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小話 十四話 剣聖戻る

時系列的にはちょうどノブナガがダンジョンに戻った頃になります。



「甘い! もっと鋭く動け! 貴様はぬるい! 力をもっと込めろ! 違う! 力を込めるのは剣を振る一瞬。最初から込めても意味がないわ! お前は素振りからやり直せ!」


 最後まで残っていた弟子、と思われる奴らの脳天に木刀を叩き付けて稽古を終わらせる。

 終わってみれば死屍累々。儂を中心に訓練場の門下生、と思われる奴らがぶっ倒れている。

 実際門下生なのかは分からない。アリスは才能があったから覚えているが、他の奴らは顔も名前も憶えていない。最後まで残っていた三人は儂の代わりに門下生を鍛えていた師範代らしいが、記憶になかった。


 とりあえず準備運動にはなっただろう。訓練場に顔を出しその場に居た全員と実践稽古。相手には真剣を持たせ儂は木刀。そして僅かにでも芽がありそうなら指摘してからぶちのめす。身体を暖めるのを手伝った礼として。

 知らなかったが、この訓練場には才能のある奴らがそれなりにいたのだ。アリスほどではないし、勝手に名づけられたカッシュ流の才能ではないが。

 斬ることにおいて重要なのは力でも速さでもない。一寸の狂いもない精密さ。千回降れば千回同じところに打ち込める精神力と集中力。そう思っていた。ノブナガと対峙するまでは。

 世界が変わったとでも言うべきか。

 我が身を捨ててでも一撃必殺を行おうとする豪剣。相手を竦ませる気迫、剣ごと押し込もうとする剛腕、何より捨て身の姿勢が相手を恐れさせる。見事の一言。

 目視すらさせない鋭い剣。一度の踏み込みで三度繰り出された突きは恐ろしく、一つでも捌き損ねれば致命傷になり兼ねない危険があった。速さが鋭さをまとうとこれほど恐ろしくなるのだと初めて知った。

 驚愕したのは相手に合わせるという誰も考えなかった剣だった。相手の剣の軌跡を先読みし、相手の剣を合わせてほんの少し力を加えて軌跡をずらす。守りに特化した剣だった。


 それを見てほんの少し考えが変わった。儂の剣の才能がないやつでも、これらの剣ならそれなりに強くなれるのではないだろうか。儂ほどになれずとも、アリス程度の実力まで育てば。せめて十、いや三十程いれば十分儂にとって脅威と言える。

 しかし何度確認してみても。それなりに筋が良さそうなのが五人程度。他は今よりか確実にマシになると言えるがそれでも儂の期待に応えられるとは思えない。

 それにこのように他者の剣で鍛えるなど初めての試み。どれほど強くなるのか、どれくらいの月日が必要になるかが分からない。


 まあ良い、当面の斬るべき目標はいる。こやつらをぶっ叩き育てればノブナガを斬る何かの参考になるやもしれん。

 ……ノブナガ? そういえば何か頼まれたような。確か、ええっと。


「おーおーおー、随分暴れたなあ。……あん? 増えてねえか?」


 訓練場の玄関にいたのは燃えてきたばかりチリチリになった毛むくじゃらのドワーフ。自称カッシュ流専属鍛冶師。


「ハバルか。どうした、稽古でもつけて欲しいのか」


「専属鍛冶師が化け物と稽古するわけねえだろ。仕事で来たんだよ、ほれ!」


 別に専属にした覚えはない。こやつが勝手に専属を名乗っているだけ。実際腕は良いので良く利用はしているが。

 そんなハバルが持ってきたのは、ノブナガとの一戦でヒビの入った名剣。

 受け取りに来いとばかりにハバルはその場で手を伸ばすが、ここを動くのはめんどくさい。何せ周りには門下生が沈んでいるのだ。

 だから投げろと空いた手を伸ばすと。


「だああもう! お前分かってんのか! かつて存在した鍛冶の大親方が最後に打った剣だぞ! 投げられるかそんなもん!」


 そう言ってハバルは門下生をズシズシと見ながら儂に剣を手渡す。うむ、お前のやっていることもそうそう出来ることではないぞ。

 剣を受け取り刃を見てみればヒビはなく以前と同じく鋭く固い。

 何も変わっていない。それなのに、お前とは違い手にしっくりと来ない。愛着もどこかに消えどこか頼りない感じがした。

 何故なのか、何も変わりがないはずなのに。


「そういえば何か考えていた様子だが、どうかしたのか?」


「……ああ、何か頼まれたんじゃった。なんじゃっけ?」


「知らねえよ。大方魔王の討伐だろう」


 魔王、討伐? ……そんなんじゃった気がする。多分。

 そうと決まればやることは一つ。剣を担いで走るのみ……む。

 いざ行こうと思い一歩踏み出すが、踏んだのは床ではなく門下生だった。そこでふと考える。

 ノブナガに引き合わせるか?

 今門下生に教えているのはノブナガが使った技の見様見真似。完全に再現は出来ているが、ノブナガが知っている剣の全てと言うわけではないだろう。

 それにノブナガの下にいる魔族もそれなりの腕の持ち主。負けるとは思わないが良い経験にはなる。

 決断は一瞬。


「起きろ! 貴様ら全員連れてオワの大森林に行くぞ。剣を持て!」


「おいおい! 無茶言うなよ、稽古が終わったばかりだろう。それに行くと決めてすぐに行ける程身軽じゃないだろう他の奴らは」


 折角床を思いっきり叩いて失神している奴らを叩き起こしたのにハバルが邪魔をする。しかしハバルのいう通り稽古の後の所為か皆疲れている様子で、すぐに立ち上がれたのは華奢なやつただ一人。誰だこいつは? 昔からいる気がするが覚えていない。こいつに聞いてみよう。


「そうじゃったか?」


「は、はい。流石に今日明日と言うのは。馬車などの手配もありますので十日ほどは……」


「遅い! 出発は明日! 希望者のみとする!」


「お、お待ちください! 三日、三日あれば他の者は何とか都合を付けられるでしょう。そのような者が多いはずですので、御再考を」


 ぬう。三日待てば人が増えるのか。それくらいなら待つか。しかしすぐに行きたい。儂の相手として満足足りうるのはノブナガだけだ。


「あのよう、剣だって直したばっかだし少し振って体に慣らしたほうが良いだろ?」


 慣らす? 不思議なことを言う、自分の腕に自信のあるハバルが前と僅かでも違うなど認めるはずがない。

 現にこのように剣を一振りしても以前なんら変わ――。


「………………」


「ど、どうした?」


「何でもない。そこの華奢な奴。全員に三日後に遠征に出ると伝えて置け。儂は離れに戻る」


 それだけ言い残して儂はすぐに離れに向かう。


 離れに戻れば剣を振る。単なる素振り。斬る対象などは考えず己の想像通りに剣が振れているか確認する素振り。

 何の問題もない。剣に異常はなく、今まで通りの精密さ。

 しかしほんの、ほんの僅かな違和感が残った。


 何じゃこれは?


 それから出発まで剣を振り続けるがその違和感が取り去られることはなかった。


次回はダンジョンに戻ります。誰視点かな? スズリか、トドンか、カイ辺りになると思われます。

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