第二十三話 騎士団VS魔王
幸いと言うべきかダンジョンの扉は大きく騎乗しながらでも入れた。とはいえ幅はそこまで無いので一人ずつだが。
ダンジョンの中は森だった。先程まで進んでいた森だ。
扉の近くはまだ開けていたが、少し離れれば茂みばかり。一人で行動しては危険と判断して、迂闊に偵察に出ず扉から部下が出てくるのを待つ。
「せっかく森を抜けて丘の上に進んだのにまた森ッスか! やだな~」
下らんことを言っているのは誰だ! と睨んでみれば言っていたのはやはりライル。姑息にもワシの拳が届かんところで言っているのが憎々しい。
怒鳴りつけてでも呼びたかったがここはすでに魔王の支配域、迂闊に大声を上げるのは躊躇う。
怒りに震える拳を必死に抑え、もう少しで全員が入ってくる騎士団を見てふと思いつく。
「ライル、辺りの偵察に行って来い。そして騎士団全員が集う前に戻れ。分かったな」
「え~、超こわ……へいへい」
黙れ、と視線に込めて睨むとライルはしょうがないと言った様子で、馬から降りてそそくさ森の中に入っていった。嫌味なのかワシがいる方向とは逆方向に。
それから少しして騎士団が全員入ってきた。しかしライルはまだ戻らない。
「バッハ団長、そろそろ行動された方が」
「いや、待て。ライルが戻るまで待機だ」
もし偵察に行かせたのが他の団員ならやられたと判断して行動に移していただろう。しかしライルは別だ。あいつは元冒険者だ。その辺りの勘はワシらよりも良いし、何かあれば何らかの方法でこちらに知らせるはず。
だから今は新たに偵察を出すよりも、下手に進むよりも待つのが最善――。
「ガガゥ!」
「団長、前方から群犬が」
小癪な! 奇襲すれば倒せるとでも思ったか!
前の茂みから飛び出してきたのは三匹の群犬。ただの群犬にしては速い方だがまだ甘い。
槍の間合いに入った瞬間突き殺してやろう、槍を握る腕に力が入るが勘が良いのかワシ目がけてきた群犬は間合いギリギリで反転。他の群犬も団員に一当てしてから反転。出てきた茂みの中に逃げ込んだ。
やすやすと逃がしてなるものか!
「逃がすな! 追え!」
群犬風情が馬の速さから逃げきれると思うな!
ライルを除いた騎士団全員で群犬を追い森の中に入る。
根が張り、所々盛り上がる地面の所為で上手く速度が乗らないが、少しずつ群犬に近づいていく、
あと少しで槍の間合いに入る。突き殺せる。という所でいきなり森が終わった。
そしていきなり広がる窪地。馬の勢いを止められず窪地に入り、投げ出された。
「ぬあぅ! ガフッ、ゲフッ」
何が起こった!
後ろを見れば馬が倒れ、足元には白い糸が。それに引っかかり、馬が倒れ投げ出されたようだ。
周りを見れば同じように倒れている部下が多数いる。身動きをしない者さえ。
嵌められたのだ! 群犬いや、その後ろにいる魔王に。
幸いこの窪地に落ちたのは半分ほどだ。もう半分は窪地に気づき止まっている。上にいる団員が冷静になればワシらを救出することも。
「何をしておるバカモノ! とっとと助けに来んか!」
森に響くワシの怒鳴り声。団員なら聞きなれたはずのワシの声。
だがワシは何も言っていない。落馬した衝撃で胸を強く打って言葉すらまともに出ない。
なら誰か。魔王だ、魔王の仕業だ。
「ガッハ! ゴフッ」
罠だ! と叫ぼうとしても上手く言葉が出ない。その間に団員が慌てて降りてきて白い糸に引っかかって転び、罠に気づいた団員は下馬してから降りてきたがその数は五十人程だった。
「団長、ご無事ですか!」
「に、逃げ……」
すでに窪地に騎士団全員が入ってしまった。何を考えているか知らんが魔王はこれを狙っていたはずだ。
その考えは正しい、とばかりにはるか上から窪地に真っ黒な何か落ちてきた。
「どうもお初にお目にかかるハウスター辺境伯の騎兵の皆さん。魔王ノブナガだ」
魔王だった。真黒な帽子とロングコート着込んだ。服の隙間から銀灰色の肌が見える魔王だった。
「遠路はるばるご苦労だったな。疲れただろう? 休むと良い、永遠にな」
直後、頭上から矢の雨が降ってきた。