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第三十八話

翌日、ヴォルトが王都に戻るということを知らせると配下総勢で見送ることになった。


「ヴォルト大先生、ご指導ありがとうございました!」


「アリガトウゴザイマシタ!」


 主に扱かれていたリンを中心に一斉に頭を下げる。

 ヴォルトの奴随分と好かれたんだな。人徳? いや、いきなり斬りかかってくる爺にそんなものがあるわけが。

 現に昨晩はゲームをするか争うだけの夜だった。おかげでまだ眠い。それに比べて何だあの化物は。何度も斬りかかって来て寝てないくせにピンピンしてやがる。

 

「うむ。これからも精進しろよ?」


 偉そうに頷きながら別れを済ます。そしてそのまま扉をくぐり外へと行った。

 あっと、俺もやっとかないと。


「それじゃあラン、特に問題は起こらんと思うが頼んだぞ。敵意あるものが現れたら全部アリスに任せろ、他に何か手に負えない問題が発生したらヒデに頼って俺に知らせろ」


「かしこまりました。魔王様、お気をつけて」


 そして俺もダンジョンの外へと向かった。




「それで、何でお前まで付いてくるんじゃ」


「え? 色んな理由」


 オワの大森林、俺とヴォルトはのんびりと歩きながら近場の街を目指していた。おっと、果実ゲットー!

 持ってきた魔法の袋に果実を放り込んで答える。


「例えば外の情報が欲しいとか。化物みたいなのがこれ以上来られるのは勘弁だからな。他にも買い出しとかね、編み物をそろそろ縫い物にするための針とか、農具や工具も少ないうえに手作りの粗悪品だ。

しかし俺一人じゃいけない。町でどう振る舞えばいいのか分からん、金は冒険者や騎士が持ってきた分があるが貨幣価値を知らん。だから町慣れしている人族が必要なのよ」


「その程度アリスかライルにやらせれば良かろう? ……いや無理か」


「そう通り。ライルは信用できん。逃げ出す可能性が大。逃げ出さなくても情報を流すだろう。アリスはあまり頭が回らんからな。買い物はともかく諜報は」


 配下の魔族はもってのほか。だから変身できる俺だけになる。

 

「それもあるがアリスはすでに死んでいると思われておる。それがのこのこ出てくればとことん聞かれるはず。それを力尽くを除いて逃げる方法はない。あっさりボロが出るじゃろう」


 そうか、すでに死亡扱いなのか。となるとあまり表に出せんな。魔王に洗脳された、寝返ったと騒がれるだけだ。

 おっと、果実回収。これを忘れると大変なことになる。


「良く採る、というか良く残っておるの。普通は魔族か魔物が食べてしまっているはずだが」


「この辺りの魔族はほとんど俺の下に来たはずだ。それにこの辺りは群犬(コボルト)の狩場だ。魔物も多いわけじゃない。だから多めに残っているんだろう、それを俺は採る。変身していると魔力が減るからな。町で変身が解ける大変なことになる」


「なるほどのう。だからダンジョンに着くまで何とも遭遇しなかったわけか」


「アリスの話じゃ殺気全開で爆走してきたそうだな。それも理由だろ」


 そういうのに気付ける奴なら魔族も魔物も必死に逃げ出しただろう。何せ規格外(レベル222)だ。出会えば死ぬしかない。


「そう言えばそうじゃった。アリスでは斬れん魔王と聞いて急いでいたのう。そう、アリスと言えば昨晩言い忘れたことがあった」


「ああ、あれか。何だ、重要なことなのか?」


 俺がスターを奪った時か。もちろんそのゲームは俺が勝った。というか昨晩は全部俺が勝った。


「うむ。アリスに魔王を斬らせてほしい」


 ……ん? つまり俺がアリスに斬られろと。


「勿論お前の事ではないぞ。他の魔王で良い、ただもし機会があれば魔王はアリスに任せてほしい。あやつはお主のおかげで一つの壁を越えた、だから今度は魔王を斬ると言う経験を与えればかなり強くなるはずじゃ」


 びっくりした。自分が斬る機会がなくなるから弟子に斬らせようとしたのかと思った。そこまで昨日全勝したことを根に持っているのかと思った。

 しかし困ったな。魔王を斬らせろか。


「機会があれば良いが、悪いが多分来ないぞ。俺はオワの大森林から出るつもりはないし、わざわざ討伐に行く理由もない。それに襲ってきてもそういうのは配下だけだろ? 魔王まで出てくるとは思えん」


「それでよい、機会があればで。それとそろそろ姿を変えた方が良いぞ? 運が悪ければこの辺りから冒険者の姿が見えてもおかしくない」


 無用な争いは避けたい。というか俺が冒険者に手を出せばそれを理由にヴォルトが斬りかかってくるかもしれない。

 素直に姿を変え、果実を見つけ次第食べつつ補充を繰り返し。

 三日後に人族の町に着いた。


 街に着くまで、魔族や魔物はおろか冒険者にも出会わなかった。

 ちくしょう、喰い過ぎて腹を下したのに。


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