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第二十五話 バッハの最期

 上からは矢が降り注ぎ、前には魔王、後ろには急斜面、下には仲間の死体と張り巡らされた糸。

 絶望的な状況、その中で騎士たちが取れる行動は。


「うわあああああ!」

「死ねえええええ!」


 (魔王)に攻撃するしかない。上からの矢を防ぐ方法はあっても反撃する手段がない。じり貧だ。では後退するか? それも無理だ。急斜面と矢のセットという部分もあるが、目の前に魔王がいるのだ。背を向けるわけにいかない。

 なにより、魔王が手の届く範囲にいるのだ。これを討てば配下の魔族も逃げ出し、この地獄は終わる。倒れている仲間も死んでいなければ助けられるかもしれないのだ。

 

それは絶対に届かない果実のようなものなのだが。


 『守りの戦闘態勢(タングステンの身体)』はアリスが傷一つ付けられなかった身体だ。レベル百前でうろちょろしている輩が、死にもの狂いでかかってきた所で問題はない。

 もし、彼らが決死の覚悟で来れば体勢ぐらいは崩したかもしれないが、彼らを支配する感情は恐怖だ。手に力が入りすぎてちゃんと振ることすら出来ていない。

 その間俺がすることと言えばただ笑って歩くだけだ。笑った方が囮として役に立つし、歩かないと俺の周りが死体で埋まる。

 しかしこの歩くという行為が大変疲れる。全身金属で体重が何キロあるか想像がつかない。一歩に全力を出しているのだ。まだ歩数が二桁にも達していないが限界と言っていい。

 



「退けえぇ! この窪地から全員退けえ! この魔王はワシが預かる!」


 立っている数も五十を切りそろそろ終わりが見えてきた頃、バッハは立ち上がり血を吐きながら叫んだ。

 誰の目から見てもバッハは瀕死だった。いくつもの矢が刺さり、鎧は凹み胸を圧迫し、片腕は引きちぎれ、槍を持つ腕も血が滴っている。……あ、鎧と腕って俺が踏んだ所為だ。

 生きている方が不思議な怪我を負いながらも叫んだ決死の気迫に、騎士たちは我に返りそれぞれが頷いて行動に移った。

 残った騎士の大半がバッハを守るように集い、十人程が窪地から逃げようと斜面を走りあがる。

 何人かが矢の雨を耐え、窪地の外へたどり着いた瞬間。


「ガアアアァ!」


 待機していた豚人(オーク)に斧で叩き潰され、蜥蜴人(リザードマン)に槍で刺し殺された。

 その中で。


「こっちだ! 弱い群犬(コボルト)しかいないぞ!」

 

 一筋の光明が差した。

 すぐに騎士たちはバッハを連れてこの地獄から抜け出そうとしたが。


「ワシは良い、あまり長くは持つまい。それに魔王を足止めせねばな」


 瀕死の身体で俺に向けて槍を向ける。

 バッハを置いていくことに騎士たちは躊躇ったが、バッハの視線を受けて顔を歪めて頷いてその場を後にする。

 とはいえ、足場に糸、上からは矢だ。無事に辿りつけたのは二割ほど。すぐに俺のいる所からは見えなくなった。

 ……うん、やっぱり包囲は一部開けないと危ないよねえ。


 全員に射るのを止めさせ、俺は初期状態に戻る。


「魔王様!? まだ目の前に敵がおります! 油断なさっては」


「大丈夫だ女郎蜘蛛(アラクネ)。そいつはもう死んでる」


「え!」


 蜘蛛らしく糸で素早く降りてきた女郎蜘蛛(アラクネ)は俺とバッハの間に立ち構えるが、俺の言葉に驚く。

 バッハは騎士たちが窪地から抜け出したのを見届けてすぐに息絶えた。恐らく気力だけで耐えていたのだろう。

 女郎蜘蛛(アラクネ)はバッハの死を確認すると感心した様子で。


「人族は器用な死に方をしますねえ」


 と漏らしていたが、そんなことが出来るのはそいつの他には典韋か弁慶くらいだと思うぞ。後でその勘違いは訂正させておこう。


「逃げ出した敵は」


「十三名でした」


「十三か……。群犬(コボルト)に伝令。組を二つにして罠に追い詰めろ」


 そばに控えていた群犬(コボルト)が走っていく。それと同時に上にいた蜘蛛人(アルケニー)小悪鬼(ゴブリン)を抱えて降りてきた。


「ここにいる全員は後片付けだ! 死体から全部剥ぎ取れ。使えそうか使えないかは俺が判断する。後矢も回収しろ。使用可能かの判断は個人に任す」


 さて、逃げ出した騎士はどうなっているかな。


 

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― 新着の感想 ―
タングステンが硬いのは理解しているが、そこにレベル制の補正がかかってたりはしないのかな。いくら硬くても、低レベルのタングステンに負けるレベル170付近はゲーマからして不思議に思えてしまう。
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