第五十話
早速ギルドに、と行きたかったがそうもいかなかった。外に出るなりアリスが駆け回って屋台を襲撃に近い買い物をしている。
気持ちは分からないでもない。はっきり言ってダンジョンは衣と住については自信があるが食だけは簡素としか言いようがない。
何せ肉か果実だ。種類もそんなに多くない。俺はこっそりキッチンを使って様々な調理法を試しているが、そのまま焼くか生しかないアリスは飽きていたのだろう。
交易がなればそう言うのも変わるのだろうが。
しかし問題がある。それも重要かつ急を要する物だ。
「アリス、先程から様々な物をたくさん買っているが、それは俺が渡した金で買っているんだよな?」
「ふん? ふぉうだが?」
「返事は食い終わってからで良い」
そう言うとアリスは口に含んでいる物を飲み込み、持っている物も食べ始めた。
確かに食べ終えてと言ったが、手に持っている物も食えと言う意味ではないのだが。
「そうだが?」
全て食い終えて再度聞き返すアリス。先程まであった食べ物は無くなり、手に持つのは串などゴミばかり。溜め息も出ない。
「俺の分を買ってこようとか思わんのか?」
一体何を、とばかりにアリスは首を傾げややあって気づいた様子で。
「食べたかったの? 意地汚―――」
無言で拳を振り下ろすがあっさりと避けられる。まあ、この身体になって肉体的に色々と強化はされているがアリスには到底届かない。当たるなんて思っていない。あくまで警告だ。
「しょうがない。買ってくるから待ってろ」
そう言うとアリスは屋台へ突撃しに行き人ごみへと姿を消した。
何で上から目線で言われなければならんのだろうか、さっさと貨幣価値と物品の適正価格を知って財布を握った方が良いのかもしれない。今度の情報収集ではその辺りも念頭に置いておこう。
しかしアリスが何を買ってくるのか非常に楽しみだ。見た限り串焼きが多いか、見たこともない果実や野菜もあるし、スープなども売っている。
不思議なのはどの屋台にも謎の模様のあるを幟に出している。全てばらばらに見えるがどこか統一性がある。あれはなんなのか。
「ほれ串焼きだ」
そんなことを思っているといつの間にかアリスが戻ってきていた。そして俺に手渡す串焼きは一本だけ。
あまりの優しさに涙が出そうだよ。
「ふむ…………うむ? 懐かしい味がする。何故だ? タレ、ではないな。肉の味が懐かしい。これは何の肉だ?」
「コカートじゃないか?」
コカート……? どこか聞いたか? オワの大森林には生息していないはず。……ああ、思い出した。
「最初のクエスト報酬。そうか、あの肉か」
確かな歯ごたえはあるが味そのものは良くも悪くもない一品。もしも美味しい感じられるならタレの力だろう。
しかし本当に懐かしい。あの頃に比べれば今は随分とましになったと言える。
「交易が出来るようになればこんな物も手に入ると言うことか」
「そのための手紙なんだろう? ほれ、あそこの少しでかめの建物があるだろう。あそこがギルドだ。先に行っているぞ」
言うとすぐにアリスは人ごみの合間を風のようにすり抜けて行った。何と言う足運び。こんな無駄な所で熟練の技を見た。
対して俺は。
「……………………」
俺が歩くだけで人ごみの中にちょっとした空間が出来る。まるで磁力の反発でも起こっているかのように俺の周りだけ。
いっそのことモーゼの様に割れてくれれば歩きやすいのだが。
ギルド、正確には冒険者ギルドらしいが詳細な情報はまだ入手していない。とはいえ大まかなシステムは知っている。依頼を受注してそれに見合った人材をギルドの登録者に回す。つまり派遣会社みたいなものだ。
そしてここアンダルは冒険者の町であったためかそれなりに大きな建物だ。看板には謎の模様。その横にはロゴと思われる円の中に重なる三つの円。
これを建築した者がいれば連れて帰り小悪鬼達を弟子にして欲しい。そうすればアリスの住居も出来るだろう。
「―――だって―――ちゃん」
「―――も売れ―――んだぜ」
ふむ。中にもそれなりに人がいるようだ。これならギルドの情報を得るのも苦労はしなさそうだ。
そう思ってドアを開け、ふと気が付いた。
ここで変身したらばれる、しかし変身しないと記憶読めないじゃねえか!
……どうしよう。