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第七十一話 鍛冶嫌いのドワーフ

 市井を見て回るのに馬車に乗っていたら見逃す部分もあるじゃないか。

 まさか断られるとは思っていなかったのだろう、辺境伯は驚いた様子を見せ、その後ろでギルが口元を隠しながらも笑っていた。

 さらにギルは魔王が徒歩なら私が馬車に乗るわけにはいかない、と連携を取ってくれた。これで執事の用意は無駄にならないだろう。

 そうなれば護衛がぞろぞろで大変なことになっただろうが、そこは辺境伯の計らいでそれぞれ護衛は、俺はランとリン、ギルは近衛団長と次席宮廷魔道士のみになった。

 まあ間違いとはいえ俺に槍を向けた騎士団を護衛には付けられないのだろう。

 しかしそれは良いとして。


「先程からずっと敵意を振り撒いているが、どうした?」


「こちらは友好を育んだというのに、控室で何をしていたんだお前は」


 何故かランとリンが先程からずっとフルーンを睨み、フルーンも睨み返している。一触即発とはいかないが、かなり険悪な雰囲気。

 唯一、護衛組の中で事態を見守っている近衛団長は何とも困った様子で別室での出来事を話してくれた。


 事の発端は別室で発したフルーンの一言。


「あの程度の魔王に敗北するとは、我が妹ながら情けない」


 独り言か、それとも近衛団長に向けられた言葉なのか、定かではないがとりあえずランやリンに向けられた言葉ではない。

 そもそも魔族が人語を理解できるとは思っていなかった。魔王はどちらも話せるが配下は無理だろうと。

 しかし残念なことにランには人語を教えていた。話すのはまだたどたどしい筈だが聞き取りはほぼ完璧。

 そのためクラースの言葉を理解し、激昂。

 更に人語を理解できないリンもラン経由でフルーンの言葉を聞き激怒。

 そしてランから発せられた言葉。


「二番のくせに」


 おそらく次席の分際で的なことを言いたかったのだろう。その言葉がフルーンのプライドに突き刺さった。


 そのまま戦闘に発展しそうなのを何とか食い止め、にらみ合いのまま今に至るとのこと。

 まさに呆れる他ない。

 俺とギルは揃って溜め息を吐いた。


「フルーン、謝罪しろ。謝罪しなければ永久に主席宮廷魔道士にはせん」


「それで許してやれ。そもそも気にするな」


 主席にしないという部分が効いたのか、苦虫を噛み潰したような顔でギリギリと重い声で謝罪し、ランとリンは相手に謝意がまるでないことを理解しながらも受け入れた。俺に言われた以上引きずれないのだろう。

 

 それからは俺とギルは和やかに辺境伯の案内の下見て回り、護衛組も近衛団長が間に入りながら何とか争いにはならずに済んでいる。

 しかし残念なのは。


「人が近づいてこないな」


 人はいる、しかしこちらの姿を見つけるとそそくさと店の中、もしくは踵を返してしまう。

 出来れば少し話をしたかったのだが。会談が終わってから変身できず、情報収集が出来ていない。


「ノブが魔王だからじゃないか」


「ギルが皇帝だからかもしれない」


 確かに魔王は怖いから近寄りがたい、そんなのはあるかもしれながこのキュートな顔なら警戒心など湧かないはず。つまりギルが皇帝だから畏れ敬うため来ないに違いない。

 ただ人が近づかないことでトラブルの心配が一切ない為か、辺境伯は明らかにホッとしている様子。


 それから様々な所を巡り、それぞれにどの様な意図で配置されているのかを聞いて回った。

 例えば宿屋などは門よりやや離れた所に配置し、その前の通りには屋台や商店などを多数配置する。金を使わせる作りだ。

 他には職人区。鍛冶や防具、道具などを拵う職人を集めた地区を複数配置し、職人同士の情報交換を活発化させると同時に、それぞれの地区に対抗意識を持たせ競争させる目的とのこと。


 実に勉強になる。

 というのもこれからは帝国と交易をすることになる。こちらから帝国に行くこともあれば、帝国からこちらに来ることも当然ある。

 しかし今のダンジョンは他者を多く受け入れられるとは言い難い。というより受け入れる造りを一切していない。せいぜい私室を使わせる程度だ。

 

 これからダンジョン内か外かは定かではないが、他者を受け入れられるよう作らなければならない。そこで街を見学し、参考にしようと思った。

 ちなみに帝都は等級で分けているらしい。というのも帝都なので貴族が多く、貧富の差も他の街や都市より大きい。そのため問題が起きにくいなども考えそれぞれに合うよう等級分けているらしい。

 これは参考にはならん。貴族なんぞ招くつもりはない。


 最後に食堂が多く並ぶ通りを案内された。タレの焦げるにおいなど食欲をそそられるが、食堂はどれも満員。というのもギルが来た所為で皆が逃げ込む様に食堂に飛び込むからだ。

 ギルをさりげなく睨むと、ギルも何故かこちらを睨んでくる。分からん。


 どこか空いている店はないか、探してみるがどこにも無く代わりに何か変なものが目に入る。

 店と店との間、路地とも言えぬ人一人がようやく入り込め、寄生虫(パラサイト)を吐き出した場所と同じような僅かな隙間。

 そこにおそらく人がいた。

 というかぶっ倒れていた。いや、寝ているのか。

 金に困り宿が無く、という感じではない。身なりはまともで、腕や足の太さが半端ではない。あれは栄養をちゃんと取っていないと育たない太さだ。慎重に関してはそこらの子供と同じで低いと言わざるを得ないが。


「どうしたノブ、何か見つけたのか。……ああ、あれはドワーフだな。隣は酒場、酔ってあそこで寝たのか、店がそこに放置したのか」


 ドワーフ。見たことのない人族だ。国家群のどこかに国を造っている程度の事しか知らん。あのずんぐりむっくりがドワーフなのか。

 珍獣でも見つけた気分で見ていると。


「ぶえっくしょん!」


 盛大にくしゃみをして起きた。当然だろう、風邪を引いてもおかしくないはずだ。

 ドワーフは周囲を見回し現状を理解したのか、慣れた様子で立ち上がるとふらふらとこちらに寄ってきて。


「すみゃんが、宿はどこに?」


 俺に話しかけてきた。魔王である俺に。

 しかしよく見ると目がうつろとしていた目の前をしっかり見えているのかも怪しい。舌も回っておらず寝ぼけての行動だろう。

 それに宿屋なら先程見てきたばかり。教えるだけなら苦労はない。と思っていたが。


「……ハッ、あ、あんた!」


 目が覚めたらしく目を大きく見開き驚いている様子。どうやら俺が人ではないと気づいた……。


「目ん玉落としてんぞ! どこに落としたんだ! 一緒に探していやるからな!」


 どうやら寝ぼけているだけでなく酔っぱらってもいるようだ。しかし他人を思いやれる行動を笑うつもりはない。

 というか、目の前で四つん這いになってない物を探されると心が痛む。


「大丈夫だ、目玉は落としていない。目玉は、あるんだ。……そう透明で見えないんだ」


 探させるのを止めるために咄嗟に吐いた嘘。我ながらどうかと思ったが。


「何? 透明の目ん玉か、珍しい」


 所詮は寝ぼけた酔っぱらない。何と言うこともない。

 それから宿屋のある場所を教え、その場を去ろうとしたが。


「ねえ! ワシの金がねえ!」


 後ろからドワーフの悲鳴に近い怒鳴り声。

 振り返れば懐から靴の中まで探しているが見当たらない様子。まあ、あんなところで寝ていれば金だって盗られる。

 さすがに自業自得、手助けする気は一切なかったがドワーフは何か言いたそうな目でこちらを見ていた。


「ドワーフならば知り合いの工房に転がりこめば良かろう。数品打てばいくらか手元に残るはず」


「断るっ! ワシはもう二度と鍛冶はせんと誓ったのだ!」


 ハッキリと仕事をしない宣言したドワーフに俺は呆気にとられた。ギルも驚いていたがどうやら俺とは様子が違う。

 話によればドワーフとは酒を愛し、石に愛される種族らしい。鉱山で働けば崩落事故が起きても生き残れ、鉱石を扱わせれば人族の中で右に出る者はいない。そして毛が濃く身長が低いのだが、皮膚が固く力が強い。

 そのためドワーフにとって鍛冶とは天職、とまで言われるほど。

 それを二度としない、そんなドワーフは滅多にいないとのこと。


 しかしそんなことはどうでも良い。

 つまりは自分の長所を使いたくないとドワーフはのたまっていることになる。


「じゃあ何が出来るんだ? 当然恵むつもりはないぞ」


「ぐぬぬ、若ければ戦士としてこの剛腕を振るえたが、いやあのバカを思い出すから嫌じゃ! 坑夫になろうにも鉱山は首領悪鬼(ドン・オーガ)の出現で閉山と昨日知った。出来る事なんぞ、石造関連か大工程度しか」


 随分と好き嫌いの激しいドワーフのようだが、気になることを言ったな。


「大工? 家を建てたりなどは出来るのか?」


「ああ、齧った程度だから大層なもんは作れねえが家とかなら可能だ」


 チラリとギルを見て雇っても良いか目で聞く。するとギルも辺境伯を見て、辺境伯は何とも困った表情で首を傾げた。

 どういう意味だったのか、良く分からないがギルは頷いてくれた。皇帝の了承を得た。


「ではどうだドワーフ、給金については怪しいが衣食住については全面的に保証できるぞ。住については自分で作って欲しいのだが」


「本当か! 何だあんた偉い人だったのか。よっしゃ、すぐに準備してくるからな!」


「ではこの街に中心に立派な建物があるだろう。ファース辺境伯邸なんだがそこの前で待っていてくれ」


 分かった! とドワーフは勢いよく走るが遅い。足が短い故仕方ないが、一歩一歩がかなり力が入っているのは見て分かった。


「よろしかったのですか魔王様。あのような身元不明な者を招いて」


「ライルの様に器用に嘘を吐くような人族には見えなかった。それにどちらかと言えば騙すようなことをしているのはこちら側だしな」


 どういう意味なのかランとリンは分からないようで首を傾げたが、ギルなどは分かっているらしく苦笑していた。

 それから食堂を過ぎ去り玄関ともいえる門を見て、いつかこんな壁が欲しいと思いながら帰路に着く。




 辺境伯邸まで戻るとすでに馬車の用意がされていた。本当にあの執事は準備が良い。

 更にその横には地面に胡坐をかいて待つドワーフがいた。


「おお、待っておった……人族じゃねー!」


 どうやら酔いも目も覚めた様子。

 しょうがない、ちゃんと説明して上で来てもらおうか。


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