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第十五話 最硬の魔王

 私の剣先は確かに奴の頭上を捉えた。相手が反応できない完全なタイミングで『スラッシュ』を使い、魔王は縦にまっすぐに裂かれるはずだった。

 なのに今、魔王は平然と立っている。

 代わりに私の持っていた剣が折れていた。

 

 何が起こったんだ。

 手に持つ名刀は折れ、先程までみすぼらしい服装に顔に三つほど穴を開けた顔の黄土色だった魔王が、いつの間にか真黒な帽子とロングコートを着込み、その隙間から見える顔は銀灰色になっていた。


 呆然としたのは一瞬。すぐに私は折れた剣を捨て『手刀』を発動。剣が無くても代わりに手に剣の代わりをさせ、剣士の技を使わせる『上級剣士』の技能(スキル)

 当然攻撃力は落ちるが今は構わない。愛用の剣を壊された以上一矢報いねば気が済まない。

 

 一撃で相手を両断できる『スラッシュ』、高速の二連撃で相手に十字の傷を負わせる『クロス』、無数の突きを浴びせる『クイックラッシュ』のコンボ。

 初撃で相手に傷を負わせ、その上に更に傷を、そして傷の重なる場所に突きを繰り出す。どんなに堅い相手でも少しは傷つく。そしてその少しの傷から徐々を広げて勝ちを拾ってきた。

 そう、今までは。


「…………化物」


 魔王は私の連撃をまるで何も無かったかのように立っている。そもそも、魔王の服すら傷つけることが出来なかった。


「中々に失礼な奴だな」


 気にした風もなく、魔王はあっさりと聞き流す。

 魔王がもし戦おうとすれば私は負けるだろう。恐らく戦いにもならない。

 この魔王は恐ろしく硬いのだ。技能(スキル)などで強化しているのではなく、素で私の名刀を受けても傷一つ付かず、逆に剣をへし折れるほどに。

 それを知る代償として私は両手が砕かれた。いや、魔王は何もしていない。私の手が魔王の硬さに耐えられずに砕けたのだ。

 もはや『手刀』は使えない。剣も折れ、心もすでに折れ掛かっている。


「どうする? まだ戦うかね?」


「ハッ、戦う? 私がじゃれついて勝手に自滅しただけだろ。お前は何もしていない」


「そういえば、そうだった。いやな、この体を使うのは初めてでな。どれほどの攻撃に耐えられるか確認していたのだよ。君の猛攻でも傷一つ付かない所を見ると、このタングステンの身体はどこに行っても通用しそうだな」


 ハッハッハ、笑う魔王に私は絶望の淵に落とされた。

 奴にとって今までのは実験だったのだ。どれほど使えるのか試していたのだ。私も新しい剣を手に入れたら試し切りとして格下を狩りに行った。

 それほどまで強さに差が開いていたのだ。だから魔王は名乗ったりふざけたことを言えたりできたのだ。

 

「さて、ではどうするかね?」


「何だ殺すのか。……負けたのだ、好きにするがいい。それに私が負けたことが分かれば次は騎士団が出てくるだろう」


「ほう、やはり主力が敗れれば今度は数で来るのか。その中にお前より強いのはいるのか」


「いない」


 いるわけがない。あんな訓練ばかりして強敵と戦わず、雑魚の処理をしているだけの騎士団に私を超える者など。


「ならば大きな問題はないな。どれほどの量が来ようが、この体に傷一つ付けずに終わるだけだ」


 その通りだろう。私に傷を負わせることが出来なかったのだ。軟弱な騎士団がどうにかできるとは思えない。この魔王を傷つけられるのはそれこそ『剣聖(師匠)』くらいなものだ。


「では、もう一度聞くがどうするかね?」


「どうするもこうするも、殺せばいいだろう。私は敗れたのだ」


「そんな勿体ないことするか。私の配下となるか、もしくはこのダンジョンに監禁されるかだ」


 私はまじまじと魔王を見てしまった。人族を配下に加えようとする魔王など物語上でも見たことが無い。

 話しに聞く限り魔王は自分の種族の配下しか信用しない。他は配下にしても前線に送り、人族と見れば襲い掛かる。

 それなのに目の前の魔王は何もかもが違った。人間らしさがどこかにあり、賢く強いのだ。


「何を私にさせたいんだ」


「色々、まあ今は人手が不足していてね。何でもやらせるつもりだよ」

 

 ……どうするか。閉じ込められて死を待つか。魔王に付き従い生き伸びるか。

 考える間もなく答えはすでに決まっていた。


「分かった、剣士アリス。魔王ノブナガの配下になろう」


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