第三十七話
剣聖が来てから二日が経った。
たった二日なのにヴォルトが加わった所為か様々なことが起きた。
一つは蜥蜴人の訓練が過激になった。指導役がアリスからヴォルトに変わったため、アリスですら倒れる訓練内容に変わった。しかも何故か実践稽古の締めとして俺も参加させられている。
見たことのない剣技が気になったのだろう、と思い軽くやろうとしたら本気で斬りかかってきた。アリス曰く手加減が出来る人間ではないとか。
相手が本気だったのでつい、一度の踏込で三度突きを放ったり、受け流してから斬りかかったり割と本気で殺そうとしたのだが全て紙一重で避けられてしまった。
あらためて感心した。やろうと思えば出来てしまうヴォルトの身体能力と、初めて見たはずの攻撃を躱せるヴォルトの戦闘能力に。
さすが規格外。二度と戦いたくない。
他には『偽りの私』を使い新しい身体を二つ作った。これで変身できる身体のストックが切れた。増えることがあるのだろうか?
一つはアリスとヴォルト、ついでにライル監修の下で作られた人族の身体。ほとんどアリスとヴォルトの思想で作られ、手先が器用で絵の上手かったライルが馬車馬の如く、いやそれも酷く働かされて作られた『歴戦の隻眼』。
製作過程、それは酷かった。次々に注文を出していくアリスとヴォルト、それに必死に答えるライル。少しでも想像と違えば「違う!」という厳しくもどこが違うのか指摘のない素晴らしい言葉に翻弄され、何度も間違えば拳骨が飛ぶ。
俺? それを楽しそうに見ていたよ。俺はライルが血の滲むような努力の結晶を映すだけだから。
その結果生まれたのが高身長に鍛え上げられた身体、歴戦の風格を漂わせる無数の古傷、そして顔面に鋭い切り傷が片目を封じ、残された目は全てを見抜くような目付き。
見た目だけならヴォルトよりも強そうな人族の出来上がりだ。三人にとっては渾身の出来なのだろう。
しかしおかしいな。俺は人族の町でもあまり目立たない風貌にしてくれと指示したはずなんだが。
もう一つの身体、威嚇専用の身体だ。実用性なし、見た目が恐ろしいまでに怖いだけと言うしよう。一度試しに変身してみたが大きく設定しすぎたのか三十秒しか持たず、全身も通常の肉体通りには作れなかったのでゴムにし、慣れない体のためほぼ動くことが出来ない状況。
これから頑張って慣れて行こうと思う。もし今度ヴォルト級の化物が現れた際にはこれで威嚇して追い払う作戦なのだから。
誰が二度とあんな危ない戦闘をするものか。
ライルの住居も出来上がった。突貫作業とはいえ酷い出来だった。分かりやすく言えば扉のついた箱だ。住む場所じゃない。
とはいえまだ配下でもないのだ。牢があればそこに入れられる程度には警戒されている。監視役のアリスの家はまだ出来上がっていない。アリスの為、と気合を入れて作っているので時間が掛かっている。私室を超える出来にはなれないだろうが。
事ある事に私室への帰還を求めているアリスだが、ヴォルトを理由に出されては何も言い換えず黙って寝泊まりしているランの下に帰っている。
アリス宅が出来るまでは群犬と蜘蛛人にライルの監視を任せている。特に逃げ出そうと言う動きはないらしい。まあアリスとヴォルトに死ぬほど働かされて逃げ出す気力もないだけかもしれないが。
今、俺は『守りの戦闘態勢』になり、ヴォルトのが泊まっている私室にいる。当然ヴォルトもいるが、全身から殺気を立てて腰の木刀に手を掛けている。
一触即発。何故こうなったのか。
始まりはヴォルトが夜に来てほしいと言って来たからだ。
そのため日が落ちてから訪ねると、そこにはゲーム機相手に苦戦しているヴォルトがいた。
使い方なんて分からないだろう、だから教えてヴォルトが適当に選んできたソフトで遊ぶことにした。
ヴォルトが選んできたソフトは。
『ドカ○ン』
そして画面には一位の俺とビルのヴォルトが映っている。
昼の訓練とか俺の腕を斬った恨みとかいろんな物を込めて、俺はボタンを押す!
「やめろおおおぉ!」
「ふはははは! 死ねえ!」
画面では俺のキャラがヴォルトのキャラを攻撃して倒した。
現実ではヴォルトが木刀で俺に斬りかかってきたが『守りの戦闘態勢』には傷一つ付けられなかった。
「貴様! げえむで本気になるな! 弱者を虐げて何が楽しい!」
「マジになって斬りかかってきた奴が何言ってんだ! それに弱者をではなく、お前を虐げるのが楽しいんだ!」
リアルファイト勃発。
数十分後、決着の付かないリアルファイトを止め、争いの下であるソフト、念のためにゲーム機も変えて他ので遊ぶことにした。
「全く斬りかかってきやがって、俺を斬るために呼んだのかクソ爺」
「ふん、お前が調子に乗るからじゃ。呼んだのはそろそろ戻ろうかとおもってのう」
お、良いアイテムゲット。え?
「帰るのか。まあ弟子の様子も見れたし、俺も危ない魔王じゃないと分かればいる理由がないか。二日ほど滞在しやがったがな」
「ジゲン流が気になったからじゃ。ついでにバカ弟子の腕が訛っていないか見たが、悪くはなかった。洗練されておったし、配下の蜥蜴人も良い腕だった。特にリンとかいう奴じゃな。人のような槍を使いつつ尾で加速したりと見たこともない物を見せてもらった」
ああ、尾をバネのように巻いて一気に加速して突く『爪牙』。それの応用で上に飛ぶ対空技『空牙』か。俺が尻尾を有効に活用しろって助言した所為なんだけど。
あ、コインゲット。
「その所為か、王都にいる弟子に教えてやろうかと思い始めたんじゃ。王都に残るのはあまり才能がないんじゃが、それは儂の流派の才能がなかっただけ、ジゲン流なら他の武器ならもっと才覚があるかもしれん。それを教えてやればあやつらはもっと強くなれるかもしれん」
「それを送り込んでくるつもりか? 勘弁しろよ、俺はもう二度とお前みたいなの相手にしたくないからな」
「儂みたいのがそうおるわけないじゃろ。しかし近いの。時折で良いから交流会をせんか? 儂の弟子とお前の配下。人族と魔族、かなりの刺激になると思うのじゃが」
うーん、どうだろう。来た際の住居、食事。今はカツカツだが発展途上、いつかは余裕も生まれるだろう。その時なら問題ないか?
あ、もう少しコイン溜めよ。
「良いが当分先だな。見て分かっていると思うが魔族が増えて今は忙しいしな。余裕が出来たころなら」
「うむ、儂もすぐに、とは思っとらんから構わん。それともう一つお前に頼みがあっての。アリスの事なんじゃが」
何だ、面倒事じゃないと良いが。あ、コイン溜まった。
「テレちゃん召喚。お前からスターもらうわ」
「あぁ! 貴様!」
第二次リアルファイト勃発。
なんとか、投稿ペースを戻さねば。