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第十四話 我が名は

 困った。一切名前が思いつかない。

 名乗ると言ってしまった以上、女剣士が玉座の間に辿り着く前に決めなければならない。

 けれども考えて考えても良い名が分からない。

 そもそもこの世界の名前で使われているなんてオルギアしか知らない。そのオルギアすら元は人間の名前なのだから魔王の名前の参考にもならない。

 何か参考になりそうなもの、と本を開くとそこに映し出されたのはダンジョンの様子と女剣士の姿だった。

 ダンジョンの様子は扉の周り以外に避難してきた魔族が広く散らばっており、すでに集落を見つけた者もいてそこに集まり始めている一団もあった。

 女剣士はと言うといつでも戦闘態勢に入れるように剣を抜いたまま、周囲を警戒しながら歩いていた。時折近くに魔族がいると一睨みして追い払っている。どうやら無駄に襲い掛かるつもりはないらしい。

 その様子をじっと見ていると、スッと女剣士のステータスが表示された。


《名前》 アリス

《種族と階位》 人間族  Lv168

《職業》 上級剣士


 何ともまあ、純粋に驚いた。

 まずはレベルの高さ。百を超えれば一流。二百を超えれば規格外。この女剣士は一流を超え、規格外への道が見えてきたレベルなのだ。

 更に職業。オルギアは『拳闘士』を持っていたが中級だ。それに対してこの女は『剣士』の上級。この点ではオルギアより上と言うことだ。

 恐ろしい相手が来たものだと、俺はどこか他人事のように思っていた。

 すでに俺が出来ることは名前を決める以外は全て終えている。少しおかしな言い方になるが、詰んでいるのだ。どちらかはまだ分からないが。

 それにしてもアリスか。……魔王アリス。確かに良そうだが女の魔王の名前だな。二重の者(ドッペルゲンガ―)に性別があるかは知らないが、俺は男のつもりだ。

 やはりこの名を名乗るか。

 最初に魔王の名前、と考えて出てきた人名。しかしそれは『異界の知能』から出てきた名前であり、この世界に合う名前だとは思えなかった。

 他に名前が浮かべば良かったのだが、多分もう時間がない。

 本を見れば女剣士は水辺の近く、おそらく扉も見つけただろう。

 

 ギィ、と音を立てて扉が開く。


「そこの水辺で洗えと言わなかったかね?」


 入ってきた女剣士は相変わらず血に塗れて、怖い顔のままだった。


「どうせお前の血で汚れる」


「それどうだろう? 私的な考えで確証を経ていないが、君が斬ろうが斬れなかろうが血は出ないだろう」


「何?」


「まあ、そんなことはどうでも良い。約束だから名乗ろう。私は二重の者(ドッペルゲンガ―)の王。そして名を」


「ノブナガという!」




 この魔王はさっきから何を言っているんだ?


 思えばこの魔王と最初にあった時も同じことを思った。その身から放たれる威圧感から魔王だろうと聞いてみれば名乗ろうとする。

 こちらがその真意を考えていれば、魔王は中にいる魔族は襲うなや身を洗ってから来いなどと到底魔王とは思えない発言をする。

 魔王と言うは魔族を従え、力で持って支配を企み、人族を見れば襲い掛かってくる生物ではないのか。少なくとも私が今まで聞いた話ではそうだった。

 考えるのが面倒になり斬りかかろうとすればダンジョン内に転移された。そのまま追ってみたがすでに姿なく、ダンジョン内に魔族は見かけるが見ただけで逃げて行く者ばかり。

 お前らは魔王の配下ではないのか。魔王の殺しに来た私から逃げて良いのか。

 ここにいては調子が狂う、すぐに魔王を殺して帰ろう。

 ダンジョン内を歩いてしばらくすると水辺を見つけた。そして魔王の言葉通り近くに扉がある。

 魔王の助言通りならこの扉の先は魔王の間なのだろう。しかし罠という可能性の方が高い。なにせ魔王なのだ。

 水辺には出来るだけ寄らず、扉もゆっくりと開け中の様子を伺うとそこには玉座の間に座る魔王の姿。

 こちらに気づくと魔王は顔を顰めて私が血塗れなことを指摘してきた。

 これ以上調子を崩される訳にいかず、言い返せば意味の分からないことを言う。血が流れていないのか? 人型の魔族はほぼ血が流れているはずだが。

 私の疑問を魔王は置いて、勝手に名乗りだした。しかも何だが楽しげに。

 それにしても、なんとも。


「おかしな名前だな」


「うっ、やっぱりそうなのか。しかし魔王らしい人名だとこの名が一番だと思ったのだが」


「知るか、死ね」


 指摘され落ち込む魔王。まるで人間を相手にしているようでやりづらいし調子も狂う。だから相手のペースに合わせず斬りかかる。


「ふむ、では『重力』十倍」


 は? 

 気が付くと私は地面に叩きつけられていた。何をされたのか分からない。今も押し潰そうと異様な圧力がかかっている。

 それに負けぬよう全身に魔力を回し、ゆっくりと立ち上がる。身体能力強化を使えば少しは楽になった。


「貴様の技能(スキル)重圧(プレス)系のようだな。どんな方法かは知らんが」


「ん? 違うぞ。しかし凄いな、十倍では倒せぬか。しかしこれが今の最大。仕方ない」


 ふっと体が解放され軽くなる。魔王が攻撃を止めた。この瞬間を見逃すわけにはいかない。

 一息で飛び、魔王の頭上を取った。

 魔王も何かしようと前に腕をクロスさせていたが遅い。

 一撃で決める。


「スラッシュ!」


「変身!」




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