第八話 放浪のオルギア
この世界の生物は大きく分けて三つに分けられる。
一つは魔物。魔物の定義は広く、言語を有していない生物となっている。つまり猫や犬は勿論、魚や虫も全て魔物の扱いになる。魔物だからと言って人を必ず襲うなどと言うことはなく、家畜として扱われたり、愛玩動物として扱われたり、人を襲ったりと様々だ。また特徴としてレベルが上がりやすく、ある一定数まで上がると進化する。それと時おり昇華するものが稀にいる。
二つ目が魔族。魔族の定義は言葉を有しつつ進化出来る生物。魔物から昇華したら大抵魔族になる。また魔族は魔物と異なり進化されることは珍しい部類になる。一度でも出来れば一流と扱われ、二度出来れば選ばれた者だ。しかし三度出来たという例は今までにない。何故なら三回目、つまり四階位はその種族を総べる王。魔王を指すからだ。魔王は俺のように王として生まれてくる。だから一階位として生まれた時点で四階位にはなれないという考えがある。
三つ目、これが人族。定義は言葉を有し進化しない生物。これは人間だけでなく、エルフやドワーフ、獣人なども含まれている。彼らの特徴として進化がないためレベルがいつまでも上がり、職業が得やすいなどが挙げられる。
簡単な目安を付けるなら百レベルを超えれば一流、二百を超えれば規格外、と考えればいい。
何でこんな説明をしたかと言うと今目の前で頭を下げている緑の巨人に原因がある。
名はオルギア、種族は大悪鬼。本で調べたが大悪鬼なのだ。大悪鬼になるには二度進化しなければならない。小悪鬼から中悪鬼を経てようやくだ。
つまり選ばれた者なのだ、人族風に言うと一流を超えた生き物なのだ。魔王とはいえ成り立ての俺と、歴戦の猛者オルギア。戦闘になれば俺は瞬殺されるだろう。
ではなぜオルギアが俺に頭を下げているか。これはオルギアが勘違いをしているのだ。
昨日オルギアは森を歩いているところ冒険者の群れと出会った。そしてそのまま戦闘になり何とか勝ったが傷は深くそのまま逝く所だった。そこに俺が通りかかり食べにくい、もしくは食べてはいけない鎧や剣などを剥いでからオルギアの口の届くところに置いて行ってくれた。オルギアは肉を食らい固有技能の『異常回復』で一命を取り留め、体が完全に癒えた今俺を探して礼を言いに来たらしい。
違うし、全然違うし。俺の目的は冒険者の持ち物であり、お前の上に死体を乗せたのも虫の息だったお前ごと誰か食ってくれれば良いなと思ってやっただけのことだし。
絶対に言わないけど! 言ったら殺されるからね!
「えっと、オルギアさん。そんな気にしないでください。困っている人を見つけたら助けるのは当然じゃないですか」
「なんという崇高なお心! 今まで数多の魔王を見てきましたが、誰もが利己的で傍若無人。他者に手を差し伸べる者など一人もおりませんでした!」
ぅおう。俺の評価が何故か上がった。しかし今気になることを言ったな。
「オルギアさんは他の魔王に会ったことがあるんですか」
「はい! 私は小悪鬼の頃から世界に興味があり旅をしておりまして、大悪鬼にもなりますと行く先々で魔王に勧誘されまして、少し席を置いては馬が合わずあちこちを放浪としておりました」
いくつもの魔王の下を転々としていたのか。凄い経験者だな。
「実はですねオルギアさん。私はつい先日魔王として生まれたばかりで他の方々がどんな行動をしているか知らないんです。少しお話を聞かせてもらっても良いですか? 一緒に晩御飯でも―――ああ、しまった。今食料が無いんだった」
今は夜だけど、オルギアの話は貴重だしこれからの指針になりかねない。多少危険を払ってでも聞く価値はある。
仕方がない、採取に行くか。
「すみませんオルギアさん、今からちょっと晩御飯を集めてくるので、私の私室で休んでいて下さい」
「い、いえ! そんな命の恩人に用意してもらうなど。私がちょっと行って狩ってきますので待っていて下さい!」
そのまま走って外に行ってしまったオルギア。
律儀と言うか、真面目と言うか、オルギアさんって優しい人だよね。
と私にも思っていた時期がありました。
帰ってきたオルギアが肩に担いできたのは全長二メートル近い大猪だった。
頭の辺りに大きなくぼみがあり、そこから血が滴り落ちている。そこを殴ったんですね、分かります。
さて、喰いましょう。オルギアは生で大猪を食おうとして驚き、何とか俺が料理好きと誤魔化して大猪を預かり、キッチンへ移動。
そして本に収納すると、本は『大猪の皮』『大猪の牙』『大猪の肉』と目論見通り分けてくれた。
後は鍋と出汁を用意して肉オンリーの牡丹鍋が出来上がった。
すぐに持っていくとオルギアは玉座の間にいた。どうやら私室があまり落ち着かなかったらしい。
そんなわけで玉座の間で牡丹鍋を食べたわけだが、感想としては野菜などが欲しいと思った。肉だけはきつい。
対してオルギアには好評だったようで美味そうに食ってくれた。
魔王の話も聞け、話し相手もいた。今回の飯は非常に有意義なものになった。




