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小話3話

   ヴィの日常




「今日はどこいく?」


 仲間たちを集め、ヴィは今日の予定を話し合う。

 粘液生物(スライム)に住処はない。強いて言えばすごしやすい場所。敵のいないダンジョンの中ならどこでも良いのだ。

 だから夜が来たら寝て、朝日がでたら起きて仲間を呼んで今日の予定を話し合う。

 外から見れば森の一角に無数の粘液生物(スライム)が集まり、木々が粘液に包まれていると言う恐ろしい光景だった。


「集落~」


「そこは昨日行った」


 粘液生物(スライム)はダンジョン内の様々な処理を任されている。更にダンジョン外や玉座の間に入る権利を持っており活動範囲は広い。

 彼らからすれば処理とは食事だ。だから出来るだけ一度に多くの物を摂取したい。

 だからあまり行っていない場所を探している。


「大浴場!」


「魔王様?」


「魔王様に会う~」


 こうして魔王への謁見? もとい大浴場の処理をするため粘液生物(スライム)の大移動が始まった。




「魔王様~?」


 玉座の間に入り魔王を探すがどこにもいない。もしかしたら私室や寝室にいるのかもしれないが、入る許可を得ているのは大浴場だけ。

 特に魔王に用があったわけではないが、会えないと分かると全員がどこか気落ちした様子を見せる。会えることは非常に少ないが期待していた気持ちもある、それに魔王は自分たちに妙に優しい。

 それがダンジョン内の処理を全て任せている、魔王の後ろめたさから来るものだとは知られていない。


「じゃあごはん?」


「ごはん!」


 もう一つの目的を思い出し、大浴場に向かう粘液生物(スライム)

 久々と言うことで大量のごはんを期待して入るとそこには。


「魔王様?」


「おや? ヴィか、これは随分とタイミングが悪い時に」


 泡だらけの大浴場とブラシで一生懸命床を磨く魔王の姿が。


「あれ? ごはんない~?」


 ヴィの後ろにいた粘液生物(スライム)がぞろぞろと入り、泡だらけの大浴場を見て口々に疑問を漏らす。

 当然ヴィも同じことを思い、そして魔王の泡まみれの姿を見て確信する。

 魔王がごはんを消したのだと。


「どうして……」


 今まで一度も出したことのない悲哀の声。それだけで魔王を追い込むには十分だった。


「いや、さすがに三日も風呂を洗わないのは不味いしな。それに暇、じゃなかった息抜きに掃除をしようと思ったから」


 目のない粘液生物(スライム)から何故か視線を感じ、魔王は罪悪感を覚えながら答えるが、粘液生物(スライム)がそれに納得するわけもない。

 別に魔王が悪いわけではない、処理のことは全てヴィに任せてある。逆に考えれば魔王は一切知らずいつ来るのかも分からないのだ。

 今回の一件はただ運が悪かった。それだけだった。


 なんとも言えない雰囲気が漂い出した時。


「ピリッとする!」


 一匹の粘液生物が洗剤の泡を取りこんでいた。

 取り込み終わるとまた別の泡を取り込み、ぷるっと震える。


「なに~」


 他の粘液生物(スライム)も興味を持つと泡を取りこみ。


「ピリッとした!」


 驚きの声と共に大きく震える。

 粘液生物(スライム)には味覚はない。ただ取りこみ栄養にするだけ、だからこそ消化できるものは何でもごはんになるのだが。

 彼らにとってピリッと来るものなど想像も付かない。好奇心の強い彼らからすれば当然見逃すわけもなく、目の前にそれがあるのなら。


「わ~い」


「ま、待て!」


 当然取りこみにかかる。

 瞬時に大浴場に広がってく粘液生物(スライム)。魔王が必死に抑えようとするが粘液に更に洗剤が混ざり滑りやすくなって捕まえることが出来ない。


「洗剤は、生物が摂取して大丈夫なものじゃない!」


「ピリピリする~!」


「まずは安全なのか確認してから」


「泡が出てくる!」


 未知の体験に魔王の言葉も聞かず、次々と泡を取りこんでいき、そして最後には全ての粘液生物(スライム)が泡を発し始め泡粘液生物(バブルスライム)へと変わった。


 それから数日後、泡粘液生物(バブルスライム)粘液生物(スライム)に戻った。彼らの通った後は何故か洗われたように綺麗になった。

 集落に住む魔族は大変感謝したが、魔王からは小言と制止を聞かなかった罰として大浴場に入る権利を失った。

 ランの日常




 魔王には介添えが必要ではないか?

 騎士団殲滅後にそんな話が上がったことがあった。

 魔王様は多忙な日々を送っておられる。起床就寝は明確には誰も知らないが、騎士団殲滅の指揮を執っていられた頃は群犬(コボルト)に特殊訓練を、通常訓練も視察して小悪鬼(ゴブリン)の窪地造りにも必ず顔を見せたと聞いている。

 更に道具の開発に粘液生物(スライム)を使った罠まで設置していたとも聞いている。


 多忙。確かに魔王様でないと出来ないことばかり。とはいえ、その負担を少しでも減らして差し上げたい。

 騎士団殲滅し余裕が生まれた私たちはそれに気づき、各族長が集まり話し合った。誰が介添え役になるか。

 誰も譲らない話し合いが始まった。

 魔王様の世話、これを譲るはずがない。魔王様に会え、直接奉仕が出来るのだ。もしかしたら毎日声をかけてもらえるかもしれない。

 白熱した話し合いは次第に力を帯び、争いに発展した。


 その末に私は勝利を収めた。激戦だった。

 ヒデは姑息に立ち回り、シバは回避に徹して隙を伺い、カイは自慢の力を振るい、リンは華麗な技で場を見出し、ヴィは何だか楽しんでいた。

 そうして私は魔王様の介添え役を勝ち取った。


 そして今私の手にあるのは一枚の紙。そこには『クク』の数式が書いてある。

 数日前に介添え役の配置について話した時魔王様は断られたが、必死の説得により了承してもらえた。

 だがすぐに問題が発覚した。

 魔王様が優秀過ぎた。いや、私が不出来だったと言うべきか。

 例えばキッチンと言う場所で行われる即座にかつ大量に魔力を回復させる研究。見たこともない機器が並ぶ中で、魔王様は果実と手頃な大きさに切ると細長い筒に入れ一瞬で液体に変えてしまった。みきさー、と呼ぶらしいが私には使い方すら分からない。

 では清掃を、と思ったがそこはヴィの管轄。私が勝手に行うわけにも行かない。

 配下の現状を尋ねられた時は答えられた、しかし現在の配下の総数を聞かれたときは何も言えない。自分の種族は分かるが他の種族の人数は聞いていない。それに今まで三桁以上の数字を扱う機会がほとんどなく、数の多い計算はしたことが無い。

 不甲斐なさを痛感し、他の族長に話を聞いたが彼らの私と同じで数の多い計算は出来ず、みきさーと言う物も知らなかった。

 私だけではない、という安心と、誰も魔王様の負担を軽減できない、という不安がよぎった。

 だから私は、魔王様に直接教えを乞うことにした。

 今は無理でもいつか、お役にたてるように。




「あ、族長おかえり~」


「ん? ああ」


 どうやら『クク』を見ていたらいつの間にか集落まで戻ってきていたらしい。この『クク』魔王様いわく覚えると大変計算が簡単になるらしい。覚えるのにまだ時間が掛かりそうだが必ず覚えて見せる。


「族長、魔王様に聞いておいてくれた?」


「ああ、聞いておいたよ。ただ、魔王様のお忙しい身の上だからな。こういうことは出来るだけ自分たちで解決できるように」


「分かってるよー。で? 魔王様はなんて言ってた?」


 本当に分かっているのか、本来なら説教をするところだが今は『クク』を覚えるのでいっぱいだ。それに目の前の蜘蛛人(アルケニー)の気持ちが分からないわけでもない。

 今蜘蛛人(アルケニー)の間で作った服を色づけするのが目標になっている。白の服と言うのは森では目立ってしょうがない、と小悪鬼(ゴブリン)から苦情が来たのだ。

 そのため色を付けようという話になったが色つきの糸など吐き出せない。そこで血を塗り赤くしようとした者もいたが、何度か洗う内に消えたり黒くなって汚く見えた。

 汚い物を渡せば自分まで汚く見られてしまう。そこで何とか色を付けようと考えるが案が浮かばず、魔王様に聞いてみるという話になった。

 私も魔王様の介添えになっていなければこの話題に付きっきりだっただろう。今は『クク』を覚えるので忙しいから触れてもいないが。


「植物を使ってはどうか、後は染色を繰り返せば落ちにくくなるやもしれん。そう仰っていましたよ」


「そうか、色つきの液体ばかり考えてそれを作ることを考えてなかった。繰り返すのは色づけかな。さすが魔王様」


「当然です、魔王様に知らぬことなどないでしょう。私は忙しいのでこの話はあなたが回してくださいね」


「了解でーす。族長はやらないんです?」


「私はこれを覚えるのに忙しいので。そうですね、出来た奴だけ見せて。それで十分だから」


 はーい、と返事をして蜘蛛人(アルケニー)は仲間に今の話を聞かせる為にどこかに消えて行った。

 

 あれから数日が経ち私は『クク』を覚えた。しかし二桁同士の掛け算が未だに出来ない。近いうちに魔王様がまた教えて下さるらしいので期待している。


 蜘蛛人(アルケニー)? 染色のための花集めでほとんどダンジョン外にいる。何でも皆が争って取るため花が珍しくなっていうらしい。

 私は参加しないで正解だったらしい。私の目標は一つ。


 いつか魔王様の隣を座ること。


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