第二十話 騎士団対策準備中
両手を細々と動かし糸と睨めっこ。どれほど時間が経ったかは分からんが、そろそろ布と呼んでも良いくらいにはなったか。
「魔王様、昨日仰っていた蜘蛛人の糸をお持ち――あら?」
「女郎蜘蛛か。丁度良かった、お前らの糸で出来たものだ。不出来だが」
俺はそう言って女郎蜘蛛から糸を受け取り、代わりに出来たばかりの布らしきものを渡す。
「私たちの糸で編んだ布ですか? 外の人族は私たちの糸でこういった物を作るとは聞いたことがありますが、魔王様も出来るのですね」
「ハッハッハ、思うように編めなかったがな。その様子では編み方は知らんようだな。後で教えるから全員に長い布を作らせてくれ。服とはいかぬがそれを体に巻きつければ騎士団の凶刃からも身を守れるかもしれん」
「かしこまりました。この布を頂戴してもよろしいですか?」
試作品として渡した布を広げる女郎蜘蛛。俺が「やる」と言うと自分の腕に巻きつけ、両端を合わせると指先から小さな火を出して溶かす。溶かして合わせてしばらくしてから離すと。
そこには布らしきものからリストバンドらしきものに進化した物が。
「このようにすれば簡単に出来上がります。問題があるとすれば私以外に火の魔法が使える魔族がいるか、ということですが」
「そこについては考えがあるから大丈夫だ。しかし驚いたな、溶かした部分はくっつくのか。蝋のようなものか、それとも接着力があるのか?」
「接着性がございます。私達では重傷を負った仲間の傷口に使うなどしておりました」
糸+接着剤か。思った以上に重要なものになりそうだな。
俺は本から壊れた槍を取り出し、女郎蜘蛛に渡す。
「これも付けられるか?」
「容易いことです」
本当に簡単だったようであっさり直った槍が帰ってきた。
収納してみると表示が『壊れた槍』から『修復された槍』に変わっていた。
「女郎蜘蛛、後で集落によるからその時に編み方を教える。それと、毎日少しずつで良いから糸を貰いたい」
「かしこまりました」
「魔王! やっと見つけた。探していたぞ」
借りた群犬達に特殊訓練を課していると、何故かアリスがやってきた。
「何の用だ。戦闘指南を言いつけたはずだが」
「それについてだ! 槍と弓が無くては教えようがない。あとついでに私の剣も」
ああ、そう言えば渡し忘れていたな。確か各種族が挨拶しに来たときの献上品に槍や弓がたくさんあったはず。
本からまとめて出すと目の前にちょっとした武器の山が出来た。それなりの量に嬉しい俺とげんなりとしたアリス。
「あのな魔王」
「分かっている、収納して俺が運ぶ。まあ、群犬達もそろそろ限界だったし丁度良いか」
「それなら良いが。その、群犬達が行っているのは訓練なのか?」
アリスが不思議がるのも仕方がない。群犬達は俺を中心にしてぐるぐると走り回っているのだから。勿論遊んで欲しいなどと意思表示ではない、俺が命令させているのだ。
「こっちに来てみろ、すぐに分かるぞ」
訝しげに見てくるアリスだが、一歩踏み込むとすぐに納得した。
「そうか、魔王の技能か」
「そうだ、彼らには少しでも持久力と速さを上げてほしい。だから負荷をかけた状態で走らせていた。……よし、休憩! お前たち休んでいて良いぞ」
「なあ、後で私にも」
「戦闘指南に必要ないだろう」
「いや、私自身の訓練に」
冗談じゃない。今の訓練だって『重力』二倍で最大規模の発動だ。それなりに魔力を取られる。おかげで青い果実を偵察中群犬に採らせているくらいだ。それにこれ以上俺が食えない。
「気が向いたらな」
「頼んだからな!」
武器を送り届けた帰り、俺はある場所に来た。
外へ繋がる扉から少しだけ離れた、比較的に開けた場所だ。
そこでは小悪鬼達が作業している。
作業は二つ。大きく書かれた円の中にある木々を切り倒す少数と、細長い木に平べったい石をくっ付けている多数。
「これは魔王様。今はまだ作業を始めたばかりで報告できることは何も」
「良い、作業を始めようとして問題が起こってないか見に来ただけだ。順調に進んでいるようで何よりだ」
俺が命じたのはここ窪地作ること。範囲として書いたのが大きな円だ。
そのため円の中にある木々の伐採。そして掘るためのシャベルを製作中というわけだ。
ただ斧が少ないために伐採に時間が掛かるが、別に何の支障もない。
「掘った土は扉側の円の外に緩やかな坂を作るように積んでくれ。決して壁にはならないように」
さて、この後は蜘蛛人に編み物を教えて、粘液生物と話して罠を……。
忙しいまま俺はその日を終えた。