第十九話 魔王の面接
彼らいわく、これ程までに配下に気を配る魔王はいないらしい。
おかしいな? 確かに初めての配下だし大切にしようとは思っているが、泣くほど気を配ったつもりはないぞ。
食の安定供給は当然だ。上に立つ者の責務と言ってもいい。もし仮に配下を飢えさせてでも見ろ、謀反で俺の首が飛ぶ。常時『守りの戦闘態勢』でいられるわけでもないのだから俺の安全のために重要なのだ。
特性を聞いて適正ごとに分けるのも効率が良いからだ。粘液生物に農業をどうやらせろと言うのだ。それに多種族いるのだ、お互い長所で短所を補えればと思う。
そんなわけで二者面談を実施。面談は玉座の間で。待機組は私室で暇を潰してもらう。
剣士アリスの場合。
「……長所か。剣を振るうのは得意だが折られてしまったし。ああ、狩りくらいは出来るぞ。『手刀』使えばそこらの魔物なんぞ六等分に出来る」
「狩りについてはしなくていい。他の奴に回す。それより聞きたいのだが扱える武器は剣だけか? 槍や弓は無理か?」
「一応師匠から武器を一通り扱えるようにさせられたが、剣に比べれば見る影もないものだぞ」
「扱えるならそれで良い。お前はこれから戦闘指南役だ。各種族から数人ずつ兵を出させる。そいつらに槍か弓を教えてくれ。その二つが扱えない場合は他の物でも良いが出来ればこの二つのどちらかにしてくれ。剣だが後で使える物を渡してやる。まあ、冒険者の遺品だが」
「分かった、槍と弓を徹底して教え込めばいいんだな。剣については遺品だからと気にするつもりはない。遺体があり使えそうなら私も使うだろうしな」
「そうか、なら以上だ。……ああ、そうだ聞き忘れていた。お前は魔法の袋を持っていないのか? 色々入るあの袋だ」
「ああ、それなら」
いくつかの集落を襲っている間に落とした。アッハッハ。
……アホ娘がッ!
中悪鬼の場合。
悪鬼特有の緑の肌。身長も小悪鬼を超えて俺よりもやや上。体も少し鍛え上げられて見えるのは気のせいだろうか。
「お初お目にかかります魔王様。このようにお目通り叶いましたこと――」
「ああ、いーからそういうの。いくつか質問をしよう。まずは君ら種族の長所だ。次に君たちの前集落から何か持ってきたか? 手ぶらで来たとは思えないんだが」
「長所についてはすぐに思いつきませんので、先に持ち込み物についてですが、私たちが持ってきたのは種と護身用の槍を少し。今は集落に置いて手持ちにはありませんが」
「そうか、あるなら後で持ってきてくれ。後は長所だが、いきなり言えと言われても出るわけがないな。……ふむ、手先は器用か? もし器用なら武器の作成と土木建築に手を貸してほしいのだが」
「謹んでお受けいたします」
軍犬の場合。
まさに二足歩行する犬だった。群犬に比べると目つきが鋭く、体を二回り以上大きくなっている。気のせいかもしれないが毛も硬くなっているように感じた。
「さて、このように対面して話すのは初めてだな。いつも面倒な伝令を押し付けて申し訳ないな」
「とんでもございません。命令を下さればいかなることも成し遂げて見せましょう」
「そう言ってくれるとありがたい。さて、君らにだが伝令役をやってもらおうと思っている。後足の速い三名を私に預けてくれ。彼らには騎士団撃退の重要な任務に就いてもらおうと思っている。それと時折オワの大森林の様子を見てきてくれ。ふむ、伝令と偵察と言う地味な仕事になるが受けてくれるか?」
「仰せのままに」
猪豚人
そいつが入ってくると同時に玉座の空気が汚染されたかのように変わった。悪臭だ。猪豚人の体臭がきつすぎて頭が痛くなる。後で適当に理由を付けて水浴びさせようと思う。
「デークと申します、魔王様お見知りおきを」
「名付きか。よろしく頼む魔王ノブナガだ。さて、君らの仕事だが」
「そのことですが魔王様。我ら農耕、農業を得意としております。鼻を使えば悪しき場所も分かりますし、外に出れば珍しい物を見つけることが多々あります」
「そうか、そこまで分かっているなら言うことはないな。では種を渡しておく。上手く育ててみてくれ」
「かしこまりました」
蜥蜴隊長の場合。
詳細に見るのは初めてだが蜥蜴隊長は一人で異様に緊張した場を作り出しやすい。まるで一歩一歩が意味ある動きに見え何とも精神的に疲れさせられる相手だった。
「さて君らだが、水は入れるかね? もし入れるなら外と中の水質を調査。それ以外は豚人と共に農業に携わってもらおうと思ったんだが、良いかな」
「了解、しました」
大粘液生物の場合
まず喋られるのかというのが最大の疑問だった。しかし魔族だ、魔族語が扱えると言うことはしゃべられると言うことなのだろう。
どう話すのか期待して待っていると大粘液生物の中に気泡が生まれ体の外まで出ると割れ。
「初めまして」
少年のような若干高い声が出てきた。
「ほう、粘液生物とはそう話すものだとは知らなかった。興味がそそられるが、その前に君たちはどんな特性があるんだね?」
「どんなものでも、溶かせます。それが私たちのごはんです」
「ほう、草や鉄でもかい?」
「溶かせれば何でも。好き嫌いは特に」
「分かった、申し訳ないが君たちには廃棄品の処理に回ってもらうかもしれない。済まないと思うが」
「とんでもない。ごはん沢山です」
「そ、そうか? そう言ってくれるんならありがたいが」
女郎蜘蛛の場合
蜘蛛人はクモの下半身に上半身が美人の女性という組み合わせだが、女郎蜘蛛になると美人も妖艶さが増し、見るもの全てに劣情をかもし出させる美しさになっていた。
女郎蜘蛛は入ってくるとすぐさま俺に白い糸を渡してきた。
「魔王様、よろしければこちら。蜘蛛人の糸でございます。蜘蛛人からしか採れない物で、耐久性、刃耐性が高く簡単には切れません。代わりに熱に弱く簡単に溶けてしまいますが」
俺は受けとり本当に耐久性が引っ張ってみたが千切れず、本当に頑丈で驚いた。
これならあれが作れるかもしれない。
「女郎蜘蛛、もう少しこの糸を貰えるか? ある物が出来上がればお前たちの仕事が決まるだろうから待っていろ」
この糸は最大の収穫かもしれん。
こうしてその日の面接は終了した。