小話2話
カイの日常
「よーし、全員作業中止、一旦休憩だ。他で作業をしている奴らにも伝えろ」
腹が昼を告げたので開墾作業を止め休憩を取る。
そう言えば前に魔王様が、トケイが云々と仰っていたような。まあ話を聞いた限り緻密で作れないらしいし、製作は小悪鬼の担当だ。
俺たちは耕して、植えて、収穫すればいい。外の奴らも入れてここも随分と増えたしな、どんどん広げないと。
そんな矢先のことだ。
「これを育てられるか?」
そう言って渡されたのは魔王様が良く食べている青い果実。良く知っている、オワの大森林に生えている果実だ。
これでカジュエンなるものを作りたいらしい。良く分からんが多分役に立つものだろう。
魔王様の言うことは大抵理解できない物だ。前に開墾したというのに作物の育ちが悪い時に相談したら。
「蚯蚓はオワの大森林にいるか?」
最初は何故それを聞くのか思った。いると答えると、捕獲しようという話になった。
運よく中悪鬼の一人が調教師の職業を持っていたので同行してもらい、捕獲しに魔王様自らオワの大森林に。当然同行させて頂いた。
探す途中、魔物が時おり襲い掛かってきたが全て魔王様が目に見えぬ力で潰していた。
蚯蚓はいると思われる水辺まできたら、目的の進化後の森林蚯蚓は突如姿を現した。恐らく蚯蚓の親なのだろう。
さすがの長さに魔王様も驚いた様子で、すぐに潰した。魔物とはいえ俺と同格の相手を驚いたまま殺せるのだから魔王様の力には驚くばかり。
そして捕獲した蚯蚓を育ちの悪かった畑に放つと、劇的とまではいかないが確実に改善されていった。
理由については聞いても分からなかった。ただ魔王様は詳細に分かっての行動だとは分かった。
これを育てることが出来れば、きっと利になるのだろう。
しかし考えてほしい。果実は探せば森にあるのだ。それを今まで育てたことがあるのかと言えばない。
作物を育てるのは大変だ。それは俺たちが一番知っている。とはいえ、魔王様の直々の願いだ。断ることなんてできない。
「出来る限り手を尽くしてみます」
出来ます、とは言えない。やったことがないのだ。作物と木では育ちも違う。
「何年かかってもいい。頼んだ」
まずは種の採取ため、三十程果実を食べる。決して食べたくて食べているのではない。美味しいことは否定しないが。
次に発芽条件だが、これは他の魔族が知っているかもしれない。何せそこらに生えている果実なのだ、食べた時種を吐いたら育った、程度のことがあるかもしれない。
幸い実物は外で育っているのだ。環境も同じ。そこまで難しくはない。
などと考えていた自分が如何に愚かか、すぐに証明された。
植えた種がどれ一つ芽を出さなかった。
理由は不明、環境に問題があるとは思えない、外とほぼ変わらないのだから。では種に問題が、と思ったがいくつも植えて一つも出ないのだ。それではない。
では何か、特殊な条件だ。外とダンジョン内、同じに見えるが何かが足りていないのだ。
それからカイは果実の研究を始めるが、成果が出るのはまだ先の話。
リンの日常
蜥蜴人は勇猛な種族だ。鋭い牙に硬い鱗。また泳ぐことも出来る。
半面、物作りは不得意で耕作などは考えもしない。戦闘に特化した種族。そのため魔王に命じられたのはダンジョンの防衛と外に狩りに出ること。
半分は狩りに、半分はダンジョンの防衛に当たっているが、ダンジョンを襲撃しようとする輩は滅多におらず、日々を訓練しているのだが。
「良し、一旦休憩だ。各自水分を取ると良いらしいぞ」
アリスの訓練を受け、返事も出来ないほど疲弊し地べたに倒れる蜥蜴人達。
アリスの訓練は至極単純、走って素振り、その後全員でアリスを相手する。
持久力と言うのは何においても重要だ。剣や槍を振るのに、集中を保つために、移動するのに。
素振りも重要だ。何度も同じ動作をすることによりより洗練された、無駄のない動きになる。実践で無駄な動作は命に係わる。
実践稽古は重要だ。訓練の結果を出せなければ訓練の意味がない。
訓練の意味が分かるからこそ、リンを含め他の蜥蜴人も根を上げずに努力できる。
回復の早かったリンが水を飲みに地べたを這う。その姿は蛇かワニだ。
顔ごと水辺に突っ込む。口を開いた入ってくる水を飲み干していく。
とはいえ、水辺の水位が変わるわけもなく、歩けるまでは回復したリンは未だに倒れている仲間を水辺まで運んでいく。
「ん? どれ手伝ってやろう」
リンが仲間を運んでいるのに気付いたアリスが何匹か蜥蜴人を掴んで。
ヒョイヒョイっと水辺に投げ込んだ。
これにはリンも目を丸くする。別に仲間のことを案じてではない。溺死するほど衰弱はしていない。
では何故か、今訓練している場所が玉座の間に通じる扉の近くだからだ。
訓練をする場所、というのは基本決まっていない。大体走っている最中にここにしよう、と決まる。そうした方が場所に慣れず、実践稽古をする際に様々な経験を得られるため。
場所としては非常に良いと言える、事実今日は全員が魔王様に見てもらえるかもとやる気を見せていた。
とはいえ、わざわざ扉の前で騒ぐつもりはなかった。騒がしい、叱責されることもありえるから。
しかしそんなリンの気持ちを知らずにアリスはまるで木の枝でも扱うかのように水辺に蜥蜴人を投げ込んでいく。
「あ、アリス先生!」
「何だ? やっぱり投げるのはまずいか?」
手に持っていた蜥蜴人を投げてリンに身体を向ける。
「いえ、ここは玉座の間前なのでもう少し静かにした方が。魔王様に迷惑がかかるかもしれませんし」
「あっはっは! 構わんだろう、どうせ出てこないだろうし」
豪快に笑うアリス。その背にある人物を見てリンは何も言わず後ろに下がる。
「ほほう、伝令のために外に顔を出す程度も考えられのか」
うげっ、とうめき声と共に振り向こうとしたアリスだが、その前に地面に叩きつけられた。動くような気配はない。
「さて、教官が倒れてしまったが。訓練は継続してもらわないと。……リン、今までトーナメントを行ったことはあるか?」
「すみません、分かりません。とーなめんと、とは何でしょうか?」
「そうか、知らぬか。簡単に言えば誰が一番かを決める戦いだ。どれ、今日の稽古はそれをしてみるか。えっと何人いる?」
人数を聞いてすらすらと表を書いていくノブナガ。
それを見てリンもトーナメントがどういう物か理解した。
差を付けるための表だと。一回戦負けと二回戦負けでは大きく差が出る。
更に上に行けば良く程人数も減る。
差が出れば努力しやすい。訓練にも身が入ると言うもの。更に今日は魔王様が主催。
誰もが自らに勇姿を魔王に見てもらおうと力が入る。
当然その中にはリンも含まれており、その日のトーナメントはリンが圧勝して終わった。
それ以降、アリスがたまにトーナメントを開き、それの結果が蜥蜴人の族内の順位になった。




