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第二十二話 鉄腕バッハ

「団長、魔族どもの集落は潰さなくていいんッスか?」


「捨て置け。今回の目標は魔王のみ。それとライル、その口の聞き方をどうにかしろ。冒険者上がりとはいえ容赦せず殴るぞ」


「すみません! 鉄腕のおっさん殿」


 直後、森に轟音が響き渡る。

 鉄の拳骨を受け馬上で器用に痛がるライル。転げ落ちれば良い物を。

 

 ワシらは今オワの大森林東部へ来ていた。

 事の発端おおよそ二か月前。神殿から「オワの大森林にて魔王誕生の予兆あり」と神託が下ったことが始まりだった。

 すぐに軍を起こし討伐に向かうべし、とも思ったが場所があまりに悪すぎた。

 オワの大森林と言えば大陸の中でも最大規模の森。そこから魔王を探し殺せ、というのは大変な作業になる。

 それにオワの大森林の北には王国に比肩する帝国がいる。東には国家群共が。もし安易にワシら騎士団が出向けば軍事行動と取られるかもしれない。

 では帝国か国家群共に任せれば良いのかと言えば違う。帝国は西の山脈を根城とする魔王と交戦中。国家群共も辺境の村を魔王に襲われては国境線を越えられ逃がす、なんて失態を繰り返している。

 そこで雇われた冒険者共。オワの大森林を縦に西部、中央、東部と分け横に前域、中域、後域と計九つに分け偵察隊を出した。

 数週間後、帰って来た冒険者のパーティー八つ。帰ってこなかったのは東部の中域を担当していた冒険者のパーティーだ。これでおおよその見当は付いた。

 しかし問題もあった。そのパーティーが偵察隊の中でも最も強く全員がレベル百越えの猛者達。それが一人も帰還できなかったとは……。

 誕生したての魔王としてはかなりの力を有している。これ以上放置して力を蓄えさせるわけにはいかない。とはいえ生半可な力の持ち主では魔王の餌食になるだけ。

 朗報が届いたのは全員が鬱屈とした気分だった時だ。国家群で話題の魔王を斬ろうと『剣聖』の一番弟子、女剣士アリスが近くまで来ているとのこと。

 辺境伯はすぐに人を派遣してアリス殿に協力を頼んだ。

 元々魔王を斬ろうとしていた、近場にいるならそれで良い。とあっさりと引き受けてくれた。

 そして辺境伯の屋敷に現れたのはとても美しい女性だった。それで凄腕の剣士というのだから中々信じられるものではない。

 同じ思いだった騎士も何人かおり、ワシらは稽古ということで勝負したが。

 物の見事な惨敗だった。途中から剣がもったいないと『手刀』で相手されたが結局一撃も入れることができなかった。

 そのアリス殿がオワ大森林に入ったのがおおよそ一か月前。討伐の報告はない。

 これには辺境伯を始め、王国の重鎮たちも大いに焦り驚いた。

 アリス殿級の腕なれば国が囲み絶対に他国に渡さないほど貴重だ。国家にあるの国程度なら国一の剣士の称号も得られるほど。

 そのアリス殿が敗れたのだ。個人でどうにか出来るのはそれこそ『剣聖』でも呼ばねば返り討ちに遭うだけだろう。

 実際に『剣聖』を呼ぶと言うのも考えられたが『剣聖』は権力を嫌っていた。国王の召喚命令すら無視して、激怒した国王から差し向けられた騎士団を全て切り倒して国王を脅した程だ。呼びかけに応えるとは到底思えない。

 残った選択肢はワシらハウスター辺境伯軍が討伐に向かうこと。これは難しいだけで無理ではないのだ。アリス殿を返り討ちにする魔王となれば国家群共も野放しには出来ないだろう。帝国は無視して良い。あいつらは敵だ。

 それでワシらが討伐に出発できるのに一か月かかった。それも派遣できるのは五百まで。国家群への配慮だとか帝国への対応などの関係でだ。まあ、精鋭の騎兵で行けば何の問題もないが。

 それよりこんな簡単な説得に一か月もかかったことが信じられない。辺境伯に言わせれば、これでも奇跡的なまでに速い、と言うのだ。これだから政治には関わりたくない。




「バッハ団長!」


 東部中域に入り、警戒しながら進軍していると偵察に出していた騎兵が戻ってきた。


「どうした?」


「この先の丘の前でこれが落ちておりました」


 その騎士が持っていた布袋は辺境伯がアリス殿に渡した魔法道具(マジックアイテム)。通常の物より倍の容量がある特殊な道具。

 アリス殿がそこで戦われた? いや、目印か。


「その丘周辺には何かあったか?」


「丘の周囲にはなにもありませんでした! ですが、丘の上に不思議なものが」


「不思議なもの?」


「はい。丘の上に扉だけが置かれておりました」


 扉だけ? 何故扉だけが?


「ああ、それダンジョンッスな~」


 不意に後ろから聞こえたライルの声。ワシが睨むとそそくさと別の騎兵に隠れた。


「ライル出てこい。何を知っている」


 藪蛇だった、と後悔しているライルが出てきて殴りたくなったがここはぐっと我慢する。


「知っていることなんてないッスよ。ただ変な場所があってその前にアリスちゃんの物が落ちてたってことはそこが魔王に関係しているって思っただけですもん」


 だから口の利き方が……、拳を振り上げるが振り下ろすのは我慢する。言っていることは正しいのだから。


「良し、偵察に出ていたお前は先行を頼む。全員駆け足で進むぞ! それとライル、これが終わったらお前の口の利き方を矯正してやるからな!」


 うひぃ! と後ろから情けない悲鳴が聞こえた。口の利き方の他に情けなさも直さないといかんらしい。


 進むこと少し。すぐに丘に付いた。そこには確かに丘の上に大きな扉が置いてあった。

 ここに魔王が。必ず敵を討って見せますぞアリス殿!


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