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小話

しばらく小話です。本編はお休み。

 ヒデの日常




 小悪鬼(ゴブリン)中悪鬼(ボブゴブリン)を束ねるヒデは常に忙しい。

 ダンジョン内の製作を一手に引き受けている悪鬼族。ちょっとした小道具から家まで全てだ。

 しかも最近は外から新たな住人もやってきて、率いる部下も増えるも仕事も増加の一途。

 朝起きればその日に作る物を部下に指示、昼には他の魔族から何が欲しい、これが足りない、と受注して、時には魔王から直接設計図にもならない絵を渡され開発を指示され、陽が沈みかける頃には部下から足りなくなる資材の話が上がり、その資材を他の魔族からもらうために奔走している。日が沈めば後は飯を食って寝るだけ。

 しかしそんな日々にヒデは充実を感じていた。

 なにせ、命の危険を感じないのだ。飢餓で苦しむこともない。今まで餌場で争っていた魔族も今は手を取り合い仲間として同じ魔王の下で働いている。

 ヒデは魔王の下で幸福を知った。




「ヒデ、これを作ってほしいのだが」

 その日もヒデは魔王からある開発を頼まれる。

 魔王から直々に渡された絵を見て、ヒデが最初に思い浮かんだのは馬車だった。過去に移動中だった人族を襲った時に人族が乗っていた物。しかしこれには馬も屋根もない。それに小さく見える。

「魔王様、これは何でしょうか?」

「それはリヤカーだな。物を多く、簡単に運ぶための物だ。群犬(コボルト)豚人(オーク)が物を運ぶのに大変そうだったからな。ちなみに一輪型もあるぞ」

 そう言って追加される絵。こちらは大分形が異なる。積載量も最初に渡された二輪型に比べると少なそうに見える。

 二つの絵を見てヒデが抱くのは魔王への畏敬の念。物を運ぶために物を作る。こんな発想はヒデでは浮かばない。運ぶのが大変なら手を増やせばいいと考えてしまう。

 更に設計図もあっさりと作る。しかも今回は二つ。形も異なるが、動かす姿は自然と想像できてしまう。

 やはり計り知れぬ叡智を秘めたお方。

 冒険者を撃退するほどの力を持ち、配下のことを考えて下さる慈悲と叡智に富んだ魔王。その魔王に使えることにヒデは誇りを感じていた。

 そんな魔王からの開発命令。断るどころか手を抜くわけにも行かない。

「かしこまりました。必ずや作り上げて見せます」

 ヒデはすぐに二階位に達した部下を集めて製作会議を開いた。


「やはり問題は車輪か」


 製作を全て小悪鬼(ゴブリン)に押し付けて集まった中悪鬼(ボブゴブリン)は、互いに意見を出し合い大方の造り方は決まった。

 しかし車輪の造り方だけが難しかった。

 普通なら丸太などをそのまま流用すれば良かったのだが、魔王は普通に軸と車輪を使った車輪を書いてしまっていた。

 そのため多くの中悪鬼(ボブゴブリン)が頭を悩ませる結果になった。


「とりあえず作るか?」


「そうだな、作らんと何もわからん」


 こうして何十にも及ぶ試作品の果てに完成したリヤカー。

 各魔族に大変好評で、魔王からも褒められた一品。

 その所為で他の魔族から受注は増え、魔王からは更に技術力の高い物を要求される。

 彼らが暇になる日は当分来ない。









シバの日常




 群犬(コボルト)は魔族の中でも群れとしての行動と移動能力に優れ、それを見込まれ魔王に伝令と偵察の人を与えられた。

 そのため、群犬(コボルト)の活動範囲はダンジョン最奥の玉座の間から、ダンジョン外オワの大森林と幅広い。


 玉座の間、そこに繋がる扉の前でシバは悩んでいた。それも作業に事で。

 群犬(コボルト)の仕事は大変多い。玉座の間前で待機して魔王様の伝令を受け、ダンジョンの扉前で伏せ、侵入者への警告&集落、魔王様への報告。外に出れば蜥蜴男(リザードマン)と共に狩りを、他に大きな石がたくさんある場所を探す、オワの大森林におり、魔王様の庇護に入っていない魔族を回り異常がないか聞いたり、それはたくさんある。

 とはいえ、作業そのものは簡単だ。やることは多いが人数は十分いる。全員に割り振れば手が足りない、なんてことはない。

 作業は簡単、手も足りている。では何で悩んでいるか。

 各作業の人気だ。

 どの作業を選んでも食料は同じ、どれも重要なこと。なら好きなものを選びたい。

 一番人気は玉座の間前で待機。

 理由は魔王様にお目にかかれるから。魔王様から指示を頂き、それをこなせばどんなことでも褒めて下さる。魔王様はあまり玉座の間から出られないから、お目にかかれるのは各種族の長くらいだ。他の魔族からも羨む声が聞こえている。譲らんが。

 ちなみに一番不人気はダンジョンの扉前で伏せ待機することだ。

 理由は退屈。誰かが来るなんて滅多にない。とはいえ、もしものことを考えれば配置しないわけにも行かない。一番人気と似たようなことなのだが。

 

 今日は魔王様に相談があるから、とやや強引にここについた。実際に相談はしたから問題はない。

 下らないことだ、と笑われる覚悟で行ったが魔王様は真摯に受け止めて下さり、二つ対処法を教えて下さった。

 一つは階級制。この場合はレベルになるそうだ。これはレベルの高いものが好きな作業を選べるという。こうするとレベルの低い者が不遇になるかもしれないが、同時に向上芯が生まれるらしい。問題はレベルが上がる機会が当分こないらしい。となるとレベルを上げられるのは狩りが中心になり、それの人気が上がり、と上手くいかない。

 もう一つはシフトなるもの。全体を上手く管理して全員に平等に作業を割り当てていく方法。これなら分かりやすく不遇、優遇が出ないらしい。問題は考えるのが大変、更に言い寄ってくる輩が現れるかもしれないとのこと。

 どちらもメリット、デメリットのある選択。

 これは一度全員に話を聞いてみるべきか。




「階級制に決まっている!」


「シフト、イイ!」


 食後、全員を集め聞いてみれば物の見事に意見が割れた。

 レベルの高い者は階級制を推し、低い者はシフト性を推す。

 考えてみれば当たり前じゃないか。


「族長! あんたも階級制が良いと思っているのだろう」


「シフト、ミンナイッテル!」


 確かに階級制だと一番有利なのは族長の俺になる。しかし階級制を進めるのは全体の三割、七割はシフト制を推している。

 あまり群れに不和を招きたくない。

 どちらにすべきか、出来るだけ不和を招かない方法を。

 不穏な空気が場に漂い始めた時。


「シバ、いますか?」


 何故かラン殿が来て空気が霧散した。


「ラン殿、どうかしましたか?」


「魔王様からシバに渡してほしいと。サイコロというらしいですよ」


 そう言って手渡される六面の立方体。

 それぞれの面に小さな窪みがあるが、これが何なんだ?


「ラン殿、これをどう使えばいいのだ?」


「魔王様曰く、転がして使うらしいですよ。窪みの数がその面の数字になるらしいのです。これを上手く使えばあなたの悩みの解決になると言っていましたが?」


 これが? と首を傾げればラン殿も首を傾げる。それ以上は何も言われてないらしい。

 ……上手く使う?

 二、三度振ってどうなるか試してみる。どれも違う面が出た。

 ………………!!


「そういうことか!」


 何たる方法! これなら不和を招かずに決めることが出来る。


「ラン殿、魔王様に感謝をお伝えください。叡智を貸して下さった御恩、必ずやお返しすると」


「分かりました。ですがあなたも礼を言いには行きなさいね」


「必ず!」


 それでは、と言ってラン殿は帰って行った。

 背に全員の不安げな視線を感じるが、それを払拭するため勢いよく振り返る。


「全員聞け! 作業の担当をこのサイコロで決める!」


 掲げられるのは六面の立方体。誰もが分からないと言った顔をする。


「方法は簡単だ。まずは作業を人気な順に数字を付ける。その後レベルが高い順にサイコロを振り出た数字が明日担当する作業だ」


「作業は六個じゃないぞ? でもそれは六までしか数字がないじゃないか」


「簡単だ。作業に十分な人数が出たらその作業を消して他の作業をその数字にする。こうすれば高レベルは人気の作業を取りやすいが、あくまで運。低レベルも運次第で良い作業を取れるだろう。まあ、速くサイコロを振りたいならレベルをあげるしかないな」


 これなら不満は出にくい。何せ運だ。それもサイコロを振ったのは自分。文句は言えない。高レベルは不人気の作業に着きにくいし、低レベルも運があれば人気の作業に付ける。


 まさに魔王様の叡智。私では考え付くことはなかっただろう。


 


 その日以来、食後の後に群犬(コボルト)達がサイコロを振っては一喜一憂する姿が見られるようになった。


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