されている店内で、不釣合いな鎧姿や武器を持つ『アーカイヴミネルヴァ』のメンバーが当然のように寛ぎながら会議をしていた。
「んじゃ、あの毛むくじゃらの対策会議を始めますかね」
「真正面からじゃ情報通りまともにダメージが通らなかったねぇ」
「やっぱり毛の無い頭を狙うしかねぇなぁ」
「しかし、あの巨体だからな。俺のブレスでも有効射程外だ」
う~む、と悩むユカリアス、句朗斗、オスマ、コーネリアスの横で1人テンテアだけが話しの流れが分からないと顔を顰めていた。
「あんたら何言ってんだ? 対策も何も当初の予定通り、1回アタックしてダメだったら攻城兵器を使う方法にするんじゃなかったのか?」
「あぁ、あれ却下」
サクッとユカリアスに流され、他のメンバーも特に異論を言うでもなく、案を出してはダメ出しを繰り返していく。新MAPの巨大剛毛魔獣に普通の攻撃が通らない事は既に攻略掲示板に記載されており、他の前線組によって今まで使い道が無かった、攻城兵器の投石器でダメージが与えられる事も確認されていた。
それでも、何事も自分で確認をしないと済まないユカリアスの性格から、1回だけアタックして納得してから改めて攻城兵器で攻略しようと決めていた……はずだったのだが。
どうなってるんだ?と1人首を傾げていたテンテアに、お待たせしました~と言いつつフーレンスジルコニアスがアイスティーを運んでくる。馴れた様子で他のメンバーにも珈琲やらジンジャーエールやらと、各自の注文にそったメニューを置いていく。
「ご注文は以上でしょうか? ではごゆっくり御寛ぎくださいませ~」
某ファミレスのウェイトレスを髣髴とさせる接客を笑顔でこなし、カウンターの中に戻った所で手に持っていた銀のお盆を床に叩きつけるフーレンスジルコニアス。グワラングワランと騒音を上げながらお盆が転がる中、ダンダンと床を足で踏みつけて地団駄を踏んでいた。
ニコニコとその光景を見つめる句朗斗と、あのよく分からない男とのやり取りを撮った動画を流さないかわりに、ウェイトレスで接客するという条件を飲んだフーレンスジルコニアスが、子牛が運ばれていく歌を口ずさみながら白く燃え尽きていた。
「お~ぃ、そこのおもろい娘、アンタもこっち来るのよ。攻略メンバーに入ってるんだから」
「………はっ、私も入ってるの? てかおもろい言うな!」
文句を言いつつもカウンターの中からトコトコと歩いて来てテーブルへとつく、手には1600茶などという怪しげな飲み物を手にしていたが、そこはスルーをしておく。
「私が入っても正直戦力になれるとは思えないけど?」
「純火力としてはね、けどガンナーなんて職はレア子だけだからね。こういう場合は戦略の幅にこそ価値があるもんさ」
「レアちゃんの回避能力なら、多少上の狩場でもボク達が守らなくても切り抜けてくれるしね」
「正直今のままだと煮詰まっていてな。違う視点からの攻略法を聞いてみたいんだ」
そういうもんなのかと、なんとなく納得したフーレンスジルコニアスが、怪しげなお茶を飲みながら新MAPについて説明を受けていく。新MAPの進行は無限回廊の攻略とは違い、各PT毎にクエストとして個別にMAPが割り当てられるMO方式になっており、何度でもクエストの再受注でチャレンジできる仕様になっている。そして最深部と思われる階層まで攻略が進んでおり、最終ボスであろう巨大魔獣を残すだけになっているらしい。そして説明された情報をまとめると以下のようになる。
・巨大魔獣の剛毛は物理と魔法、両方を無効化し毛の生えていない頭部しかダメージが通らない
・巨大である為、遠距離系の攻撃も頭部には有効射程距離外で、ダメージ量が微々たる物である
・現状では攻城兵器である投石器でしか、有効的なダメージを与えたという情報しかない
・投石器はアイテムインベトリには収納できず、最深部まで運ぶ際に敵から攻撃を受ける
・運搬には1機につき2名必要で最大8人PTでも4機までしか運搬はできない
・前線組のフルPTでも最大2機まで無事に運搬できたのが最高である
・投石器2機では巨大魔獣のHPを後3割までしか減らせない
・まぁぶっちゃけ、自分達は投石器を使う気は無い、フハハハハ!
「あれだけアタシらを小馬鹿にしてくれたんだ、投石器なんかで倒したって面白くも無い。それに……」
「それになにさ?」
途中まで話して言い淀むユカリアスにテンテアが詰め寄るが、う~とかあ~とか言いながら席を立つと、兎に角!『アーカイヴミネルヴァ』に不可能は無いのだフ~ハハハハハ、と言いつつ扉を開けて出て行ったのだった。
「なんだい、あれ?」
「余程悔しかったらしいよ?」
「お前が死に戻りした後、単騎で突っ込もうとしてたしなぁ」
「手も足もでないまま、テンテアだけ犠牲になったからな。守れなかったのが嫌だったんだろ」
イリーガル・コール・オンラインには明確なタゲ取り職は無い、盾で押し止めたり、斧で圧し戻したり、弓で気を引いたり、剣で受け流したり、魔法で縫い付けたりと各職が特色を生かしていかに敵をコントロールするかにかかっている。しかし、神聖魔法を使う回復職にはその術が無い、あるのは唯一予めマークした地点へと短距離瞬間移動をすることでの回避だけであった。
その為、火力職にとってはいかに回復職を守るかが命題にもなっており、中でも盾を持つ者と斧を持つ者にはその特色からか、特にその意識を強く持つ者が多く見られる。
まったく、アイツに同情されるなんて世も末だねとか、たかが実験的な戦闘で死んだ位で大袈裟なんだよとか、ブチブチと文句を言いつつも何処か嬉しそうなテンテアや、ユカリアスの気持ちを酌んで巨大魔獣の討伐方法を黙って受け入れる『アーカイヴミネルヴァ』のメンバー達。
どこか眩しい物を見るように、目を細めてその光景を見ていたフーレンスジルコニアスがポンっと手を叩きながら、良い事思いついたとばかりに提案した案に一同はサムズアップで賛成したのだった。
「なんで私まで此処にいるにゃ?」
「もう最深部まで来たんだから諦めなよ」
うにゃ~と言いながら座り込むニャンデストの肩をポンポンと叩きながら、フーレンスジルコニアスが今日何度目かの慰めを言いつつ、目の前の巨大魔獣を見上げる。
「ここから見ててもデッカイねぇ~」
「無限回廊のボスでもココまでデカイ奴は初めてだね」
「……それを私に1人で相手しろとか、お前達は鬼にゃ!」
「レアちゃんの仕込みが終るまで、レアちゃんに向いたアイツの注意を引き付けて逃げるだけじゃないか」
「十分おっかないにゃぁ~」
「ウニャニャ!」
常時召喚状態のネコ精霊がビシっと巨大魔獣を指差す、ガーンと後ろに文字が見えそうな顔のニャンデストだったが、わかったにゃ……と巨大ネコじゃらしを肩に担ぎながらトボトボと歩き出す。
新MAPのクエストをサクサクと消化し、半拉致状態で連れてきたニャンデストを加えた『アーカイヴミネルヴァ』のメンバー5人とフーレンスジルコニアス達が、今まさに巨大な魔獣が待ち構える部屋へとその1歩を踏み出した。
「しかし、その後彼らを見たものはいないのだった………~完~ にゃ」
「不吉な事言わないの!行くよ」
『アーカイヴミネルバ』の5人を入り口に残したまま、フーレンスジルコニアスとニャンデストが左右に展開していく。部屋への侵入で動き出した巨大魔獣が最初に意識を向けたのは、巨大ネコじゃらしを持つニャンデスト。じゃれつくようにその大きな腕がネコじゃらしに向かって振り下ろされ、紙一重でどうにか避けたニャンデストが涙の線を引きつつ走り回る。
ギリギリまで背後から近づいたフーレンスジルコニアスが、魔獣の後頭部へ向けて呪印銃を2連射すると有効射程距離を越えている為、大きく威力を減算された魔弾がプスプスっと軽い音を立てて犀に似た頭部へと突き刺さるがたいしたダメージになってるようには見えなかった。
それでも、斧並みのノックバック効果を持つ呪印銃だけあって、巨大魔獣の意識はニャンデストからフーレンスジルコニアスへと切り替わる。
「プスプスとか、悲しくなる効果音なのです……」
「そんな余裕で避けるレアちゃんが憎いにゃ!」
振り向き様に放たれた巨大魔獣の裏拳気味の腕をヒョイっと避け、叩きつける様な拳をヒョヒョイっと避けるフーレンスジルコニアスにニャンデストが恨み言を言いつつも、魔獣の尻尾に向けてネコじゃらしをペシペシペシペシと叩きつける。
クルッと振り向いた巨大魔獣は、意識をニャンデストのネコじゃらしへと移しじゃれつくように腕を振る。そしてそれを紙一重で避けては逃げるニャンデスト、追う巨大魔獣、その尻尾にじゃれつくネコ精霊。そのネコ精霊に抱きつきたいと思いつつも、再度巨大魔獣の後頭部へと魔弾を2連射で打ち込み、更にもう1発放ちながらその反動を利用して距離を取る。
振り返る巨大魔獣、待ってましたと巨大魔獣とフーレンスジルコニアスの間に割り込む『アーカイヴミネルヴァ』の5人、仕込みは終ったと微笑むフーレンスジルコニアス、役目は終わったと隠れるニャンデスト、夢中で尻尾に飛びつくネコ精霊。
弾倉を装填しなおし、ゆっくりと呪印銃を向けるフーレンスジルコニアス。
「回復職の力、舐めんなよ?」
悪戯が成功した子供のように無邪気に笑いつつ、フーレンスジルコニアスは『アーカイヴミネルヴァ』の5人の背中に向かって楽しそうに舞いながら、その魔弾を解き放った。
・短距離瞬間移動(神聖魔法)
短い距離だが発動と同時に瞬間移動で移動できる、しかし
予め移動場所にマーキングしておかなければいけない為、
使用には経験を必要とする。
使いこなせれば生存率が大きく上がるであろう。
蒼い残滓を残しながら呪印銃より撃ち出された5つの魔弾が、味方である『アーカイヴミネルヴァ』の5人の背中に突き刺さる。いや、正確にはその身体に触れる瞬間に砕け散り、蒼い光の粒子となった破片は魔法陣を形作り5人の身体を包み込む。
そしてそれに呼応するように、魔獣の頭部へと埋め込まれた5つの魔弾からも魔法陣が生み出され、爛々と瞳を輝かす5人の狂戦士を魔獣の頭部へと送り届けた。
地響きを立てて巨大魔獣が地面へと叩きつけられる、突如として己が背後、しかも唯一の弱点である頭部へと現れた5人からの不条理ともいえる威力の攻撃に、今まで一方的に攻める立場だった魔獣は初めて成す術も無く屈した。
真紅の大斧の一撃で意識が飛びかけ、稲妻の様な速度の短剣の連撃に無理やり意識を戻され、巨大な竜の腕の幻影を纏った拳の一撃に視界は白く染まり、赤いオーラの帯を引く鋭い爪に更に視界を赤く染められ、荘厳な呪文と共に放たれた純白の光に地面へと叩きつけられた。
微かに残った最後の力で、せめて一矢報いようと顔を上げる巨大魔獣、しかしその視線の先にはいと小さき者がその思いを打ち砕くべくその爪を振り上げていた。
「ウ~ニャ!」
「グオオオオォォォォォォ………」
投石器とは比べ物にならない前線組の総攻撃に、アッサリとHPを減らして地面に伏した巨大魔獣。剛毛部分以外は異様に打たれ弱かった魔獣は、最期のトドメをネコ精霊のネコパンチで打たれその巨体をクリスタル化させていく。
砕け散る瞬間、フーレンスジルコニアス、テンテア、ユカリアス、ネコ精霊からビッと首を掻き切る仕草を送られた魔獣が最期に『 ノックアウトdeath 』と呟いたのはきっと気のせいだろう。
………なにやってるんだ運営。
愁星さん、トリアグルさんのご意見からこんな感じに〆てみました。
どどどどどうでしょうか?!
〆たと言いましたが新MAP編あと1話続きます。
(いつから新MAP編だったんだよというツッコミは聞こえません)