第四十七話
各種族の詳細な話は後の小話にて。
一体誰だ、簡単に終わると言った奴は。全然簡単じゃなかったぞ、滅茶苦茶苦労したぞ。
カイとシバに会うために集落に行けば、例の妊娠した群犬が頭下げて謝ってくる。
別に怒ってないのよ、ただ出産を推奨していないだけで。
どうすれば良いか分からなかったから頭を撫でて、励め、と言えば涙流しながら感謝するし。どうしろと言うんだ。
その後、カイに会ったから栽培について聞けば、失敗だけで何も報告すべきことが無い、という状況。
やっぱり頭を下げられたよ、しかもそのまま自害でもしそうな勢いだった。すぐに慰めてなんとか場を収めたけど、あのままだと栽培については進展することはなさそうだ。専門家でもいれば良いんだが。
シバも同様に進展なし、ではあるが報告すべきことはあった。オワの大森林の東と中央には石切り場となれる場所はないと言うことだ。
西についてはこれから探索するらしいが、西は俺に臣従していない魔族もおり、距離も遠いため準備が必要らしい。しかし石切り場に適した場所が見つかっても距離が遠すぎると運搬が大変だ。まあ見つけてから考えよう。
中々上手くいかないと考えながら訓練する蜥蜴人の下に向かい、アリスに意見を聞けば知らんと返された。あいつ本当に戦闘指南役か。
話をしていればそこに完全武装したリンがやってきたのは驚いた。どうやら俺が訓練のために来てくれたと勘違いしたらしい。断りたかったがあの純粋できらきらとした瞳に負けてリンとだけ一戦することになった。
まあ実力は互角なんだ。苦戦させて辛勝させればいいだろうと思って戦ってみれば。
出るわ、出るわ欠点が。おかげで圧勝。
アリスやヴォルトのような天才なら無意識に改善するだろうが、蜥蜴人にそこまでの才はない。小さい物から大きい物まで欠点を上げ、改善を要求。しかもそのまま蜥蜴人の課題が決定。自分自身に勝つ、つまり俺に勝つこと。何とか粘って先着一名にした。ああ、適当に負けたい。
ヒデとランもそれはもう苦労した。
まず蜘蛛人に裁縫を教える。ライルが教えられるのだが重症の為自宅療養中。ダンジョンで一晩も寝れば全快するはずだが、どうやら心の傷は無理らしい。
その後網についても教える。これは簡単だった。結ぶのは得意らしく、苦手な奴は蜘蛛人の糸を溶かして繋ぎ合わせればいいのだ。
問題はふんどしだ。はっきり言って簡単だと思っていた。しかし思わぬところで躓いた。蜘蛛人は女性の上半身が蜘蛛の胴体にくっ付いているようなものだ。つまりふんどしは使えない。当然困惑する、どうやって使うのか説明だけでは分からんのだ。自分には使えないから。まあ運悪く報告に来た群犬を使って説明は出来たから問題はないと思うが。
最難関だったのは小悪鬼達に教える時だ。
これについては最初からある程度覚悟は出来ていた。今までのような単調なものではないのだから。
しかし物分りの良い小悪鬼なら大丈夫だろう。と考えていたのが仇になった。
想像を絶する質問攻めにあった。今までは作り方について二、三質問があっただけだったのに、今回に限って作り方は当然として、どのように使い、運び、修理し、何台必要なのか等、運用についても聞かれた。恐らく柵の一件が原因だろう。同じミスをしないために。
頼もしいとは思う。質問を兼ねている間に今の技術では作れないと判断したこと。弓のままでは駄目なのかという疑問。石を使ってみるという発想。嬉しいよ? でもすぐに帰れると思っていた俺には途切れない質問に絶望していたよ。
そうして小悪鬼から解放されたのは空が赤く染まりだした頃。
風呂に入り飯を食えば外はすっかり暗くなっていた。
明日はアリスを連れて帝国に向かわなければならない。その時の行動についてアリスと話をしておきたかったが、そんな時間もない。帝国行きを延ばすと言う選択肢もあるが、国家群の動きが分からない今はあまり休みを作りたくない。
話をするのは道中で良いか、と考えながら俺は寝室に入る。
ああ、いつになったらダンジョンに引き籠り楽な生活を送れるのか。
夢に見そうだ。